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#9 集落の教え100 著:原広司(私の本棚③)

「私の本棚」の第三弾目はこちら、「集落の教え100」という本です。発行は1997年と今から20年以上前になりますが、大学3回生の終盤か4回生に入ったあたり、ようやく周囲の人並に建築の本を読むようになった時に購入し、今でも自分の本棚に置いている本です。

大学の教授であり、建築家でもあるような人を「プロフェッサー・アーキテクト」と言いますが、著者の原広司先生は、長年東京大学で教鞭をとりながら、梅田のスカイビル・京都駅ビルなど名だたる建築の設計をされてきた典型的なプロフェッサー・アーキテクトです。

この本は、そんな原先生が20年以上にわたって行ってきた世界中の集落調査をもとに、集落が教えてくれる空間デザインのヒントを100項目に整理してまとめた本です。

構成はいたってシンプルです。見開き2ページに「複雑さ」「湿度」「寸法」など短いキーワードとそのワードが示すシンプルな格言、それを補足する文章と写真が掲載されるという構成で、100項目の「教え」が羅列されています。下写真のページでは樹木と建築の並ぶブルキナファソの集落を例に「樹木と建築との距離感」の重要性について述べています。

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4回生前期の設計課題が「境界の相対化」という抽象度の高い課題であったこともあって、その設計課題の拠り所となるデザインのヒントがないか、とこの本に付箋をいくつか貼っていまして、今もその付箋が残っているので、いくつかを紹介したと思います。

[19] 差異と類似
集落の間で、建物の間で、部屋の間で、差異と類似のネットワークをつくれ。
[64] 境界
様々な境界に意を払え。境界は、秩序の原因である。
[95]  道
道は、ループをもつ川である。流れである。建築や集落に様々な道をつくれ。そして、建築と集落を径路化せよ。

などなど。一見すると難解で、よくわからない格言が並んでいるのですが、集落の写真と説明文を読むと「なるほど、こういうことが言いたいのか」という雰囲気が見えてきます。なかには、[26] 秘密結社、[38] 夜明け、など厨二心をくすぐるワードも出てきて面白いです。

そもそもの話ですが、「実習」や「実践」ではなく、「本」でデザインを学ぶというのは意外と難しいことです。なぜならデザインというジャンルが言語化しにくいものだからです。ですので、巷に溢れているデザインの本は、哲学的あるいはデザイン理論のような堅いものか、著者の自伝的なもの、あるいは「プレゼン必勝法」のようなハウツー本のどれかである場合が多く、この本のように読み物としても面白くて、デザイン手法の手掛かりが学べる、というものは非常に貴重だと思います。

この本に記載されているのは、世界の集落調査を通して原先生自身が学んだ(あるいは気づいた)空間デザインのヒントですが、なかには普段自分が見慣れているはずの住宅街や都会の景色などにも当てはまることもたくさんあります。さらに上に書いた「境界」の格言のように、空間だけでなく、人間関係の話だったり、仕事の話に拡張できそうなものなどもあります。

そう考えると、この本は、設計やデザインを仕事としていない私にとっても今なお「気付き」を与えてくれますし、設計を生業にしているか否かということや、時代を問わず、今後も読み継がれていくべき名著だと思います。

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