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エジプト航空からエミレーツ航空へ!?

続き:

「エジプト航空国内線で、キャビンアテンダントをしないか」

そうスカウトされたものの、無視しようと思ったが、友達のヨウコさん(仮名)に

「断るにしても、もう少し話を聞いて損はないよ。エジプト航空の偉い人とちゃんと知り合っておいて、損はないから」

と言われ、それもそうだなと思い直し、カイロのエジプト航空オフィスにも足を運んだ。


じっくり話を聞くと、実のところ心が動いてきた。

というのも、エジプト航空で働けば年に二回だったかな?(うろ覚え)無料で日本行きフライトに乗れる、しかもビジネスクラスでもファーストクラス(crew class)でもオッケーだという。

家族も確か半額だが80%オフでビジネス/ファーストクラスに年に一回は乗れるという。(一回以上だったかも)

「日本人の君にとっては、安い給料で呆れるというのは分かっている。だけどフリーエアーチケットなどの特典があるし、君のキャリアに損はないんじゃないかな」。

「ウ~ン、だけどそれ以前に事故が多いのが気になります。なんでしょっちゅう事故があるのですか?」

「アエロフロート(ロシア)の引き下げ中古機体を使っているからねえ。仕方ないよ、ははは」。

(↑現在は違うと思います、多分。また当時でも全機体がアエロフロートのお古ではありませんでした、他社のお古もいろいろ飛んでいました)

「とりあえず、エジプト航空見学ツアーでもどうだい?」。

そう言われて、エジプト航空の人間しかいけない場所や空間に連れて行ってもらった。その一つが機内食工場だった。


びっくりした。

従業員たちがマスクをしないで、しゃべりながら機内食の食品を詰めていたのだ。しかも空中にはハエも飛んでいる! 背筋がゾゾッとした。

これを目撃してしまってから、それ以降エジプト航空に乗っても絶対、機内食を口にせず、CAさんにお湯をもらいカップヌードルを食べるようにした。

(↑昔の話で、今は衛生上ちゃんとしていると思います)

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スカウト氏は大変口がうまく(エジプト人はみんな口先上手だけど)、あれこれおだてたり良いことのみべらべら話してきていたが、最後の最後で一番大事なことを口出した。

「だけど一つ問題がある。それはエジプト国籍所有者ではないと、エジプト本土ではエジプト航空会社で働けないことだ」。

「...」

確かにそうなのだ。

だから以前、私の隣に住んでいた、某アラブ国国籍の男性も、パイロットの資格を持ち経験もあるのに、エジプト航空で働くことができなかった。

でもわざわざ向こうから、一目で外国人と分かる私をスカウトしてきたということは、この問題を特例か何かでクリアできるのだと思っていた。でもそうじゃないのかっ!

「じゃあ、私が働きたくても無理じゃないですか」。

するとスカウト氏はあることを提案した。

「エジプト国籍を取ればいいんだよ。簡単だよ、手を貸してやるから」。

「!」

ムギューッ!!!

勘弁してください、日本国籍を捨ててエジプト国籍になってしまったら、今後日本"入国"ですらもビザ取得が大変じゃないか。

スカウト氏は続けた。

「エジプトの男と結婚して、帰化申請する方がスムーズにいくだろう。なんなら私と結婚してもいいぞ、ハハハ」

「!!」

まさかの求婚!

「妻はすでにいるが、女きょうだいみたいなもので、全然口すらも聞いていない。家はホテルに過ぎない。ただ横たわって眠るだけの場所だ。だから妻のことは気にしなくていい。どうだい、私と結婚するかい?」。

「...」

オッサン、冗談でも気色が悪い。

「大変申し上げにくいのですが、日本も父親が決める相手としか結婚できない伝統です。

よって、私も父親の許可無しでは、勝手に結婚はできないです。

いずれ日本に戻るつもりなので、エジプト帰化もできません。色々とお世話になりました。ではこれで...」

するとスカウト氏は

「待て待って!」と慌てて引き止めてきた。

「日本人の乗務員が一人でもいる方が絶対いいんだ。事故や病人が出た時に、すぐに日本語応対できる日本人乗務員にいて欲しいのは本当なんだ。

だから日本国籍のままでも採用できないか、もっと上に掛け合ってみる。待っていてくれないか」。

「承知しました、インシャアラー」。

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後日、「やっぱり駄目だった」と連絡がきた。

そうだろうな、と思った。とにかく、国籍の件で採用できないというのは、一番基本的な部分なのだから、先にそこをクリアにしてから、声をかけて欲しいものだ。

しかし、まあ仕方ないと思い、これでこの話は終わったと思った。

ところがスカウト氏はこう提案してきた。

「エジプト本国では、外国人の君を雇えない。しかしエジプト航空日本支社が東京と大阪にある。

東京支社に君を採用させ、実際はエジプト国内線で働くという形態を取るのがいいと思う。

国内線の乗客80%は日本人なので、日本人乗務員が欲しいんだ。

言葉を話し、エジプトをよく理解していて、エジプト観光地にも詳しく、サービス業の経験もあって、身長体重視力も全部条件を揃えている。こんなうってつけの人材は他にいない。頼む」。

「...」

ここまで言われたら、嫌な気などしない。むしろ感激した。

エジプト航空はよく機材トラブルを起こすし、絶対エジプト人乗務員たちは意地悪をしてくる。

そういった諸々の覚悟は必要だったが、チャレンジしてみてもいいかな、と"その気"になった。

「明日、エジプト航空東京支社の偉い日本人がカイロに来る。紹介するから、よろしく頼む」。

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そうして、現れたのが林さん(仮名)だった。

事前に話を聞いていた林さんは、大幅に遅刻して面接の場に現れた。

彼は露骨に不機嫌そうで、私が頭を下げ挨拶すると、はっきり無視をしてきた。

そして「疲れている」「忙しい」「付き合ってらんない」など、日本語でいっぱいぶつぶつ言った。

エジプト人スカウト氏が、英語でゼロから説明をした。

「ハヤシさんもご存知のとおり、エジプト航空国内線も日本人の乗客だらけだ。

ツアーグループはともかく、日本人個人客とはトラブルが多く、しかし彼らは英語を話さないため、エジプト人乗務員とやり取りができない。

そこでこちらの国内線でも、日本人乗務員を採用したい。ところが、外国籍だと雇用できない規定がある。

だから、ハヤシさん側の、日本支社採用ということにしてもらいたい。で、出向という形で彼女(=私)には、エジプトで働いて貰いたいんだ。

Loloさんは度胸もあるしガイドもやってきたし、エジプト人のことも分かっている。彼女を雇いたいんだ、どうか力を貸してくれ」。

「...」

隣で聞いていて、胸が熱くなった。感激で涙ぐみそうになった。

しかしハヤシ氏はやれやれ、くだらないと呟きドカンと背もたれに寄り掛かり、脚を組んだ。

「スカウト氏よ、はっきり言わせてもらうが同じエジプト航空とはいえ、そちらとこちらは実質上、別会社だ。

日本採用は、日本支社の日本人で決める。エジプト側に一切口を挟んでもらいたくない。

そして日本支社採用になったら、こっちから彼女の給料も出してすべてフォローせねばならない。はっきり言って迷惑だ。

エジプトで働くスタッフのことは、どうかそちらだけでやってほしい。日本支社を巻き込まないでくれたまえ」。

林氏曰く、日本採用だと非常に条件は良く、福利厚生は手厚く、給料もとても良いという。

そのかわり、採用基準もハードルが高い、と。厳選な試験の上で、そこを勝ち抜いた者だけを、雇っているらしく、

私のようなカイロなんかで留学していたとか、観光ガイドをしていたという人間なんて、形だけでも雇いたくない、関わりたくもない、と彼ははっきり切り捨てるように言った。


一応、履歴書を見せたが、それを眺めながら

「いるんだよねえ、添乗員しているから乗務員もやれる、と勘違いする馬鹿が」。

"馬鹿"と馬鹿にするように言ったのは、今でもはっきり、はっきり覚えている。不採用にするにしても、酷い言いようだったから。


スカウト氏もあんぐりした。ここまで林氏がけちょんけちょんに言うとは思っていなかったのだ。

ここで認識の差があって、エジプト人スカウト氏にとって、航空会社も旅行会社も、同じツーリズム。

が、(古い)日本人の林氏にとっては、航空会社はずっと格上。一緒にするな、と。


さらに林氏は日本語で私に向かい、こう言った。

「エジプトのエジプト航空はレベルが低いが、日本のエジプト航空はハイレベルなんだよ。

君みたいな人間が関われるような会社ではない。それにアラビア語が話せるなど、全く役に立たないからね」。

そうして林氏は立ち上がって去って行った。ちなみに日本人乗務員女性二人が、実はその場におり、一部始終全て目撃していた。

だから林氏がいなくなった後、彼女たちが謝ってくれ慰めてくれた。

「林さんはああいう人だから、誰に対してもああいう口の利き方をするから、気にしないでね...」。


ちなみにその数年後、エジプト航空東京支社閉鎖前に、彼女たちは退社。やはり"地上職"への転職はとても大変だった、と。

とりあえずテンポラリーで、ひとりは都内のカフェでウェイトレス、もうひとりは派遣でコールセンターへ。林氏はどうなったのか知らない。

(※現在、林氏がいた東京支社は今でもないままだが、大阪支社は再開した模様、多分)

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「Loloさん、本当に申し訳なかった。まさかハヤシさんがあんなキツい言い方をしてくるとは思っていなかった。本当に不愉快な思いをさせて申し訳なかった」

後日、スカウト氏が電話をかけてきて、謝ってきた。

もちろん、結構グサッときたし、腹が立って仕方なかったが、スカウト氏が悪い訳ではない。なのでスカウト氏自身には全然怒ってもいなかった。

ところがスカウト氏の方は本当に気にしてくれたようで、「ああ自分のせいで嫌な思いを味わわせてしまったなあ」と。

「それで、謝罪の気持ちで一つ、私の申し出を受けて欲しいのだが」

「えっ?もういいですよ、全然気にしないでください」

「いや、せっかくなので聞いて欲しい」

「分かりました、おっしゃってください。何ですか?」

「エミラートに連絡を入れておいた。エミラートの試験を受けてみなさい」。

「えっ!?」

「Loloさん、君の履歴書は既に先方に渡してある。書類選考はパスだ。筆記試験を受けに行きなさい。

ドバイなので、エジプト航空とは無関係だから、これ以上私は何も手助けできない。

エミラートは日本就航がないので、日本支社はない。言葉を返せば、ハヤシのようなヤバーニ(日本人)の嫌がらせが入らずに済むというわけだ。どうだい?試験を受けてみるかい?」。

「...」


不意打ち過ぎてびっくりした。

エミラートというのはちなみに日本語でエミレーツ航空のことだ。日本ではまだ知名度はなかったが、中東では有名なゴージャス航空だった。

しかし、いつの間にか私が航空会社勤務希望ってことになったのだ!?

本当にいろいろ訳が分からない、でもそれがエジプト...!



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↑スカウト氏の親戚の子供(今はもう成人)。エマニュエル夫人椅子にウケました。

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