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終わらない長電話とともに #別居婚

「まだ寝ないの?」
夫とテレビ電話をするとき、わたしは絶対これを言う。

遠距離恋愛をしていた頃は、早起きする彼への「気遣い」だった。何時間話してもまだ全然足りないけど、彼は朝5時起き。眠そうには見えないけれど、早く寝た方がいいに違いない。「明日早いでしょ、眠いなら無理しないでね」と、画面越しに健気な思いを伝えていたのだ。

あれから3年、ことばの意味は全然違うものになった。私たちは結婚したものの、夫の仕事の都合でバラバラに暮らす別居婚状態に。そのため週2~3日はテレビ通話をする習慣は相変わらずだ。でも、わたしの「まだ寝ないの?」の意味は変わった。「もう十分話したよね、早く寝た方がいいよ。いや寝てくれ!もう電話を切ろうよ!!!」と、テレビ通話を中断させたい思いが込められるようになったのだ。

夫とのテレビ通話は、始まると長い。「10分だけ話そう」と始めたつもりが、気づけば1時間以上経過していた日も珍しくない。時間が消えるように流れていく。まだ会話内容が有意義なものならいいけれど、当然くだらない話だらけ。昨日は買う予定のない中古物件の話とかだっけ? ほとんど脳みそを介さず会話しているので、ほかの話題はもはや覚えていないけど。

しかも、電話が始まるタイミングも悪いのだ。「よし!!今日こそは、溜め込んだ家事/noteの執筆/読書するぞ!!!!!」と、やる気がある日に限って長電話が始まってしまう。私のやる気を感知しているのだろうか? 毎度のように「せっかく今やろうと思ってたのに~~」状態だ。長電話が終わると珍しいやる気もどこかへ消え去り、結局何もしない夜が終わっていく。

だから私はいつも、非生産的な通話を早々に切り上げようとしている。


でも本当は、「まだ寝ないの?」と言っても終わらない通話が、割と好きだったりする。会話の中身はないけれど、決して空虚な時間ではない。使い古した部屋着に着替え、コンタクトを眼鏡をかえ、なーーーーんにも考えずにただただ話す時間。夫との通話中は、大人としての常識も、社会人のマナーも、女性としての振る舞いも全部忘れられる。何もないのに、いや何もないからこそ、疲れた夜でもちょっと元気が出てくる気がするのだ。

この先、何があるかわからない。でも私たちは「まだ寝ないの?」と言い合いながら、くだらない話を続けていくような関係でありつづけたいな。

意味のないテレビ通話は、まだまだ続く。

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