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ドイツ人にカスタマーサービスは必要ない?

日本人がドイツに来て驚くことのひとつに、「ドイツのカスタマーサービス」がある。
会計をしようと思ってレジ前で待っていても、店員は一向に同僚との話をやめようとしない。仕事について話しているならともかく、大概は旅行の話や、誰かの文句などで盛り上がっている。
「すみません、お会計お願いします」と声をかけたりすると、必ずといっていいほど嫌な顔をされる。私たちは彼らの楽しい時間を邪魔してしまったのだ…
お客さまは神様だ!の日本からやって来た観光客にとって、自分が何かいけないことをしてしまったのかという錯覚さえ覚えてしまう。


私は世界でもトップクラスのカスタマーサービスを提供する、アメリカ・フロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールドで働いていた経験がある。
ディズニーでは、お客さまはゲスト、私たちスタッフはキャストと呼ばれ、一旦バックステージを出て、ゲストを相手に仕事が始まると、そこはオンステージ。舞台に立っている役者と同じで、接客にはエンターテイメント性も要求されていた。

これはディズニーだけに限ったことではない。アメリカのショップ、レストランなどでのカスタマーサービスには、パフォーマンスやエンターテイメントが欠かせない。お客さまに商品を提供するだけでなく、店員は自分の名前を名乗り、親近感を持たせ、お客さまに寄り添い、喜びとともに、その楽しさにあふれた空間を一緒に味わう。
例えばスターバックスは、ただコーヒーを飲みに行くところではない。その店のお洒落な雰囲気を味わい、店員さんとの会話を楽しみ、スタバにステイタスを求めて通う。常連客になると、スタッフとの距離感も縮まり、そこで得られる特別感、さらに行く頻度が高まる仕組みだ。

お客さまによるポジティブなフィードバックがさらなるサービスを向上させ、ネガティブなフィードバックは次なるステップとして丁寧に扱う。
アメリカにおいて、フィードバックはとても大切な財産である。


私がドイツに来た2004年、GAPがドイツより撤退し、スウェーデンのH&Mに売却、2006年にはWalmartが同じく撤退、ドイツ流通大手Metroに売却した。
撤退した理由は多々あるが、私はアメリカが誇るエンターテイメント性に長けた接客もドイツから撤退した要因のひとつではないかと思う。

先に述べたように、アメリカのカスタマーサービスには、販売するという行為以外に、プラスαの接客が含まれている。それが企業のポリシーでもある。
しかしドイツではそれが通用しなかった。
従業員教育しようと試みるが、アメリカ側の求める接客の意図が通じない。そもそも彼らは、そのようなカスタマーサービスを経験したことがないので、理解するのに時間がかかる。
その上、たとえ従業員教育に成功したとしても、この国では顧客自体がそのようなサービスを求めていないのだ。
アメリカとドイツのカスタマーサービスには、温度差がありすぎたのではないかと思う。


ドイツ人は実用性を好み、合理的である。アメリカ流プラスαのサービスは受け入れられなかったように感じる。
店に物を買いに行く時は、物を買いに行く。
レストランに食べに行く時は、食べ物を食べに行く。
若い世代の意識は少しずつ変化してきてはいるが、基本、フレンドリーな笑顔も、可愛らしいラッピングも、きめ細やかなサービスも、お客さんが必要としていない。お客さんが求めていないものを、わざわざ提供する必要はないのだ。

ドイツのスターバックスも、年々その数を減らしているような気がする。開店当初、爽やかな笑顔を振りまいていたアバクロの店員も、今では「Hallo!」を言うのが精一杯。上半身裸のイケメン君たちも姿を消した。
アメリカ企業がドイツで勝ち残っていくには、企業側が自分たちのポリシーにこだわりすぎず、ある程度寛容になる必要があるのではないだろうか。

そして今、そんなミニマムサービスなドイツの小売業界が、ものすごい勢いで世界に進出し成功している。世界中の顧客が求めるものが変化してきたのだろうか。

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