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私自身のFACTFULNESSな経験

私自身のFACTFULNESSな経験を書いておこうと思います。

娘を産んですぐ、心室中隔欠損症という病気が見つかりました。心臓の壁に穴が空いたまま産まれてきてしまう先天性疾患です。心臓の病気、というとなんだか恐ろしくなってしましますが、この病気のほとんどは自然に完治します。そして、実は私も同じ病気を持って産まれてきていましたが、小学生に上がる前に自然と穴は塞がりました。今は何ともありません。


しかし、初めてのお産でナーバスになっていた私は「娘の病気」に大層なショックを受けました。泣きながら夫へ電話を掛け、大いに心配をかけたのを覚えています。常に気持ちが落ち込んでしまい、少しでも娘が母乳を飲まないと不安で死にそうになり、他のお母さん達がスムーズに授乳しているのを羨ましく妬ましく思ったものでした。今思うと、あれは「産後うつ」だったのかもしれません。
なんとか授乳も軌道に乗り、体重も順調に増えていたことから無事に退院、その後1ヶ月ほどを実家で過ごし、生後2ヶ月の娘と東京の家に戻ったのは5月のことでした。初めての育児は思いの外、スムーズに進みました。娘はよく眠りあまり泣かない子でしたので、私は自分の時間も持ちつつ穏やかな気持ちで過ごすことができていました。心臓の病気も1ヶ月に1度の検診で大きな問題もなく、「体重が減るようなことがなければ気にしなくて良い」と先生に言われた時にはとても安心したのを覚えています。


しかし、今思うとこの「体重が減らなければ」というのが、先生の意図とは裏腹に私に呪いをかけてしまいました。
それ以降、私は「体重」に対してとてもセンシティブになっていました。
娘の体重は月に1kg程度のペースで増えていましたが、3ヶ月に入るとそのバランスが崩れました。グラフのカーブが緩やかになったのです。算数の得意な私は1週間に増えた量を7日で割って1日ごとの増加量を計算し、それが先週、先々週と比べて大きく減っていることにいち早く気づきました。また、ちょうど同じ頃に、娘は母乳を飲んでいても途中で飲むのを辞め、遊びだしてしまうことが増えていました。
不安になった私は区の3ヶ月検診で看護師さんにそのことを相談しました。看護師さんは私の話を熱心に聞き、それは母乳の出が悪いのかも、とアドバイスをしてくださいました。


こうなると私のネガティブ本能は抑えられません。
「私の母乳の出が悪いから、この子はあまり飲まなくなった。このままじゃ体重も増えないんだ…」
不安で不安で仕方なくて、目の前で朗らかに眠っている娘の身体の中で何かとんでもない恐ろしいことが起こっているような、どんどん不幸になっていくような感覚がしたのをよく覚えています。
私はすぐに「母乳マッサージ」で検索し、代官山にある1時間で6000円もするサロンを探し出し、予約を取りました。

マッサージ当日、悲劇のヒロインの世界に片足を突っ込んだような気持ちで、そのクリニックを訪ねました。クリニック、といってもマンションの一部屋に助産師さんがひとり、中にはベッドと赤ちゃんのおもちゃがいくつかあるといったものでした。

不安で仕方ない私は彼女に「体重の増加が緩やかになったこと」、「3ヶ月検診で母乳の出が悪いと指摘されたこと」、「心臓の病気があるので体重が増えないのが心配であること」を伝えました。すると彼女は私を診察台に横たわらせ、施術を初めて下さいました。

施術中はお母さんが離れると心配になるから、と娘は私のすぐそばに居られるようにとお腹のあたりに授乳クッションを置いて寝転んでいました。しかし我が娘は母の心配など気にも留めず、覚えたばかりの寝返りを狭い診察台の上で盛大に披露し、時折笑声を上げ、母乳マッサージで飛び出す母乳をあわよくば口に含もうと大暴れをしていました。

施術後、助産師さんは呆れた様子でこう言いました。
「母乳の出は悪くないし、むしろよく出ています。体重の増え方が緩やかになったのは、周りに好奇心が出てきたからじゃないかしら。この子が青白い顔をしてぐったりしていたら私も心配になるけど、この様子じゃ大丈夫だよ。」
そして、不安なことがあれば施術中でも電話に出れるようになっているから、いつでも連絡しなさいと親切に言葉をかけて下さいました。私は驚きと安堵で、最後には泣き出してしまいました。

娘が母乳を飲まなくなったのは、具合が悪いんじゃなくて世界に興味を持ったから。

このFACTは私をとてつもなく安心させてくれました。ネガティブ本能、直線本能、過大視本能、そして単純本能。

特に「単純本能」は一つの見方にとらわれて周りが見えなくなってしまうこと。娘が母乳を飲まない=病気と思い込んでいた私にとって、助産師さんの「好奇心」いう言葉にはとても救われました。何か、世界がとても素晴らしいもののように思えるたような気がしました。それから娘の身体の調子を母乳の量や体重だけで測っていた自分にも反省しました。ピンク色の頰をしてコロコロと笑う娘の姿こそが「元気なのだ」と信じることができなかったことを悔やみました。

世の中は、私が思っているほど悪いものではないのかもしれない。
FACTFULNESSが教えてくれたのは、データや数値の見方に限ったことではなく、人間が陥りやすいそういった諸々の事象に気づかせてくれる、「安心」を与えてくれるものなのかもしれません。この本を読んで最初に思い出したエピソードは、実は仕事のことでもリハビリテーションのことでもなく、「娘が母乳を飲まなくなった」というエピソードでした。

悪いニュースから目を背けることで得る「安心」ではなく、正しい見方をすることで得る「安心」は、生きづらさを感じる全ての人々にとってとても意味のあるもののように思えます。

とても長い本だけど、やっぱり読んでみてよかったな。

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