マガジンのカバー画像

OLIVE (映画マガジン)

25
映画を観て感じた「!」をつらつらと書いていきます✏️ 映画メディア「OLIVE」(http://olive-movie.net) の公式サイトも是非のぞいてください!
運営しているクリエイター

記事一覧

料理はアートのように、国境を越え人々をつなぐー『世界で一番しあわせな食堂』

フィンランドには、一度だけ訪れたことがあります。緑あふれるヘルシンキの街並みや、神秘的な力を秘めたヌークシオの森。 そのなかでも特に忘れられないのは、フィンランドをつなぐ空の色です。少し霞がかった淡いピンク色のグラデーションが、見渡す限り広がっていました。 映画「世界で一番しあわせな食堂」で映し出された空をみて、その時のことを思い出しました。 この物語の舞台は、フィンランド北部のラップランド。 “世界で最も空気がきれいな場所”と言われていて、本作の監督ミカ・カウリスマキはイ

「栄光のマイヨジョーヌ」 “人生を楽しむ”という哲学を共有する、オーストラリア発のロードレースチーム・グリーンエッジ。大怪我を負った新人、ラストシーズンを迎えるベテラン選手など、異なるバックグラウンドを持つ彼らが各々の役割を果たし頂点を目指す姿は、まさにチームの理想のあり方でした

「映画館にささやかなエールを」寄付金についてのご報告

4月より実施してまいりました、映画館へ寄付企画「映画館にささやかなエールを」についてご報告です。 約320名の方々のご協力により、総額30万円の寄付金が集まり、ご指定いただいた全国40館の映画館へお届けすることができました。 お届けした映画館は、以下になります。 ▼宮城県 フォーラム仙台 ▼東京都 UPLINK、新宿武蔵野館、新宿シネマカリテ、新文芸坐、ギンレイホール、下高井戸シネマ、シネマシティ、(K’s cinema)、ユーロスペース、シネマ・チュプキ・タバタ、シネマ

正義を貫くのは、愚かなことですかー「はちどり」

憧れの先生がいたこと。友達と授業をさぼったこと。自分の嫌な部分が目について、目を背けたくなったこと。 14歳の少女・ウニとは、生まれた国も時代も何もかもが違うのに、一つひとつの出来事がとても懐かしく感じられます。不安げな表情や時折見せる不器用な笑顔が、中学生の頃の自分のように見えてくるのです。 本作「はちどり」は、若さゆえの残酷さから目を背けず、わたし達の思春期に存在した日々をみずみずしく映し出します。 見守るという、寄り添い方。視線が心の扉をたたく平凡な家庭に生まれ、学

人とのつながりが、この世界をまた美しくするー「WAVES」

気づかぬうちに自分を責めていた、そう気づいたことが今までに何度もあります。嫌な思いをしている友達を助けかれなかったとか、正直な気持ちを言えなかったとか。そういった出来事がずっと心のどこかにあって、知らず知らずのうちに、いつまでも自分を苦しめている。それは誰しも経験のあることではないでしょうか。 映画「WAVES」では、自分の未熟さや他人を救えなかった後悔と向き合う過程を、兄タイラーとその妹エイミー2人の視点から描いています。 前編と後編でタイラーからエミリーへ視点がスイッチ

自分のまま、大人になることー「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」

自分の部屋で、SNSの世界に浸る主人公・ケイラ。その姿は自分の中学生時代の姿と重なります。mixiでクラスメイトのブログを読んだり、隣の学校にいる気になる人のプロフィールを見つけては喜んだり。SNSはまさに、青春の一部でした。 そんな日々を赤裸々に描く「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」は、誰もが過ごした青春時代の1ページを切り取った、宝物のような作品です。 メール、SNS、またLINEなどのアプリの登場は、コミュニケーション方法から人間関係の築き方までを、劇

「子どもが教えてくれたこと」 誰もの命が期限付き。それを物心ついた時から理解して、病気と向き合う子どもたち。不幸に見えるかもしれないけれど、彼らは誰よりも幸せのみつけ方が上手だと思いました。上手く行かなかったとしても「どう生きるか」が別れ道なのだと、子どもたちに教わりました。

〈インタビュー〉アダム・グジンスキ監督—大人でも子どもでもない。狭間で格闘する少年のひと夏の記憶

ポーランドの小さな町に住む、少年・ピョトレックの夏休みを描く「メモリーズ・オブ・サマー」 主に描かれるのは、母親と息子について。揺らぐはずのないふたりの関係が、母親の「浮気」という裏切りによって壊れていきます。 © 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Łódź -Miasto Kultury w Łodzi 監督は、ポーランド出身のアダム・グジンスキさん。自

「疑い」のフィルターを取り払う。ただ受け入れる、純真な心ー「幸福なラザロ」

青年は、初めてスクリーンに映し出された瞬間から、他の人とは違うものをみつめていました。 名前はラザロ。聖書の「ヨハネによる福音書」に登場する、イエス・キリストが奇跡によって生き返らせた人物と同じ名前です。 2018年、カンヌ国際映画祭で「万引き家族」と共に話題をさらった「幸福なラザロ」。渓谷に囲まれた小さな村で暮らす人々と、村を支配するデ・ルーナ侯爵夫人が、主な登場人物です。 村一番の働き者であるラザロは、どこか人間離れした魅力を持ち、そんな彼を中心に人間模様が描かれます。

ひとりの少年を悼む、救いのラブストーリー /「シシリアン・ゴースト・ストーリー」

1993年、シチリア島のパレルモで実際に起こった誘拐事件をもとに製作された「シシリアン・ゴースト・ストーリー」。 当時パレルモに住んでいた2人の監督がメガホンを取り、誘拐された少年・ジュゼッペへの追悼の意が込められた作品となっています。 この痛ましい事件は、監督2人の心に深く残り続けていて、当事者ではなくとも悲しみと無力感は何年経っても拭われなかったそうです。 いなくなってしまったジュゼッペをいま救うことはできませんが、せめて物語の中で彼を救いたいという作り手の思いが作品を

さよならのあとも、関係は続いていくー「ぼくとアールと彼女のさよなら」

映画のトビラvol.1 「ぼくとアールと彼女のさよなら」(Me and Earl and the Dying Girl) ひねくれ男子高校生と、少女の出会い主人公グレッグは、一歩引いて学園生活を眺めている、いわゆるひねくれ者の高校生。学校のすべての国のパスポートを手に入れ、みんなとそれなりに仲良くして卒業したいと願っていました。物語は彼のユニークな視点で語られ、テンポよく進んでいくのですが、彼の前に少女レイチェルが現れることで、生活リズムが変わっていきます。 心の中で成

歌い踊るように、手話をする未来へ。ー「ヴァンサンへの手紙」

【ろう者】 生まれつき耳が聞こえないか、言語を聞いて身につける幼少期に聴力を失った人。 映画「ヴァンサンへの手紙」は、監督・レティシア・カートンさんの友人ヴァンサンが、自ら命を絶ってしまったことをきっかけに企画されました。 ろう者であったヴァンサンが抱えていた苦しみと向き合い、それを世の中に伝えるためにろう者の内面をとらえるドキュメンタリーを、10年かけて制作したのだそうです。 「聴覚障害」を持った人は、世界に約4億7千万人。つまり世界の約5%で、日本国内では10万人とい

100エーカーの森は、永遠のこどもの記憶。ー「プーと大人になった僕」

はやく大人になりたい。 こどもの頃、よくそう願っていました。しかし大人になった今は、「こどもっていいな、戻りたいな」と思うことがよくあります。 イギリスでは、1830年代から始まったヴィクトリア時代に、子どもを崇めるような風潮がありました。子ども時代こそが人生最高の時期だと考え、大人たちは幼少期の輝きを求めました。その風潮から生まれた作品が「不思議の国のアリス」、「ピーターパン」… それに続くかたちで、1920年代に「くまのプーさん」が刊行され、イギリスで愛されるようになり

10代の映画は、大人のための映画。ー「もう一度観たいティーン映画BEST5」

恥ずかしいほど周りが見えていなくて、自分勝手で、なんだってできると思っていた10代の頃。 思い返すと、10代ってみんなモンスターだったなと、思います。 ティーンを描いた映画には、すごく大きなメッセージがあるわけではないことが多いですが、たまに映画を通して10代の頃を思い出すことは必要だと思います。あの頃炸裂していた自分って、いまだに変えられない自分の根幹だったりするからです。 今日は、ティーンの少年少女が思い切りティーンしている映画を5つ紹介したいと思います。 音楽で世界