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【読書 走る本】『挑戦する脚 77日間オーストラリア夢大陸横断走り旅4200キロ』阪本真理子

たまたまタイトルを見て、面白そうだと読んでみることにした本です。オーストラリア南部を西から東へ4241kmを走り抜くという、途方もないスケールのランニング記録でした。

この本は、著者の阪本真理子さんが1997年4月から7月にかけて、オーストラリア西岸のパースから東岸のシドニーまで走った時の記録です。当時49歳、25年勤めた銀行を辞職しての挑戦でした。オーストラリアでレンタカーを借り、同行するサポートメンバー(最初は二人、のち一人)がそれを運転してナビゲーションや食事、洗濯、買い物などの世話をし、夜は車の中で寝ながら東へ向かって行くという「走り旅」でした。

1日の平均距離は50-60kmほど。2ヶ月半もの期間ですから天気もさまざまで、豪雨や強風のため途中で走るのを打ち切った日もあります。走り終えてからキャンプ地を探すために車で多少移動したときは、翌日にその場所まで戻ってからランを再開するというスタイルで進んでいます。

日記形式で日々の出来事が綴られていきますが、読んでいて全く飽きないほど色々な出会いやトラブルが起きていきます。阪本さんは、愚痴をこぼしたり腹を立てたりすることはありますが、へこたれたり「もうやめたい」と弱音を吐いたりする姿は出てきません。

むしろ感じられるのは、「やりたいことをやってるんだから、とことん楽しんでやろう」という姿勢です。阪本さんは関西で長く暮らしてきた方です。本文中では「関西人っぽさ」がほんの限られたページにしか現れませんが(上司に辞職を伝える場面など)、おそらくはオーストラリアにいるときもそのノリと気質でゴタゴタやストレスを笑い飛ばしていったのではないかと想像します。毎日50kmも60kmも走り続けるのは肉体的にも精神的にも相当な負荷がかかると思いますが、文章には悲壮感や苦行のにおいはありません。読み終えて伝わってくるのは、超々長距離走を楽しみ尽くしたランナーの姿です。とても面白い本でした。

私は気楽に走るのが好きなだけで、ランニングのクラブなどには入っていないので、ランニング界隈のいろんな情報だとか噂話などはまるで知りません。著者の阪本真理子さんのことも存じなかったのですが、こんなすごいことをするのはどんな方なのだろうとネットでお名前を検索してみたら、日本の女性ウルトラランナーの草分けとも言える方で、現在も関西のウルトラマラソン (200kmとか300kmというレベルの)を主催したりされている方だと知りました。この本に書いてあるオーストラリア横断の後には、「ラン・アクロス・アメリカ」(約5000km)、「トランスヨーロッパ・フットレース」(約5100km)なんていうとんでもない距離のランニング大会も完走しているそうです。

ロードの100kmを走る(後半は歩きも交えて)のが精一杯な自分にとって、数百キロとか言われると気が遠くなります。数千キロとなると、想像もできません。でも、ゆっくりとでも自分の脚で知らない場所を走ることの楽しさは、それなりにわかっています。数千キロとまでは行かずとも、競技性が薄くて制限時間に余裕があり、途中で休憩や多少の睡眠が取れる100マイル(約160km)や200kmぐらいの大会なら、ロング走向けの練習を重ねれば何とかゴールまでいけるかもしれません。私は元々、さほどレース志向が強くはありませんが、そんな方向に自分のランニングをもっとシフトさせても楽しいかもしれないなと、この本を読んで感じました。



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