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【読書】『大地のランナー 自由へのマラソン』ジェイムズ・リオーダン

南アフリカでアパルトヘイトが続いていた時代を舞台に、走ることで人種差別に立ち向かおうとした1人の若者を主人公にした物語です。たまたま見かけた『大地のランナー』という題名が気になって入手しました。読み始めてから、児童文学というカテゴリーで出版された本だと気づきましたが、大人が読んでも十分に楽しめるものでした。

この本のことを説明するには、目次よりも前に書かれた文章を読むのが一番だと思います。その箇所を引用します。

これは架空の物語であり、伝記ではない。ネルソン・マンデラが釈放される前の十数年間、アパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカ共和国で、自由のために奮闘する一人の男の半生を追っている。描かれている出来事の多くは実際に起きたことだ。ただし、主な登場人物はみな架空の人物である。
物語の一部は、南アフリカ共和国初の黒人オリンピック金メダリスト、ジョサイア・チュグワネの体験にもとづいている。

主人公が苦労を重ね挫折もしながら目標に向かっていくという大まかな構成はほかの色々な成長物語と重なるところがありますが、人種差別が国の制度として定められていた時代の南アフリカが舞台ですから、日本の高校生や大学生などを主人公にしたランニングの物語とは大分と様相が異なります。

特に序盤で、当時の差別というものがただ社会的な地位や経済的なものに留まらず、ときに目を覆いたくなるような暴力を伴うものだったということが描かれている場面は、衝撃的なものでした。実際にそのようなことが起きていたのだろうと思うと、いたたまれない気持ちになります。児童文学と銘打たれた本ではありますが、お子さんに読ませようという場合は、まず親が流し読みでもしてみた方がよいかもしれません。『大地のランナー』という邦題よりも『BLOOD RUNNER』という原題を意識して読んだ方がよい本だと思います。

そんな重いテーマを扱った本で、実際に走ることについて記述されているのは全体の四分の一とかそれぐらいしかありませんが、それでもこれはランニングの本です。差別される側にいる主人公のサムにとって、走ることがどんな意味を持っていたのか、それがどんな可能性を切り開くことになったのか。そして、オリンピックの1960年ローマ大会と1964年東京大会でマラソンの連覇を達成したアベベ・ビキラ選手がサムに与えた影響とは…。

そんなことに興味がある方は、ぜひ手に取ってみてください。


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