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【読書」『地球のはしからはしまで走って考えたこと』北田雄夫

世界各地で数百キロという超長距離ランの大会に出場しているアドベンチャーランナーの北田さんによる本。2020年10月発行の、新しい一冊です。たまたま立ち寄った書店で見かけて読むことにしました。

数年前「情熱大陸」を見て北田さんのことを知りました。100マイルのウルトラトレイルランで上位を目指す選手とはまた違ったランニング へのアプローチがあるんだなと、印象に残ったことを覚えています。この本で北田さんの取り組みや思いを知り、情熱大陸で何となく感じていたことが、北田さんへの「共感」に変わりました。

他の人が作った尺度ではなく、自分で目標を立ててそこに向かい一歩ずつ進んでいくという姿勢、考えられないほどの長い距離や酷暑、酷寒、高所などを走り抜くためにさまざまな試行錯誤を重ね体と対話していく様子、プロアスリートになってもユニフォームに企業ロゴを入れないという理念、そして言葉があまりわからなくても世界のレースに飛び込み、そこで同好の士と仲を深めていく好奇心。こうした点に魅力を感じたのだと思います。北田さんの挑戦を追体験しているように読み進めました。

私には北田さんのようなスケールの大きなことはとてもできません。でも、自分が続けていきたいランニング の方向性にも、近いものがあると感じました。ひとことで言うと、順位や記録よりも自分のペースで自分なりの挑戦を続けていくことを、より明確に意識するようになりました。

この本では、オーストラリアの荒野を行く521kmとかピレネー山脈866km、サハラ砂漠1000kmなど、何日にも及ぶとんでもない距離のランニングレースが出てきます。私もフルマラソンを越えて100kmのウルトラマラソンまでは出たことがありますが、500kmとか800kmでしかも平地でなく砂漠や山岳地帯と言われると、想像が及ばず気が遠くなります。

北田さんは、こうしたレースに出る際に、荷物の重量が増えるにも関わらずスマホに加えてアクションカムや360度カメラ、バッテリーを持参して、レースの様子を動画で撮影しています。そして、その動画へのリンクをQRコードにして本書に掲載しています。これはとても面白く、また読者をより深く北田さんのランニング の世界に惹き込む上でも効果的だと感じました。こんな感じで掲載されています。

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日本でも、UTMBやバッドウォーターといった欧米の著名ウルトラトレイル大会のことはランニング好きな人なら知っているかもしれませんが、上に挙げたようなレースは、ほとんど知られていないと思います。これだけ長時間、長距離となると、テレビの撮影チームや大会のオフィシャルクルーが密着撮影して動画作品に仕上げるというのはかなり難しいのではないかと思います。だとするとあとは撮影できそうなのは選手ですが、持ち物を1グラムでも持ち物を軽くしたい人がほとんどでしょうから、スマホで簡単な写真や動画を撮ることはあっても本格的な撮影にはならないでしょう。北田さんも常に撮影しながら走ってるなんてことはないはずですが、こうした極限の大会の様子が10分でも15分でも、動画として垣間見れるのはとてもありがたいことです。紙の本と動画をつなぐ試みとしても面白いと思います。

いろいろと書いてきましたが、最後に本書から、印象的だった北田さんの言葉をふたつ引用します。私は長距離ランの関係の本を何冊も読んでいますが、この本はまた読み直したいと強く感じた一冊でした。

凡人でも壁にぶつかりながら挑み続けて成長できる姿を通じて、チャレンジする面白さを伝えたい。成功や失敗でなく、そもそもチャレンジすること自体が楽しいのだと。一歩踏み出せば、見える景色が変わり、新しい人と出会い、成長の喜びがあるのだと。
ろくに走れなくても長距離レースに参加する人、60歳を超えてもなお高みを目指す人、言葉が話せなくても海外レースに飛び込んでいく人、世界には様々な人がいた。過去の自分では考えられないような生き方をしている人たちが現実にごろごろいた。
彼らに共通していることがある。
みんなまわりの目なんて気にしてはいない。自分はできない、自分は弱い、そのことを真正面から受け入れた上で自分なりの挑戦をしている。決して独りよがりではない。家族や友人に感謝しながら生きている。過酷な自然環境で死をリアルに感じるから、むしろ生きるありがたみをより深く感じている。プライドや見栄など無駄な飾りや邪念は捨てて、ただ人間としての命をまっとうしようとしている。そんな人たちに出会うことで、僕も「この命をどう使い切るか」と本気で思うようになった。



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