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多様性を学ぶことは、目の前のひとりを知ろうとすること

先日、編集の仕事である失敗をした。
添削し終えたライターさんの原稿を最終チェックに回したところ、編集長より添削漏れの指摘をいただいたのだ。

記事はお酒のおつまみにぴったりな商品の紹介。下記の文章にコメントが入った。

「お父さんの晩酌のお供にもおすすめです」

「お母さんは?」

添削漏れ、というより私はこの誤りに気付けなかった。我が家では夫より私の方がお酒が大好きでよく飲むし、新婚時代に飲んでいた私に「既婚者はさっさと帰れ」と言った男友達への不満をブログに長々と綴ったこともある。なのにだ。

この添削ができなかった私は、「既婚者はさっさと帰れ」と言った彼の言動を助長している側になり得てしまう。編集長の添削によって「読者への影響に敏感にならなければ」と改めて思った。

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数か月後、別の案件にて企業研修のレポートを作成する仕事をいただいた。数社にインタビューを行った中「ダイバーシティ(多様性)研修」の話が特に印象に残った。

はっとした。多様性とはNGワードの暗記ではなくて、人を「年齢」「性別」などで括らず目の前のひとりを知ろうとすることなのだ。

それって、ライターや編集の仕事に必要なスキルそのものだよな、と思った。ライターという仕事を突き詰めると、インタビュイーの話を理解し、咀嚼し、表現する、コミュニケーションの仕事だと思うから。そして無意識のバイアスを無意識に広めてしまう職業でもあるから。

インタビュイーは、こうも言った。「多様性を学ぶことは、自分の考えや言葉を疑う力を身につけること。頭に浮かんだ考えをすぐに変えるのは難しいけど、口にするのを踏みとどまることがまずは大事」と。

ハッとした。そうか。多様性を学ぶことはそんなに簡単なことじゃないし、すぐにできなくて当たり前なんだ。でもだからこそ、早く取り掛からなければ。

というわけで早速、多様性について学べそうな2冊を購入。

昨日届いたので、早速山のような積読を無視して「SDGs、ESG経営に必須! 多様性って何ですか? D&I、ジェンダー平等入門」から読み始めてみたのだけれど、数ページで目から鱗が零れ落ちまくりだった。

(まだ40ページしか読んでないけれど)とくに印象的だったのが「カンヌライオンズ広告の男女比」について。

2019年のカンヌライオンズという世界的な広告費に応募された作品のうち、出演し、話している合計時間を男女それぞれ集計したところ、全体のうち男性が66.6%を占めていたそうだ。

ほかにも露出度の高い服装で登場するのは80%が女性であること。そして「思いやりがあり好感の持てる人物」として登場しているのは男性が45%で女性が55%であるというデータが語られていた。

データそのものについては正直あまり意外には感じなかったのだけれど(この思考がすでにダメかも...)「思いやりがあり好感の持てる人物」のデータに対する著者の考察にハッとした。

女性は優しく描かれているので、一見すると女性にとっては歓迎すべきことのようにも思えます。しかし、ここにステレオタイプが潜んでいるのです。

女性は思いやりがある、という先入観を広告で刷り込まれていくことにより、そうではないキャラクター(つまり思いやりがなく、好感が持てない内面)の女性に対して、女性らしくないと感じてしまうのです。逆に、男性が多少思いやりがなく、好感が持てない振る舞いをしても、それは男性らしさとして受け止められることになります。別の表現をすると、思いやりがあって優しい男性を見たときに、男性らしくないと思われてしまうのです。

この考察を読んで、鈴木涼美さんの著書『ニッポンのおじさん』を思い出した。そこに書かれていた「女としてもっと怖いのは、ビートたけしのようなものと向き合うこと」という話とリンクしたからだ。

鈴木さんによると、ビートたけしの何が怖いって、彼の作品に登場する女は”ただの一つも悪いところがなく、何一つ間違っておらず、何一つ矛盾せず、ただひたすら完璧に美しい”ところだそう。

私たちは、たけし軍団の下品な振る舞いや殿の破天荒なくだらなさをきちんと眼差して、それでも好きだと言っているのに、向こうはこちらの愚かしさは愛してくれないのだろうか。

言われてみれば確かに、男性の鈍感さや下手さは「男ってバカだから」「男ってかわいい」で済まされるところも、女性のそれは「気が利かない」「ガサツ」と言われがちだ。(そしてその空気を作るのは男性に限らない)

だけどそれは、これまで世間が作り上げてきたバイアスであり、これからを生きる人が変えられるのかもしれない。特にメディア側にいる私たちが少しの表現を気を付け続けることで、少しずつでも変えることができるのかも。


もうひとつ「SDGs、ESG経営に必須! 多様性って何ですか? D&I、ジェンダー平等入門」に書かれていたことで、メディア側の人間として心に刻もうと思った箇所があった。

私はメディアをつくる側の人間として、新聞やウェブ、テレビやイベントなどでも「男性だらけになっていないか」「女性だらけになっていないか」ということを、いつも気を付けて編集をしています。なぜなら、子ども達が見ているからです。

無意識に作ってしまった男性だらけの政治討論番組。それを当然の風景として次世代は見ているのです。「政治の話をするのは男性」「女性が政治の世界に入るのは難しい」と刷り込みをしてしまうことを、とても危惧しています。

子ども達が見ているから。そうだよ、それだよな。メディア側に存在し、コンテンツをつくるということは、次世代に対するバトンを創造することでもある。

誰もが発信できる時代、だからこそプロとして「何を、どう発信するか」には細心の注意を払っていきたい。目の前のひとりに誠実な人間でありたいと思った。

ちなみに上記2冊は事例や世界の動きがメインだったので、ものの見方を変えるトレーニングになりそうな↓を今日買い足し。「最高のリーダーは自分を信じない」という惹句もよき。


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