嘉島唯

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嘉島唯

ニュースの編成をしながら、BuzzFeedやcakesで書かせてもらってます。noteでは100%個人の見解を書いています。📧yuuuuuiiiiikashima(@)gmail.com

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  • cakes連載「匿名の街、東京」アーカイブ

    cakesで連載させてもらったエッセイのアーカイブです。

    • cakes連載「匿名の街、東京」アーカイブ

最近の記事

オタクをこじらせて

中学1年生になった春。私の世界は突然広くなった。電車通学を始めたからというのも大きかったが、後ろの席に座ったFが、私と同じで『HUNTER×HUNTER』のクラピカが好きだったからだ。 彼女が通学バッグに付けているクラピカのキーホルダーが視界に入った。 「Fちゃんもクラピカ好きなの……?」 手探りで質問をすると、彼女の顔はパッと明るくなり、私たちはすぐに仲良くなった。 心底安心した。一人で電車に揺られて見知らぬ土地にある学校に通うことは、期待もありつつ、心細かったから

    • 立ち見の学生が溢れる授業「サブカルチャー論」

      先生が他界してから1年が経った。訃報は、ネットだけでもなくテレビのニュースでも流れていた。 私が在学していた頃から先生は入退院を繰り返していたけれど、まさかこんなにも早く逝ってしまうとは思わなかった。最期のツイートは「それにしても眠い。さよなら。宮沢章夫」だった。 80年代にコント集団「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」として活躍の後、90年代に劇団「遊園地事業再生団」を主宰した宮沢章夫先生。私は大学で先生の「サブカルチャー論」という授業をとっていた。 「サブカルチャ

      • 「自分が普通の女子高校生だったら、って思うことはないですか?」との質問に対するセーラーウラヌスの解答の秀逸さ

        先日「なぜ『セーラームーン』は、世界中の少女たちの胸を熱く燃やし続けるのか。大人になった今わかったこと」という記事を書いた。その際、原作を改めて読み直し、旧アニメを見返すことにした。あまりに膨大なので、ところどころながら視聴やら倍速で見ていたのだが、途中でかなりヒヤッとするセリフがあった。 美奈子(セーラーヴィーナス)が、はるか(セーラーウラヌス)に向かってこんなことを言うのだ。 思わず耳を疑った。 知っている人も多いが、はるかは原作の設定によると「男でもあり女でもある

        • あの頃のTwitterの夢と希望

          ハイボールを飲みながら、アニメ『チェンソーマン』を何気なく見ている時だった。あまりに懐かしいメロデイに耳を疑った。ドラムにベース……聴いたことがないはずなのに、私はこの曲を知っている。え、何これ。 思わず右手に持ったiPhoneですぐに検索する。作詞作曲のクレジットを見た瞬間、私は遥か遠くにタイムスリップした。 ここ、ここ、ここはどこ、宇宙—— ではなく、高円寺にあるマンションの一室だ。私は大学の授業終わりに中央線に乗ってここまでやってきた。四方を本棚に囲まれた1Kの「

        オタクをこじらせて

        • 立ち見の学生が溢れる授業「サブカルチャー論」

        • 「自分が普通の女子高校生だったら、って思うことはないですか?」との質問に対するセーラーウラヌスの解答の秀逸さ

        • あの頃のTwitterの夢と希望

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          「恋人未満」が決まった夜

          日が沈んで夜風が心地いい。遠くで音楽が鳴っている。フジロックは夜が一番楽しい。 プラスチックカップに入ったビールの泡はもう消えていた。現地で合流した男友達Kと芝生の上に腰をおろして、遠くのステージを見ている時だった。 「俺さぁ…」 「ん?」 「…Mに告白された……ぽいんだよねぇ」 「は?」 突拍子もなく言われたので、思わずフリーズした。 「いや……直接『好きです』とか『付き合ってほしい』みたいな文言じゃないんだけど…」と言いながらiPhoneを触っている。 「こうい

          「恋人未満」が決まった夜

          100万円が貯まったら、引っ越す

          「学生のうちにやっておくべきことは、旅に出ること。社会人になるとそんなことできなくなっちゃうからね」 社会人になったサークルの先輩がそんなことを居酒屋で話していた。周りのみんなが「やっぱそうなんすかぁ」とありがたそうに話を聞いているのを見て、私も一生懸命頷いたような気がする。 27歳。私がわかったのは、そんなのは嘘だということだ。 社会人5年目になった私の目の前に広がるのは、茜色に染まった宍道湖。学生の頃、アジアを中心に安旅を楽しんだことこそあったものの、国内旅行は片手

          100万円が貯まったら、引っ越す

          魔法の言葉を書き換える

          Twitterの方が自然で飾らない関係が築けるのは、私だけではないと思う。口下手なのに、直接顔を合わせると無駄に「相手を楽しませなきゃ」と肩に力が入ってしまい、余計なことを口走っては相手に不快な思いをさせて、自己嫌悪に陥る。 だから、Twitterが流行り始めた直後なんて、その場所にこそ真実があると思っていた。リアルな人間関係はとにかく窮屈で、嘘にまみれているような気がしていた。 燃え殻さんに出会ったのは、私が「社会なんてつまらない人間の墓場」だと考えていた学生の頃だった

          魔法の言葉を書き換える

          ライター目線で見る編集者の仕事(と、連載アーカイブのお知らせ)

          cakesが8月末に終了することに伴って、2018年から細々と書いてきた「匿名の街、東京」も一緒に幕を下ろすことになりました。 思い起こせば「cakesクリエイターズコンテスト」に軽い気持ちで応募して連載が決まったという完全なるラッキー案件でした。コンテストに応募したくせに「エッセイは書きたくないんです」と申し出て、編集者を困らせたのも懐かしい思い出です。 *** せっかくなので、編集者について自分の考えを書いてみようと思います。 「ライターと編集者」と聞くと、原稿を

          ライター目線で見る編集者の仕事(と、連載アーカイブのお知らせ)

          匿名性をくれる街、東京

          「地元」とは、どういう場所を指すのだろう? 生まれ育った街、長く住んだ都市、帰る場所……どれもいまいちピンと来ない。 埋立地で生まれ育った私にとって、地元の街は工業製品のようだ。 起伏のないコンクリートの地盤に、コピー&ペーストみたいに似通ったデザインのマンションが立つ。駅前にはイオンがでかでかと座り、その周りにコンビニが散りばめられる。見たい映画は近所のシネコンで上映しているし、TSUTAYAは深夜まであいていた。 この場所でしか味わえないものは、ひとつもなかった。

          匿名性をくれる街、東京

          平日の夕方、役所のトイレで泣いてしまった

          この文章は、ツムラ#OneMoreChoiceがnoteで開催する「 #我慢に代わる私の選択肢 」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。 数年前にできたのであろう、白を基調とした清潔感たっぷりのトイレで、私は泣いていた。なるべく息が漏れないように、歯を食いしばり、顔を手で覆いながら涙が止むまでじっと耐える。めんどくさいヤツだと思われるだろうが、小学生の時からたまにトイレに閉じこもって泣いてきた。公の場で突然目頭がカッと熱くなったとき、私は我慢ができない

          平日の夕方、役所のトイレで泣いてしまった

          「ふるえるほどのしあわせ」ってどこにあるんだろう

          「理想のプロポーズについてエッセイを書いてください」 このオーダーが来た時「難しいぞ」と思った。あまり自分の恋愛について考えたことがなかったからだ。 思えば昔からそうだった。幼い頃から異能力でバトルするマンガに熱狂し「私は戦いに行くんだ」と使命感に燃えていた。10代のときは生きること自体に疑問を持つ痛い子だったし、20代になってからは仕事一色でここまできてしまった。労働の世界でプレイヤーとして戦っていると思えば、使命を全うできているのかもしれない。 冒頭のオーダーをもら

          「ふるえるほどのしあわせ」ってどこにあるんだろう

          「モテそう」どまりの自分。決定的に足りない何か

          生活に空白があるのが怖い。だから、いつも予定をいっぱい入れて空白を埋めてきた。飲みに誘われると安心してしまうのは、カレンダーがひとつ埋まるからだろう。 でも、リモートワークが始まってから家を出る機会は激減した。下手をしたら、一言も発していない日もある。 コロナウイルスは思った以上に生活を大きく変えてしまった。最初はニュースを見てもピンと来なかったけど、有名人の訃報を聞いたときは、さすがに怖くなった。とはいえ、人類ってこれまでも疫病を克服してきたから、数か月も経てば特効薬が

          「モテそう」どまりの自分。決定的に足りない何か

          14歳、サブカルへの目覚め

          スカウターでも備えているかのように相手の戦闘能力を計る。同時に自分も同じまなざしにさらされていることを感じる。同じ柄の制服を来て、同じ教科書を開き、多分昨日の夜は同じテレビ番組を見ている。それなのに、教室の中には確実に序列があった。 男子だったらサッカー部にバスケ部、女子だったらバトン部が上位にあり、存在感と比例するようにカーストができている。華やかさも部活マジックも持っていない平民は、いつ貧民に落とされてもおかしくない。昨日まで仲良く話していたのに、今日から冷ややかな対応

          14歳、サブカルへの目覚め

          “クリエイティブ勢”の傲慢と失敗

          同じ言葉でも「誰が言ったか」で印象が格段に変わることがある。重みが違うのだ。 例えば、「音楽に力はない」という意見は、一流の音楽家と私が発したものだと説得力がまるで違う。一流の人が発する本質を目の前に、素人はうなずくことしかできない。 東浩紀さんの最新作『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』は、まさに「この人に言われてしまったら、もう反論できない」と思わされる一冊だった。 "クリエイティブ勢"本書は、哲学者として第一線を走ってきた東浩紀さんが、2010年に自身の会社「ゲ

          “クリエイティブ勢”の傲慢と失敗

          嘘をついた日のこと

          人間は4時間に1回、嘘をつくらしい。実際、僕は無意味な嘘をつく。 六本木通りを一本入った雑居ビル。一等地にもかかわらず、平日はビール1杯180円という破格の安さがウリの大衆居酒屋で、僕は小さな嘘をついた。 ビールケースにベニヤ板をのせたようなテーブルの上に、氷の入ったハイボールが運ばれてきた。まるで決まっているかのように、ジョッキを軽くぶつけて液体を喉に流し込む。 初めて飲んだハイボールは消毒液みたいで全然美味しくなかった。 「ハイボールよく飲むの?」 「うん」 *

          嘘をついた日のこと

          「20代と30代って、仕事も恋愛も全然違うんだよ」

          「ちゃんと仕事もして、外見だって悪くないし、性格もいいのにね。モテそうなのに」 あー、出た出た。「モテそう」フォロー。相手は悪気がなくて、こうやって斜に構えてしまうところが自分はモテない側なんだって痛感する。 「モテそう」って言われる人は、モテない。モテてる人は全然違う言葉を言われるからだ。例えば「今度は2人で会いたい」とか「好きになっちゃいそう」とか。モテる人は「モテそう」なんて思われる前に、もう惚れられている。 30代になって、周りが結婚とか出産とか、家を買うフェー

          「20代と30代って、仕事も恋愛も全然違うんだよ」