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カイロの伝説のカクテル


  土曜日です。今宵はSuffering Bastardのカクテルでもいかがでしょうか?
レシピはブランディーコニャック、ジンジャーエール、ジン、ライムジュース、黒砂糖シロップか白砂糖、アロマティックビター、ジンジャービアー。

 このカクテルは第二次大戦中にカイロの英軍にいたイギリス人老人たちが
「ああSuffering Bastardが飲みたい、懐かしい」
というようなことを呟いていたものです。
 非常にインパクトあるカクテル名です。気になって仕方がありません。その後インターネットが普及すると(ダイヤル回線で)「ああこれか!」と感激しました。
 もちろん今回、 『エジプトの輪舞(ロンド)』の小説にも登場させました。このカクテルを発明したのは本書に脇役で少し出てくるジョー(トップ画像)です。
 彼はエジプト生まれのユダヤ系でした。本にも書きましたがスエズ戦争の時まではカイロとアレクサンドリアには大勢のユダヤ系エジプト人がおりました。

 ジョーはフランスの大学で化学を学び、その後そっちで化学者になります。しかしある時うんざりし突然仕事を辞め(←あるある)カイロに戻ります。
 カイロには当時「伝説の」ホテルと言われたシェファードホテルがありました。(シェファードホテルは下書きが完成している1800年代編と今回の「エジプトの輪舞(1900年編)」の主な舞台のひとつです)
 そのホテルのバーがバーテンダーを募集しており、帰国後のジョーはそこに就職します。
 するとどうでしょう。もともと化学者ですから、酒の調合がもうそんじょそこらのバーテンダーとはまるで違い、緻密な計算に基づいた魔法のような素晴らしいカクテルを次々に作り出すのです。
 しかも一度来た客の顔と味の好みは絶対忘れない天才だったため、その人その人に合ったカクテルを提供しこれが評判を呼び、いつしかシェファードホテルのバーは「ロングバー(The Long Bar)」と呼ばれるようになりました。なぜならジョーの作るカクテル目当ての客が殺到し、常にバーカウンター前には長蛇の列が出来たからです。

 どのくらい評判かといいますと、第二次大戦の前半では英領軍の軍人たち(インド兵士、オーストラリア兵士、ニュージーランド兵士)はシェファードホテルに入るのを禁止されていたのですが、
「俺たちにもジョーのカクテルを飲ませろ」
と声を上げて抗議しました。(イギリス人軍人の中でも階級差が徹底していました。)
 チャーチルも訪カイロのたびに(第二次大戦中、四回来ています)シェファードのロングバーに必ず現れジョーの酒を飲んでおり、
なんとドイツのロンメル将軍も
「ああ早くカイロに入城してシェファードホテルのスィートルームで(ユダヤ人の!)ジョーの出す酒を飲みたい」
と憧れていたぐらいでした。

 ロングバーに限らずシェファードホテル自体がもうヨーロッパ諸国では有名で、特徴は古代エジプト神殿をモチーフにした巨大列柱です。庭園も見事でレストランの食事も極上だったため、ヨーロッパのセレブにも評判でした。
 映画「イングリッシュペーシェント」でも舞台になっていますが、もう少しCGで当時のシェファードホテルを再現してくれたら良かったのにと残念です。

 第二次大戦下、イギリスはユーゴスラビアとギリシャの王族など次々にカイロに亡命させるのですが(で、エジプト国王のファルークは「勝手にカイロを避難所にしやがって。ああイギリス、またしてもムカつく」と激怒。彼はいつもイギリスのすることなすことにプンプンでした)、
 それらの亡命王族らもシェファードホテルのレストランとジョーの作るカクテルにはハマり、持ち逃げした財産をシェファードで使い果たす…。

 ジョーはさらに八ヵ国語を操り、とても顔が広くジョーになにかを頼めば何でもそれを叶えてもらえるということで非常にもう有名人でした。取れないはずの飛行機のチケットもオペラ座のチケットも不動産も何でもかんでもジョーを通せば入手出来たそうです。

 さてSuffering Bastard(苦悩するくっそたれ)のカクテルはジョーの発明です。それにはこんなエピソードがあります。
 第二次大戦中、ひとりの英軍人が
「おれは酒好きだが、そのくせ弱いんだ。いつも二日酔いになって苦しむ。だけど酒は飲みたい。どうしたもんだろうか」
とジョーに相談しました。
 そこでアルコールが残らないカクテルを調合するしかないとジョーは考えます。しかしいかんせん戦争中でバーには限られた酒しかありません。苦しまみれでそれらの限られた酒を混ぜ(もちろんちゃんと色々計算はして)新カクテルを作り出しました。それがSuffering Bastard(苦悩するくっそたれ)。アスホールではなくバスタードと呼ぶあたりも「カイロはイギリスだ」としみじみ感じさせてくれます。

 実際、このカクテルを飲んでも二日酔いにはならず、味も美味しいのでSuffering Bastard(苦悩するくっそたれ)はすぐにバーの一番の人気カクテルになります。
 その後のシェファードホテルの顛末もジョーの人生についてはぜひ私の!😀小説を読んでもらいたいのですが(悲惨ではまったくありません)、彼は世界中の一流ホテルのバーから次々にスカウトされていたそうで、私もジョーのカクテルを飲んでみたかったものです。
 
 さて、そんなこんなでここ数日、自分の本の宣伝をしております。が明日10日(日曜日)電子書籍販売開始予定なのですが、昨日ペーパーバック版(紙書籍)も作ろうと思い原稿を見たら、「あれ?」。内容の誤りや漢字表記の誤りはないのですが、単純な入力ミスをちょいちょい発見しました。しつこくチェックしたはずなのに、甘いですね…。
 一文字分空白だったり、なぜかRのアルファベットが入っていたりしており、特に最大の間違いは
「改宗してムスリムになった」の個所が
「改宗してスリムになった」。
改宗すれば痩せるんかいな、とエセ関西弁で自分でツッコミましたが、販売開始になれば修正版をアップロードできるらしく、そのようなわけでもし読んでくださる方がおられましたら、ダウンロードを待ってくださいませ🙏。13日には修正版が配信されるかと思います。

追伸
昔、ある翻訳(日本語⇒英語)をしていた時にHello Kittyと書かねばならないところHell Kittyと書いてしまい、でもそれがイギリス人にはウケて
「君の翻訳は正しい、合っている」
と絶賛されたことがありますが、入力ミスどうにかならないものか、ああSuffering Bastardな自分よ….。


シェファードホテルのテラス席。エジプト国旗が昔です。
右手に写る三つ編み&ピンクワンピースのローラ・インガルスのような女の子が気になります。
1915年のポストカード
シェファードホテルの階段 
アメリカ雑誌に載ったシェファードホテルのロビー。このような列柱が有名だったようです。
けんいちさんが描いてくれたけんいちバージョンです。奥の緑のエジプト国旗もまさに当時の国旗で、床の水色部分はスエズ運河をイメージしてくれたそうで、お見事👏!
明日電子書籍が出ますが、内容自体の修正ではなくテクニカルな修正(入力ミス等)直すので読んでくださる方、13日ぐらいまでお待ちくださいませ🙏


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