見出し画像

ドアが閉まるその前に

子どもの頃、遠くに住んでいる祖母に会った後、お別れするのがすごく辛かった。

だから私は祖母と一緒にいる間、今、っていう瞬間をつかまえようと必死だった。
電車の窓から過ぎ去る景色を眺めながら、いま、いま、いま、と声に出してみる。
でも『いま』は、声に出した瞬間に今じゃなくなる。

祖母は私たちに会う時、姉と私に一箱づつキャラメルを買ってきてくれた。
そのキャラメルを大切に食べながら、これがぜんぶなくなる頃にお別れがくる、って考えたり、それなら食べ終わらなければいいのかなと思って、食べるのを我慢したり。

でもやっぱりいつもお別れの時はやってきた。
また会えるよ、っていう言葉は私には慰めにならなかった。
また、じゃなくて、いま、がいい。
私は、見送りに行った新幹線のホームで、ドアが閉まる直前に飛び乗ることを決意した。
それで、そのまま一緒におばあちゃんの家に行っちゃうという計画。

緊張の瞬間がやってきた。
祖母が新幹線に乗り込み、席に座ろうとしている。今しかない。
私はタッと新幹線に飛び乗った。
母の叫び声が聞こえたけど振り向かなかった。
そして私を乗せたと同時にドアは閉まった。

私が新幹線の中にいるのを見た時の、何が起きたのかよく分からない様な、混乱した祖母の顔。
その顔を見て私は、このまま一緒に行くことは出来ないんだ、と察知した。

新幹線の中で、車掌さんと祖母が話してる。
どうやら私は、ひとりで次の駅で降りて、反対側のホームに行って逆向きの新幹線に乗らなくてはいけないらしい。
携帯電話はない時代だったけど、車掌さんが無線だか電話だかで、私が戻るべき駅に連絡して母たちにも伝えてくれている。
私は落胆した。
でも、そういうものだ。
まさかそのまま祖母のところに一緒に行って『二人で楽しく暮らしました』っていうオチのわけがない。

でも少しだけ、祖母との時間を伸ばせた。
時間は止めることは出来ないけど、伸ばすことは出来るんだ。

母たちに会ってから、怒られたかどうかは覚えていない。
ただただ別れが辛くて、かなしみにくれていたのは覚えてる。

いつも私にとって別れは辛すぎる。
みんながいつも、こんな辛さを乗り越えているのなら、本当にすごいと思う。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?