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『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』

原題「南方車站的聚会 / THE WILD GOOSE LAKE」

◆あらすじ◆
2012年の中国南部。刑務所から出所したばかりのバイク窃盗団のリーダー、チョウは、敵対グループとの抗争に巻き込まれ、誤って警官を射殺してしまう。警察は警官殺しのチョウを捕まえるべく、すぐさま30万元の報奨金とともに全国に指名手配する。チョウは寂れたリゾート地"鵞鳥湖"の畔に潜伏し、自らに懸けられた報奨金を愛する妻シュージュンに残そうと画策する。そんな彼の前に"水浴嬢"と呼ばれる謎めいた水辺の娼婦アイアイが現れるが…。




「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督の新作でずっと楽しみにしてた。

凡庸とも言えるストーリーなのに何故か引き込まれるアート的スタイリッシュな映像の妙技に魅せられたなぁ。

原題通り、冒頭に正体の解らない男女が南方の駅でひっそりと逢う。
そこから二人の回想として物語が始まると言う設定。
サスペンス要素もあるがどちらかと言うと2人が生きる裏社会の実情・・・経済発展を遂げる中国の表層を剥がすべく描くダークワールドに生きる人間達の群像劇要素が強い。
でも血生臭く暴力的に進行する中、グイ・ルンメイ演じる娼婦アイアイの何処か透明感さえ感じさせる存在が物語の浄化効果になってる。
『薄氷の殺人』から続けて起用の彼女は全然違う雰囲気で登場するんだが水浴嬢と言う湖畔で商売をする娼婦役、これがちょっと少年ぽい雰囲気もあって中性的な魅力が他の娼婦達とは全く違う様相でイイ。

主役のフー・ゴーも一見は阿部寛似、時々スカパラの谷中敦、観続けてるとちょっとした表情が藤木直人、みたいな感じでなかなかイイ男なんで、スポットライト無しでも裏社会に生きる他の男達とは完全に見え方が違うww
存在自体がスポットライトってのがかなり活きてる

 サービスショットあり❤︎


   
描かれるのは・・・

裏社会の愚かさ
最下層の哀しみ
チープなネオンサイン
懐かしさと空虚が混ざり合うディスコサウンド…

全体的には割と粗削りな場面展開で文章で言えば【箇条書き】みたいな描き方。
でもあのアート的な色彩や効果的に使われる【アイテム】が凄く活きるのはその贅肉を削ぎに削ぎ落とした演出だから。
そこが計算としてなら素晴らしい。


それに加味して印象に残るシーンが多いのもこの作品の特徴。
バイクの窃盗を生業とする裏組織に身を置く主人公のチョウ達が群れて疾走するシーン。
開発には程遠い地方都市の寂びれた雰囲気。
無気力に踊られる屋外ディスコ。
『ジンギスカン』や『怪盗ラスプーチン』なんて何十年ぶりに聴いただろうか?場末感が堪らない。
踊る人達の光るスニーカー。これが後のシーンに繋がる辺りは計算高い。
チョウが武道のように包帯を体に巻いていくシーン。
娼婦アイアイの水着、白い鍔広の帽子、露天の光るオモチャ・・・

そしてチョウが最後の晩餐となる牛肉麺を貪るシーンはかなりインパクトがあった。

イーナン監督の前作『薄氷の殺人』が大好きで観に行ったのは前述したが前作とはまるで完全対比みたいな作品に仕上がってたのに驚かされた。

中国北部の凍る川と南部の蒸し暑い湖。
追う男と追われる男。
追われる女と男を売る(裏切る)女
経済発展の最中の市井と裏社会
などなど…
そして原題が前作はラストにその意味に行き着くが今作はそこからスタートする。ここまで対比させるとは!だわ。

ただ、経済大国然と世界にアピールする表面的な国の影にはその成長とは裏腹な世界が存在する事を描いてる点は共通。
今作に関しては本国がこれを許すか?的な匂いも感じる。


ラストは或る意味衝撃で「えっ?何?もしかして最初からその線で話ついてた?」的なね。
それはそれで個人的には好き。
観る前はもっと違う結末を予想してたからな。

ほんと、ディアオ・イーナン監督の芸術的手腕が見事な一作に仕上がってる。


2020/10/01


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