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料理の香りと料理の匂い

ポルトガルで料理の仕事を始めて、日本とは感覚が違うんだなと感じることは色々あるけれど、その中でも印象深いのは、匂いのことだと思う。

最初に体験したのは、店を始める前の、ケータリング時代。

リスボンやリスボン近郊の色んなお宅にお邪魔して、厨房を借りて料理を準備する。大体は、ご友人などを招いてのパーティーなどが多かったので、皆が揃ったところで料理を出すのだけれど、それまでは大体厨房にこもって仕込みをする。

準備中に、そのお宅のホストの方々が、「匂いが家中に漏れてしまうからドアは閉めておくね。」と厨房のドアを閉めることが多かった。そして、家中にアロマキャンドルなどを灯してエレガントな雰囲気を出す。

その時、「ああ、家に入ったときに漂う料理の美味しい香りは、こちらではあまり良いものではないんだ。」と少しショックだった。もしかしてたら、それは友人を招いての、少しかしこまったパーティーなどに限定されている場合なのかもしれない。実際、私が気の知れない友人宅でのご飯会などに招かれて行くときは、入った瞬間美味しい匂いが漂っていることもよくあるから。そして私がケータリングに行っていたお宅は、一歩足を踏み入れると、広くてインテリアなどが上質で、素敵すぎて驚くお宅が結構多かったので。

それから和食屋をオープンさせ、料理の匂い問題が勃発。

「揚げ物の匂いがこちらまでするんだけど。」
「たこ焼きを焼いている匂いがするんだけど、なんとかならないの?」

など、匂いに関するご指摘を現地のお客様に何度も頂いた。もちろん決まりに従って、すごい規模の換気扇もつけていたし、掃除にも定期的に来てもらっていたけど、何しろうちの店は旧市街にあり、外観や、色々いじってはいけない法律があるので、これ以上どうしようもない。匂いや換気に関して、それはもう10件以上の業者に来てもらって相談もしたけど、なかなか解決しない。これは私たちが経営中の永遠のテーマとなった。

たまに日本に帰ると、入るなり美味しい匂いでいっぱいで、「ああ、お腹空く!」と感じる店がたくさんあって、ワクワクもする。これは逆カルチャーショックを感じる瞬間だ。そういえば、リスボンの店でそういったところは少ないかも知れない。炭火焼きの焼き鳥屋さんなんかも、すごい吸引力の換気は徹底していて、あんまり匂いを感じたことがない。または、炭火焼きだけは店の外で焼いてサーブしてくれる場合も。ちょっとした昔ながらのカフェなんかは、床をモップで掃除したりテーブルを拭いた後の洗剤や漂白剤の香りが漂っている場合もよくあるけど、もしかしてこの方が清潔感を感じる文化があるのかも知れない。個人的には、その化学的な香りこそが食欲を奪ってしまうなぁと感じてしまうのだけれど。

ヨーロッパの他の国ではどうなんだろう?実際私たちがご指摘を受けるのは、ほぼ全て現地の方々だったので、国によってこの料理の匂いの感じ方は違うような気がする。

結論的には、私も後から洋服に付いてしまうほどの匂いはやっぱりちょっと嫌な時もあるし、お洒落して来ていただくお客様も、それが気になるのがとてもよくわかる。でもここまで徹底しているのは、やはりポルトガルのお国柄というのもあるのかな?

そうそう、逆カルチャーショックで、タバコの匂いを思い出した。
ポルトガルでは、約10年ほど前でも店内での喫煙はほとんどないか、分煙だったから、いつも快適に食事ができたのだけど、その頃久しぶりに日本に帰って、ずっとまた行きたいと楽しみにしていた、料理が本当に美味しい居酒屋に行った時に、お隣の方のタバコの煙がこちらまで流れてきて、結局その匂いが煙たくて、何も味わうことができなくてガッカリした事を今でも鮮明に覚えている。

国が変われば文化も感覚も変わる。面白いものだなぁと今でも色んな分野で体感する。

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