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ドイツの婚活サイトに潜入し、国際結婚した話④

■第4章■ 休戦

勉強らしい勉強を学生時代以来してこなかったが、フランス料理店で働くにあたり、ソムリエの資格取得に挑んだ。
世界各国のワインはもちろん、地図や気候、人口や歴史など、幅広い知識を学ぶ必要があった。
そして私は自分が世界について何も知らないことに気づき、ショックを受けた。勉強する中で1番衝撃的だったのが、人口の多さだった。
70億人という数字にはまったくピンと来ないが、自分が住んでいる200万人規模の都市と世界の都市を比較することで、この世界にはたくさんの人が住んでいるんだとバカみたいに当たり前のことを、数字が具体的なイメージとなって頭の中に浮かんだ。
いつかフランスだけではなく、ソムリエの勉強を通して学んだ国や地域を、実際に自分の目で見てみたいと思うようになっていた。

しかし休日もワインの試飲会や他のレストランの視察、お客様との会食など、休む暇も無く働いていたので、そのいつかはもう何年もずっと先延ばしになっていた。
飲食店で働くようになってから、毎日が分刻みでタイトになっていき、近日中にやらなければいけないことと、すぐにはないが将来的に
"やりたいこと" をリスト化し、隙間時間を効率的に使うようになった。
限られた時間の中で、1つ1つやりたいことを少しずつ実現していったが、
" 海外旅行に行きたい" の他にもう何年も消されることなく残っている項目がまだ1つあった。

食べることが好きで、周囲には様々なジャンルに知識を持つ方々がたくさんいたこともあり、毎日とても刺激的だった。 お店には海外のお客様や業者の方も多く訪れ、日本にいながらも異国の雰囲気を楽しむことができた。そして、やっと自分にぴったりの仕事を見つけたと感じ、やりがいを持って必死に働いていた。

しかし、それまで充実していた毎日だったが、30歳に近づくにつれ
" 結婚して子供が欲しい "という願望が強くなっていくと共に、このままで本当にいいのか?   そのうち出来ると思っていた彼氏はもう何年いないだろう? と焦りを感じ始めていた。
さらに年齢を聞かれ、「えー見えな~い。」と言われ始めた頃、あぁもう自分は若くないんだなと悟った。周りからの地味に傷つく声が増え、新店舗への異動もあり、少しずつストレスを感じるようになっていった。

幸か不幸か最終的には体力の限界でフランス料理店を辞めることになった。鼻血が止まらないといった謎の体調不良が増え、ついには毎日3本飲み続けたエナジードリンクの蓋を開ける力すら無くなってしまった。
3ヵ月間の静養中、身体的・精神的・経済的な不安が増した私は、パートナーの存在意義について改めて真剣に考え、そして冒頭の派遣社員として働き、婚活を始めるきっかけに至る。

その後は規則正しい生活を続けることで、体調も徐々に回復していった。
派遣会社に登録後、すぐに決まった派遣先は穏やかで自由な雰囲気の会社で、幸運にも多くの従業員がまとまった有給休暇を取得していたこともあり、ついに待ち望んでいた海外旅行の計画を立て始める事ができた。

ソムリエの試験に合格した後も、知への欲望はおさまらず勉強を続けていた。歴史や地理をさらに広い範囲で深く学んでいき、そして宗教や哲学、絵画などの芸術にも興味は広がり、中でもとりわけ中世の西洋甲冑に熱を入れて学んでいた。

どうしても見てみたい甲冑がウィーンにあったので、行き先をオーストリアを含む東欧3ヵ国に決め、博物館のホームページを隅々までチェックし、郷土料理や行きたいレストランのメニューなどの和訳作業に奮闘していた。

ウィーンの中でも比較的有名で大きな博物館にも関わらず、周囲の人の少なさに胸騒ぎを感じつつも、やっと推しの甲冑に直接お目にかかれるという期待感に胸を高鳴らせながら、とうとう博物館の扉の前までやって来た。

《改装中の為、臨時閉館》

この時のショックときたらもう、、、、
かろうじて開いていたお土産コーナーで、分厚くて重いドイツ語で書かれている甲冑図鑑やフィギュアなど、あれこれ爆買いし帰国した。

絶対にまたリベンジしなければ!あとまだドイツとイタリアにも見たい甲冑がある。
しかし、行きたい国はまだまだたくさんあるのに、どれだけ頑張って働いても私の給料では年に1度しか海外旅行には行けない。
2週間の旅行の為に残りの340日を日本で精一杯働きながら暮らす。
そんな生活も決して悪くないが、気がつけばあっという間に40歳になりそうだな。そして結婚して子供を産むことは諦めなければならないんだろうな。でもやっぱり結婚して子供が欲しいな。矛盾が生まれて来た。それならいっそヨーロッパに住むか? でも32歳ではワーホリはもう使えないし、貯金もしなくては・・・・

考えれば考えるほど、かつて紙に書き溜めた理想の悪女人生は遠くなっていた。



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