zaderan

「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」

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最近の記事

エロスの魅惑

YOASOBI様の『夜に駆ける』の原作小説、 「タナトスの誘惑」(https://monogatary.com/episode/33827) 「夜に溶ける」(https://monogatary.com/episode/43142) の二次創作です。 「あ!」  素っ頓狂な声で叫んだ僕にクラス中の視線が集まった。漫画やアニメではお馴染みのシーンだけど、いざじろじろ見られる立場になると、なんとまあ居心地の悪いものだ。 「……すみません。なんでもないです」  その言

    • ちくわランド

       遊園地で「ちくわ」を咥えている。馬鹿みたいに見えるかもしれないが、誰も笑いはしない。馴れとは恐いものだ。  温暖化が進みに進み、ついに空気中の酸素濃度は人類が生きるに満足するものではなくなった。そのまま絶滅するものかと思われたが、テクノロジーが人々を救った。空気中の二酸化炭素を、瞬時に酸素に変換する機械が生まれたのだ。「ちくわ」と呼ばれるそれを、人々はいつも口に挟んでいる。最初は間抜け、格好悪い、と罵られもしたが、最終的にはプライドよりも命が重んじられたのだ。  私は遊

      • 友達少ないVS友達いない

         どんな人にも嫌いな言葉があるだろう。それは「馬鹿」や「死ね」といった悪口かもしれないし、自分の好きなアイドルに対する誹謗かもしれないし、もしかしたらシンプルに”響き”が気に入らないのかもしれない。  「友達が少ない」私はこの言葉に散々苦しめられてきた。不幸にもインターネットなりSNSなりで目に入ってしまうと、私はすぐさま画面を変えた。それでも、一瞬の不快感が後々まで尾を引き、「自分は嫌なことから目を逸らす人間なのだ」と、なぜか自分の事を責める次第であった。冷静に考えると、

        • O大学のS教授

          私はS教授、いや、S元教授の家に招かれていた。S氏はもともとO大学の文学部で長らく教授をしていたのだが、とある雑誌に寄稿した記事が、その当時世間を騒がせていた事件の被害者や遺族を直接的に侮辱しているということですさまじい批判を浴び、大学教授の地位を追われて世間から姿をくらました。以降の消息は途絶え、死亡説すら流れているがそれはまるきり間違いで、あの騒動から二十年近く経った現在でも存命中である。  ただ、歳のせいかひどく認知症が進んでおり、まともに会話などできるはずもない

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          月の光が差す部屋で

          「そろそろかな」 「そうかも」 「何かいうことある」 「今更」 「まあ、いいじゃん。どうせ最後なんだし」 「色々ありがと」 「こちらこそ」 「まあこんなこと言っても何もならないけど」 「いいじゃん。そんな悪くない人生だった」 「そうなの」 「少なくとも最後はね」 「そうなんだ」 「君は」 「平均値ぐらいなんじゃないの」 「うん」 「だけどここまで生きていられただけで、凄い運がいいんだろうね」 「確かに」 「キスしてよ」 「いきなり」 「最

          月の光が差す部屋で

          ツポーツ新聞に捧げる掌編

          スポーツのニュースを報じているつもりが、どういうわけか芸能ネタばかり取り扱うようになってしまった。 「新聞」を名乗るにも関わらず、どういうわけか嘘をつくことも厭わなくなってしまった。 嘘をついていたはずなのに、どういうわけか誰に注目されることもなくなってしまった。 僕は願っている。スポーツ新聞の編纂に携わる人々が哺乳瓶を加えながら、豚にキリスト教風の子守唄を歌うのを。 僕は願っている。スポーツ新聞が栄光の歴史を誇るアナキズムの王国に、一輪の花の代わりにカメム

          ツポーツ新聞に捧げる掌編

          子供たち

           僕はヨーヨーで遊んでいる。スマホ全盛期の時代に随分と健気な……と思われるかもしれないが、別にお金が無いわけではない。ただ好きでやっているだけである。 「おい、ヨースケ」  友達の吉田君が声を掛けて来た。親の影響なのだろうか、茶色の髪をしている。 「うち来てマリマリ大乱暴やらね」 「いいけど、他に誰か来ないの」 「ああ、コウキとか来る筈だったんだけど、ブッチくらった。まあいつものことだから予想はしてたけど」 こうして僕達は学校から吉田家に向かった。  吉田君の両親は共働きで

          子供たち

          3つの即興

          ・我らの時代の箱舟  ある日、神様は世界を滅ぼすことにしました。しかし、生きとし生ける者すべてを殺すのは忍びないので、ある者にはこれから自分が大洪水を起こすことを予め告げておきました。そして、凄まじい規模の災害でほとんどの生物は死に絶えました。そんな中、大海原の中にぽっかりと浮かんでいる船が一隻おりました。 「……」  彼は自分の言葉を信じてくれる生き物たちと一緒でした。あらゆる生物のオス、メス、一匹ずつが船にはおりましたから、長い長い年月をかければ再び彼らが繁栄するこ

          3つの即興

          Drive My Car

           大学に入ったから免許でもとろうかと思って自動車教習所に通うことにした。自分と同じような若者が多いが、中には3、40代くらいの人もちらほらいる。  運転はすぐに慣れた。まあ、この国には免許を持ってない人より持っている人の方が多いくらいだから、特別苦労することでもないのだろう。2ヶ月ほどで、無事に免許を習得することができた。  免許を取ったはいいものの、別に特別車を運転しなければならない事情がある訳でもない。第一、我が家は車を持っていない。別に自家用車がなくてもカーシ

          Drive My Car

          異常な博士の偏狂

          「一日十本コーラを飲んでるんですよオ、私は」老人は言った。多分嘘だろう。  私はとある週刊誌の記者である。週刊誌というと芸能界のゴシックネタばかり取り上げている印象があるかもしれないが、案外真面目なテーマを取り扱うこともある。私は「真面目」担当なのだ。  ここ数年私が調べているのが、過去に不正な研究を発表した研究者たちの末路である。数年前に嫌というほど話題になった研究(あるいは、研究論文)の不正だが、別に最近になっていきなり科学者たちが不誠実になった訳ではない。自らの業績

          異常な博士の偏狂

          変身

           彼氏が牛になった。朝からひっきりなしに牛乳を出しているから思わず飲んでみると、やっぱりおいしい。  小学校に上がったばかりの息子も牛を気に入ったようで、背中に乗せてもらってご満悦である。息子は別れた夫との子だ。思えば、結婚時代はひどいものだった。それまで優しかった夫が役所で婚姻届を出すや否や、途端に高圧的になった。どんどん冷たくなって、温厚だったのに怒りっぽくなって、それでも別れられずにいたが、私が子供を宿したことを知るや否や家を出ていったのだ。何であんな男と結婚してしま

          物思い

           彼と結婚してそろそろ5年になる。結婚生活は幸せで、いつまでもこの時間が続いてくれたらと願うばかりではあるけれど、一つだけ不満がある。彼がタバコを吸わないのだ。  私は喫煙者だ。今の時代タバコを吸わない人は多いし、女は尚さらそうだけど、私はタバコを吸っている。なぜ?別に深い理由なんてない。なんとなくタバコを吸ったら、案外いいなと思っただけ。非喫煙者の中には、タバコをわざわざ吸うなんて一体何故だとか、時には喫煙している背景にある種の「ストーリー」を求める人までいるけれど、ち

          物思い

          あるヤクザとの対話

          「僕はヤクザなんだ」 カラーコーンはそう言った。三つ重なっているが、とても僕の身長に届きそうにはない。 ヤクザにしては随分と可愛らしいんだねと感想を述べると、カラーコーンは、それは現代のヤクザの事情を知らない人が言うことだよと教えてくれた。なんでも、厳つい強面の男たちの集団なんてのは過去の話で、人口に膾炙するために一見、いやどう考えてもヤクザとは繋がりのない物に仕事を委託しているのだという。 とは言え、カラーコーンに出来ることなんて、勝手に道を塞ぐ位だ。それも、

          あるヤクザとの対話

          日本でリバタリアニズムが流行らない理由の考察

           しばしば、日本では「自己責任論」が唱えられる。  自己責任論とは、なにか問題が起きるとそれを社会や周りの環境ではなく、専ら個人の責任に帰す考え方だ。あんなことになったのはお前が悪い、自分でなんとかしろ、周りに迷惑をかけるな……典型的な自己責任論者の主張は、このようなものだ。現実世界でこんなことを言う人がどれくらいいるかはともかく、ネットやSNSでは決して珍しくないタイプの物言いである。  私は日本以外の事情には通じていないから、自己責任論が日本に特に見られる思想なのか

          日本でリバタリアニズムが流行らない理由の考察

          お題『避難命令』

           なんとなくラジオをつけていると突然、すぐに避難してくださいとアナウンサーが叫んだ。地震か、それとも竜巻かと身構えていると、なんと宇宙人が侵略してきたのだという。信じられない話であるが、どうやら都心の方は既に壊滅状態にあるそうだ。このままでは、ここが火の海になるのも時間の問題である。  逃げなければと、本能的に感じた。多分、肉食動物に襲われる時の被捕食動物の気分はこんなものなのだろう。早速家を飛び出したが、ここであることに気付いた。逃げるといっても、一体どこに逃げればいいの

          お題『避難命令』

          棒人間たちの住まう村で

           旅に出たのはいいものの、生来の迂闊な性格が災いしたのだろうか、森で迷ってしまった。もう二日も何も口にしていない。このままでは倒れるのも時間の問題だと絶望しかけていた所、何者かが近づいてい来る足音が聞こえた。見ると、そこには棒人間がいた。ついに幻さえ見えるようになったかと乾いた笑いが漏れたが、どうやら彼?は手招きをしているようなので、付いて行くことにした。どうせこのまま彷徨って死ぬのを待つくらいならとやけになっていたのだが、なんと森を抜け、村に辿りつくことができた。棒人間に勧

          棒人間たちの住まう村で