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経営と知財 #4 組織機能設計 CGC対応には今の知財部門の組織機能では難しい

コーポレートガバナンスコードにおける人的資本と知的財産が密接な関係にあることは周知のとおりかと思いますが、ここでは人的資本と知的財産戦略の関係、その間にある組織機能設計について触れたいと思います。


1.知財立国、リーマンショックから知財戦略が発展してきた

政府が知財立国を打ち出していたころ、私が所属していた企業の特許出願数は右肩上がりに伸びていました。この頃、他の大企業も含め同様の傾向があったと思います。
その後、リーマンショックで経済が悪化し特許の量より質が求められる時代がきました。その頃からだったと思いますが、量を減らしても競合他社との競争に打ち勝つ特許とは何か、どのように出願していく必要があるのか、という議論が進み、質を求める中で知財戦略という言葉や取り組みが企業で浸透してきました。

2.知財部門には、技術好きが多い

私は当時、大手メーカーの知財部門に属していましたが、知財部門の人材は大きく3種類のタイプに分けられると感じていました。①法律的な側面が好きで知財部門にいる人、②技術者として入社したが知財部門へ異動してきた技術好きな人、③そして①か②の中で知財戦略というものに自ら興味を持ち探求する人、の3タイプです。
③のタイプは非常に少なく、感覚的には多くて10%いるかいないかだったように感じます。技術がわかっていないと仕事にならない部署でもありますので②が80%、①が10%といった感じでした。但し、のちに大学でも知的財産を学ぶことも増えてきていたようで、徐々に①や③の人材も増えてきたように思います。

3.人材育成の構造的に、組織機能上の課題が存在する

私もそうでしたが、上で書いた通り技術スキルが必須のため技術部門→知財部門へ異動するパターンがほとんどです。一方で当時、事業部門→知財部門や、その逆の知財部門→事業部門はほぼありませんでした。他社の方とお話ししていても稀に聞くことはありましたがほとんど同じ状況でした。
技術部門→事業部門と異動していった方はビジネスが好きな人が多く、これは私の主観ですが、細かーい法的な知識も求められる知財へは全く興味がない(笑)、一方で知財部門で技術と法的なディープな世界にはまるとビジネス感覚が弱い方が多い印象です。
この辺りのことを理由に、下記図のような課題が存在します。事業戦略とミクロな知財戦略(従来から知財部門が行っている知財戦略)を繋げる部分の欠如(fig.1ブランク部分)です。この部分をマクロな知財戦略と定義します。私は証券会社で知財(技術)を核にビジネスを創出するという少し特殊な業務に携わっていたのですが、お客様を支援する中でこの欠如は企業の大小に限らず共通して存在していました。
このマクロ知財戦略は、事業を主語に、事業の頭で、知財を最適化していく部分の戦略になります。事業上の持続的な競争優位を担保するための、費用対効果を加味した知財の最適化です。
(マクロ知財戦略の触りについては以前の記事、こちらこちらをご参照ください)


fig1. 時間軸と知財戦略に関する組織上の課題

昨今、知財業界では「IPランドスケープ」という言葉が定着していますが、これは知財部門からみた、知財側の都合での事業貢献目線になりがちです。知財を主語に事業に貢献する頭で思考しているのか、事業を主語にどのように知財が最適化できるかの頭で思考しているかはものすごく大きな違いです。
知財情報をどのように事業に活用できるかと言った時点で、知財が主語になってしまっていることが大半で、事業が主語になっていない現状があります。企業の経営層もあまり詳しくは知らないので、IPランドスケープという言葉に満足し、なんとなく自分たちが出来ている感覚に陥っている方が多い印象です。

4.事業側の立場の人間が歩み寄ることは難しい

私は現在事業側の立場で仕事をしていますが、ビジネスで勝っていくための要素の中で、知的財産はほんのごく一部でしかありません。特に立ち上げ時は検討することが多く、多忙で、後回しになりがちです。しかしその一部がビジネスを立ち上げ後の競争優位性にじわじわと効いてきます。
一方で大概の事業側の人間はこのことを本質的に理解できていません。これは個々人の能力云々ではなく、知財経験がない中で技術や法的なマニアックなところを理解するのにはそもそも無理があるためです。
事業側が歩み寄るか、知財側が歩み寄るかでいくと、技術や法的なマニアックなところを理解するのが早いか、ビジネス的なところを理解するのが早いかといった論点になり、私は後者の方が断然早いと思っています。ですので、まずは知財部門からの改革が必要と感じています。

5.一歩前進するためには、組織機能の再定義と、人材育成のキャリアパス設計が必要

特に大企業は上に書いた課題を認識し、考え方を変えていく必要があると思っています。人的資本が注目がされているのは、労働生産性の向上が背景にあります。
労働生産性を分解すると、働いた時間に対して創出した付加価値額です。付加価値額というのは、他社との競争関係の中で決まってくる額になります。競争優位の持続性も関係し、製品やサービスをリリースした時点の、スポットの付加価値額ではありません。知財は持続性の観点でクリティカルに影響しうる要素となります。
知財面を強化していくためには、事業と技術と知財の全てを理解する人材を作るか、或いは有機的に連携する組織構造を構成する必要があります。ここに書いた課題は、課題として表出しにくい(定量的にも定性的にも見えない状態になっている)ものですが、本質的に労働生産性に直結している問題です。取り組むべき課題であると経営層が認識するか否かも含めかなり難しい問題ではありますが、本気で検討すべき時に来ているように感じます。




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