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サンタを疑った子ども心 その2

「戦場のメリークリスマス」ゆっきー著


前章

 僕は『牧師』の遺骨と共に『牧師』を待つ家族の元に向かっている。『牧師』が一番望んでいたことをするためだ。


 昭和19年某月某日。〇〇方面〇〇兵団所属の僕幸吉(ゆきち)は戦場にいた。

 昼夜問わず止まない砲火。朝令暮改で万策尽きた上官の命令と怒号。僕たち兵士の悲鳴と断絶魔。その戦場は「生き地獄」だった。

「いつ戦場で散った戦友の元に逝くのだろう」と悪運強く生きている僕は、今日もライフルを手に戦場にいた。

 同年12月25日。珍しく砲火がなかった。僕たちは戦場で骸(むくろ)になった戦友を弔うために残り少ない燃料で火葬をしていた。
 
 極限の焦燥と疲労でただ黙祷するだけの僕たち。そして突然

「メリークリスマス!メリークリスマス!」

 と慟哭する者がいた。
 
 「戦場で怨敵の邪教の言葉を発するとは何事か!」

 と上官らによって取り押さえられた。取り押さえられてもまだ

「メリークリスマス!メリークリスマス!」と天上に叫んでいた

 僕たちの「軍医」だ。以前から戦友の仮墓地に木の端くれを使って十字にして弔うことを、上官から叱責されていたが止めようとしなかった。

 彼の軍医部屋で「夜な夜な上官の目を盗んで敵性宗教の伝聞している」と僕ら末端の兵士の間で聞いたことがある。娯楽も何もない戦場で、それが唯一戦場を忘れる「救い」だと言う者もいる。そんな彼を

『牧師』と呼ばれていた。


 その夜、以前信者になった戦友から「今日12月25日は『牧師』による特別の集まりがあるから行こう」と誘われた。僕は興味半分、好奇心半分で行くことにした。しかし僕のライフルは没収された。

 『牧師』のいる軍医部屋には僕を含め多くの戦友がいた。その誰もがライフルなどの武器は携帯していなかった。『牧師』は
 「今日はイエス=キリストが誕生したクリスマスの日です。戦争が無かったのもイエス=キリスト、そして神の導きでしょう」
 「私が『メリークリスマス!』と叫んだのは、人の行いで最も愚かで醜い戦争で犠牲になられた方々に『神の祝福あれ!メリークリスマス!』と祈りたかったからです。武器は要りません。今日は特別な夜です。祝福して祈りましょう」

 『牧師』が開口一番の後、僕以外の「信者」も黙々と祈っていた。そもそも今日がクリスマスの日と初めて知った僕には違和感だらけだ。
 「亡くなった戦友のために祝福するのはおかしいし、今日戦争が無いのは敵も同じことをしているのか」と心の中で勘繰った。 

 「戦争が最も愚かで醜い」のは信者でない僕でもわかる。だからといって僕ら末端の兵士が上司らに具申しても「叱られ懲罰される」のが関の山だ。だから僕は口答えせず戦場でライフルを取っている。

 だが軍医部屋にいる『牧師』と戦友は、今日が特別な日である「クリスマスの日」をただ黙々と祈っている。
 亡き戦友のための祈りか?クリスマスという儀礼のための祈りか?
 武器不携帯の僕らは「戦争の駒である兵士」でない。彼らは「武器なしで戦争という不条理に抗って祈っている人間」だった。

 そして・・・いつしか僕も彼らと祈って信者になった。


中章

 昭和20年8月某日。僕らが篭る塹壕基地はすでに四方敵に囲まれており、弾薬や食料などの補給物資が尽きていた。
 信者も信者でない数多くの戦友が、イエス=キリストか神の元へ行って僕も数少ない生き残りの信者になっていた。
 『牧師』が「医療物資がなく機能しないから兵士になれ」と上官に命令され、決して撃たないが僕たち兵士と共にライフルを取っていた。

 僕は『牧師』に駆け寄って
「『牧師』さんどれだけライフル取れば戦争終わるかな」と僕は言った。
 『牧師』は「神のみぞ知るですがこの戦争は必ず終わり、私たちは必ず家族の元に帰ります」と返事した。
 僕はこの生き地獄から生きて帰れないことは覚悟している。だが『牧師』は必ず家族の元に帰れることを信じている。『牧師』の返事で信者の僕は、不思議と冷静で穏やかな気持ちで戦場に身を置いていた。

 そして僕らのいる塹壕に砲弾が飛来した・・・

 激しい砲弾の着弾音と砂煙・・・そして沈黙。

 僕は死んだと思った・・・が悪運強く生きていた。しかし・・・
『牧師』は僕の身に覆い被さって血まみれになっていた。ライフルを捨て
「『牧師』さんしっかりせえ!あんた必ず家族の元に帰りますと言っただろ!」と叫んだ。『牧師』は息絶え絶えに言った。
 「私は・・・イエス=キリストそして神の元に行きますが、あなた・・・を生きて家族の元に帰らせることができて・・・私は「幸せ者」です。あなたに神の祝福あれ・・・アーメン」
 
 『牧師』は上官に見つからないように秘匿してた小型の聖書を僕に渡すと「これを・・・あなたに託します。あなたは必ず生きて帰ってください」
 と言い微笑みながら『牧師』は僕の胸の中で安らかに息を引き取った。

 僕が『牧師』に慟哭している間、敵側から日本語で「あなた達はよく戦いました。祖国のため、帰るべき家族のために降伏してください」と無線が響いていた。

 生き残りの僕らは複雑な感情を押し殺して「降伏」した・・・。


終章

「堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び……」

 昭和20年8月15日。戦争は終わった。

 降伏した僕らは捕虜になって収監された。戦争の尋問などを経て、僕が帰還兵として祖国日本の地に足が着いたのは12月の暮れになっていた。祖国日本は敵国の空襲で焼け野原になっていた。

 日本に帰った僕は、軍服のまま『牧師』の遺骨と『牧師』が僕に託した小型の聖書を手に『牧師』が空きスペースに記した住所に行った。
 住所以外には「この聖書をもって家族に渡してくれたら、家族は必ず分かります」とだけ書いてあった。

 同年12月24日。『牧師」の住所に着いた。その住所も焼け野原になっており、僕が戦場にいる間に国民が犠牲になったことを肌に感じた。少し探して『牧師』住所通りに行くと、粗末なバラックの前で10歳前後の男の子が遊んでいた。『牧師』の子供だろう。その男の子は僕を見て
「兵隊さんお帰りなさい!」言ってきた。僕は
「『牧師』・・・失礼〇〇さんの住所はここでしょうか?」と言った
僕の姿を見て、男の子は「お母さん呼んできます!」とバラックに行った
 十字架を身に着けた女性が来た。『牧師』の妻だ。

 その女性は僕の姿を見て・・・

「あの人は約束どおり帰ってきたのですね・・・!」
と言って泣くのをじっと堪えていた。僕は遺骨になった『牧師』と聖書を黙って渡すことしかできなかった。その沈黙を破るように男の子は、

「兵隊さんは『お父さん』のプレゼントを渡しにきたサンタクロースさんだね!」と屈託のない笑顔で言われた時、僕は心の中で我が身を疑った。

【『牧師』は戦場で僕を庇って死に僕は生きて帰った。その『牧師』のお骨を持ってきた僕をサンタクロースだなんて・・・】と。

「そうよ!この兵隊さんは『お父さん』のプレゼントを渡しにきてくれたサンタクロースよ!」と遺骨の『牧師』を大事に抱いていた。
 そう『牧師』は家族の元に帰ったのだ

「メリークリスマス!メリークリスマス!」と男の子は天空に向かって何度も大声で言った。去年『牧師』が戦場で叫んでいたように・・・。

「メリークリスマス!メリークリスマス!」と男の子の母親も僕も泣くのを堪えて一心不乱に叫んでいた。その時天空から光が注いでいた。
『牧師』が言ってた「祝福」って奴かなと。

 あの聖書は書いていた内容以外特に何もなかった。『牧師』が出征前に家族に言い残したかどうかは僕の想像でしかない。

 『牧師』が家族に、僕か僕以外の帰還兵の誰かが『牧師』の生き証人として尋ねた時のためにそう言い残したんだと信じたい。


 同年12月25日。僕は家族の元に帰ろうとしてた。今日はあの『牧師』が言ってたクリスマス。だが僕には家族に渡すプレゼントはない。

 自分の家を探すにもどこにあるのかわからない有様だ。方々聞き回り、戦争孤児を引き取っている集会で僕の「ハナコ」らしき子供を見つけた。
 僕が出征したときにハナコは5歳。今だと7歳で下手したら僕のことを覚えていないかもしれない。

 それでも僕は

「ハナコ!」と呼んだ

 そしたらその子供は反応したがきょとんと反応して

「アタシはハナコだけど兵隊さんだれ?」と言われた

「僕は幸吉(ゆきち)。ハナコのお父さんだ」と言い返した

ハナコは少し考えて
「お母さんからそう聞いたことあるけど、お母さんは『お父さんは戦死するかもしれない』と言われたから」と

「ハナコのお母さんの「さなえ」はどうしている?」と僕は尋ねた

「お母さんは空襲で天国に行った」と押し殺すようにハナコが言う

 僕はハナコから妻が亡くなった事実を知り悲嘆する。【家族も戦友も犠牲してまでしたこの戦争は何のためだったのか?『牧師』が言った人の行いで最も愚かで醜い戦争』「戦争が終わっても帰還兵の僕らだけでなく、戦争で生き残った人々をこんなに残酷にするものなのか」!】と責めた。

 僕は何も考えずただただ「ハナコ」を一心不乱に抱きしめた

「兵隊さん少し痛いよ」とハナコ

 僕は「ごめんごめんごめん」と繰り返すしかなかった

 ハナコは少し泣きじゃくった声で

「兵隊さん。いいやお父さんお帰りなさい。アタシもしんどかったけどお父さんもしんどかったんだよね」と言い優しく抱き返した

 僕とハナコはこうして親子の再会をした

 しばらくしてハナコは「今日集会の子供同士でクリスマスでプレゼント交換するんだけど、お父さんが来ちゃうと、戦争でお父さんを亡くした子たちが辛い思いしそうだね・・・」と言われた。

 ハナコの言う通りだ。僕がいたら家族を失って戦争孤児の中には心の傷になる子供はいるに違いない。
 「じゃあ僕は参加しないでおくよ」と
 ハナコは少し考えて「あーじゃあさ。お父さんがサンタクロースになって参加してみない?」と言った。僕はハナコの提案にのった。


 そしてクリスマスの夜、戦争孤児の子供たちが戦争の悲しみを忘れるぐらいクリスマスでいっぱい楽しんで盛り上がっていた。
 僕はハナコにあらかじめプレゼントの入った袋と、軍服の上に赤いボロ布と、僕の顔を炭でサンタクロースっぽくした格好で子供たちの輪の外で待っていた。
 
 そしてそのクリスマスが最高潮になったとき、サンタクロースに扮した僕がその輪に入った。だが子供の中に

「顔が炭で真っ黒なサンタクロースなんていないよー」
「インチキくさいサンタクロースだなぁ~」
など無邪気な子供たちに笑われてウケていた僕は照れて苦笑した

 そんな中ハナコが
「これアタシが考えたサンタクロース。実はさ・・・このサンタクロース『アタシのお父さん』なんだよね」とつっけんどんに言った

 僕は当惑した。「僕がハナコの父親のことを子供に知られてクリスマスにいるのはまずい」とハナコが言ったはずなのに・・・

 クリスマスで盛り上がっていた子供たちはサンタの僕を子供心に疑った。お父さんをお母さんを兄弟などを・・・戦争で亡くしたことでショックになっている子供たちの中にすすり泣く子供もいる。しかしハナコは臆面なく

 「アタシも戦争でお母さんを失って戦争が憎い。悲しい。悔しい!やっと戦争が終わったと思ったら、うちらは『お父さん、お母さん、兄弟などを失ったことと向き合って生きていかない』といけない」
「だけどアタシのお父さんは帰ってきてくれた。アタシは嬉しかった。アタシのわがままでみんなが良ければだけど・・・アタシのお父さんでよければ『うちらのお父さん』として受け入れてほしい。どう?」
と言った

 ハナコの話を聞いた子供たちはしばらくして僕のほうに一斉に寄ってきた
「お父さん!お父さん!」と堪えきれずに泣いて寄る子供もいた
 僕はただ黙って「だいじょうぶだいじょうぶ」と言い続けた

 ある子供が「ハナコの・・・いや僕たちのお父さんだ!メリークリスマス!」と言った
 僕はこのクリスマスでサンタクロースだけの存在だったのに、ハナコだけでなく「この子供たちのお父さん」になれたのだ
 僕も顔に塗りたくれた炭が涙でぐちゃぐちゃになりながらも「メリークリスマス!」と子供たちに言った
 ハナコは「うちらにとって本当のプレゼントはお父さんだね」と言った

 そして僕もハナコも子供たちも想定しなかった感動の渦の中、僕らは最高のクリスマスの聖夜を過ごした。
 これは『牧師』が僕にくれた最高のクリスマスプレゼントかもしれない


 あれから僕は「戦争孤児支援のための事業」を立ち上げた。戦争孤児になった身寄りのない子供たちを預り、養育・学業などを大人になった後も支援して見守る事業だ。それを知った『牧師』の妻子も加わっている。
 僕宛てに来る手紙に、父親が生存しているにも関わらず「拝啓 幸吉お父さん」と書く人もいる。
 
 あのクリスマスの日にちなんで「メリークリスマス事業」と全国で言われるようになり、僕が老人になってからも戦争孤児の子らによって事業は継続している。今もその子たちから年代問わずお父さんと呼ばれている。

 僕の娘「ハナコ」は成人して『牧師』の子供である男性と結婚して幸せな家庭を築いている。僕と『牧師』が引き寄せた合縁奇縁だ。結婚式はセントチャーチル様式だった。僕の家系は先祖代々「浄土宗」だけど。幸せだったらキリスト教だろうと仏教だろうとどうでもいい。

 ただハナコの「ませた」ところは成人しても変わらずにいる。でもあの『牧師』の子の旦那なら大丈夫かな・・・と思いたい。

 僕は『牧師』の妻と生活をしている。共に伴侶を戦争で亡くしたこと、互いの子供同士が結婚したこともあって、僕は彼女に求婚をしてみたが、『牧師』の妻は「私は亡き夫への操を捧げている身」だと丁重に固辞された。

 天国で「さなえ」と『牧師』が結ばれていることを願うばかりだが、あの『牧師』も彼の妻同様に固辞するかもしれない。僕の空想だがあの2人がハナコと『牧師』の子の旦那みたいな関係だと考えたら少し心配になった。

 僕たちと「メリークリスマス事業」で引き取った多くの『子供たち』との共同生活はとても楽しい。僕はこの平和と幸せが未来永劫続いてほしい。

 僕は戦争体験者として「戦争」について講壇に上がることが増えた。

 僕は戦争を知らない子供たちに「人の行いで最も愚かで醜い戦争」を僕の経験を通じて伝えていきたいと思う。それが亡き『牧師』と僕の妻「さなえ」など多くの戦没者と多くの戦災孤児の救い、未来を担う子供たちが「戦争や武器が無くても平和が実現できる世界」になれればと。僕はいつも

「メリークリスマス!」

と心の中で叫んでいる。

『牧師』そして・・・我が妻「さなえ」よ天国から見てておくれ


おわり


おわりに

 いかがだったでしょうか?とらねこさんの #文豪へのいざない のお題目である「サンタを疑った子ども心」私の創作意欲がヒートアップして2つ目も投稿しました!(とらねこさんOKですよね?)

 すこしハナコが「7歳なのにませすぎ!盛り過ぎ!」とかあるかもですが、フィクション短編小説なのでアリにしてください!(「ハナコ」のモデルはプリコネR「なかよし部」のクロエです。あのドライ感いいですね)

 前章・中章は「生き地獄」の戦場いる幸吉と『牧師』たち兵士の物語でしたが、終章は「ハナコ」や空襲で亡くなった幸吉の妻「さなえ」、『牧師』の家族、そして親兄弟を亡くした戦争孤児の子供たちの、『終戦で生き残った人々の悲惨さ』を構想中に描写したいと思い加筆修正しました。まだまだいくらでも加筆修正できるところはありますが『生死を分けた戦争の群像作品』としては上手くできたと思います。

 戦争・クリスマス・生死を分けた人々から連想したこの作品。いろいろ構想を練り返した投稿作品として投稿できてとても楽しかったです。ただ『サンタを疑った子ども心』が終章に少し出ただけなのでお題クリアとしてはパンチが弱いかなと反省はしますね(;´・ω・)。今度はもっと明るく未来志向的な作品にトライしたいと思います!
 とらねこさん。そして私の投稿作品を愛読頂いたnoterのみなさん本当にありがとうございました!


 またこうした機会がありましたら喜んで投稿しますのでよろしくお願いします!それじゃまた!OK!my friend!



 私の投稿記事でよければよろしくお願いします!m(__)m  私次第ではありますがお礼のサポートするかもなので。  世界中に平和と多幸あれ!OK! my friend!