子供たち

 僕はヨーヨーで遊んでいる。スマホ全盛期の時代に随分と健気な……と思われるかもしれないが、別にお金が無いわけではない。ただ好きでやっているだけである。
「おい、ヨースケ」
 友達の吉田君が声を掛けて来た。親の影響なのだろうか、茶色の髪をしている。
「うち来てマリマリ大乱暴やらね」
「いいけど、他に誰か来ないの」
「ああ、コウキとか来る筈だったんだけど、ブッチくらった。まあいつものことだから予想はしてたけど」
こうして僕達は学校から吉田家に向かった。

 吉田君の両親は共働きである。母親は夕方には帰って来るが、父親は単身赴任中で一年に数回しか会わないのだと言う。別に寂しくないけど、吉田君は自らの境遇について、こう形容する。
 僕たちはゲームで数時間遊んだが、いくら面白いゲームでも何時間かやり続ければ飽きてしまう。第一、このゲームは四人そろってこそ面白いのに、二人だと単調すぎるのだ。仕方ないから、宿題の算数をやることにした。
『明るい計算』
 数学のドリルの名前である。名前に反して、やってみてもちっとも気分は晴れない。僕の家は別に貧しいわけではないけれど、塾には通っていない。わざわざそんな所に行く必要、感じていないからだ。吉田くんも同じく通っていない。
「……なあ」
「なに」
「ヨーヨー貸して」
 僕は吉田君にヨーヨーを貸した。吉田君は無言でヨーヨー遊びをしている。僕もそれを黙って見つめている。吉田君家に来てするのは、毎回こんなものだ。残念ながら吉田君はいつもすぐにヨーヨー遊びには飽きてしまうのだけれど、ヨーヨーはお金がかからないからいい。その後またしばらく、僕達はゲームをやった。

「……そろそろ母さん帰って来るわ」
「ああ、じゃあもう帰るね」
「おう」
 僕は吉田君の家を出た。お茶しか出されないから少しお腹が空いた。尤も、僕も何も持っていかなかったのだから文句を言える立場ではない。けどまあ、吉田君の所にはよく遊びに行くから、毎回お菓子を持っていくとお金がかかるから、仕方がない。僕は帰路についた

……というのがいつもの流れなのだが、何の気紛れか、僕は吉田君のお母さんっていつ帰って来るのだろうと疑問に思って、すこし団地の前で待ってみることにした。数回顔を見たことはあるから、見ればわかるはずだ。僕のお母さんと同い年だとしたら、少し若く見える。
 一時間経ったが、吉田君のお母さんは帰って来なかった。二時間経っても、帰って来なかった。既に辺りは暗くなっていた。僕は怖くなって、自分の家に走って帰った。
 僕はランドセルから鍵を出して扉を開けた。やっぱり真っ暗。まだ誰も帰っていない。電気を付けて手洗いうがいして、夕ご飯をチンして食べて。その後やっぱり僕はヨーヨーをした。ヨーヨーは、一人でやれるから好きだ。

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