スズメの巣 第13話

第13話 ビックリって突然やってきます

交渉から休日をはさみ4日後の10時前。
「おっはよーございます!!」
金洗は、夏なのにテンションがとてつもなく高い。
「さくちゃん。おはよう。」
「あれ、うーみんだけ?」
「いいや。愛田さんは来てるよ。私の1時間ぐらい前に。」
「えっ!?早くない?」
「暑いからって早く来てるんだって。」
「へぇぇ。すごいね。私早起きできないからなぁ。」
「激しく同意。」
「そういえば、愛田さんは?」
「沖村さんから連絡があって、今日程を調整してるらしい。」
「なるほどねぇ。」
「そういえば、お疲れ!」
「そうなの。聞いてよ!」
金洗が交渉のことを話した。

おしゃべりしていると、鳳がやってきた。
「うぃーす。」
「おは交渉ございます。」
「おう。お疲れさまだな。」
「あっ。ありがとうございます!」
「あとこれ。誕生日近いでしょ。」
「えぇ!?鳳さんいいんですか?」
「へー意外。鳳さんってそんなタイプじゃないと思ってました。」
「どういうイメージを持ってるんだ?」
「なんかへにょへにょしてるというか・・・。人に興味がないかなと。」
「意外にサプライズ好きだぞ。自分で言うのもあれだけど。」
「すごーい!!ありがとうございます!!」

一拍おいて鳳が話す。
「そういえば、橋口。」
「はい。」
「日ノ出さんだが、来週火曜日にアポが取れた。午後からだから直帰でもいいか?」
「ええ。大丈夫です。そういえば、私も太平さんとアポが取れました。明日です。」
「そっか。決まるといいんだが。」
そんなこんなで話していると、電話が鳴った。

「お疲れ様です。橋口です。」
「お疲れ様です。リーグ・ザ・スクエア事務局です。」
「はい。どういったご用件でしょうか?」
「実はですね・・・。」
沈黙が流れる。

「えっ!?本当ですか?分かりました。はい。ありがとうございます。失礼します。」

「どうした?」
「ドラフトで指名した選手から、事務局直々に辞退の申し出があったそうです。」
「まぁ。あの人だろうな。海老原さんだろ。」
「ええおっしゃる通りです。ただそれだけじゃないんです。」
「どういう意味だ?」

言葉を探り探り発した。
「実は、それより問題が・・・。」
「何だ?うちのチームか?」
「うちではないんですが・・・。」
「教えてうーみん。」
「実は、事務局によると現役選手が急に辞退したいと言ったというんです。しかも2名。」
「嘘だろ。契約は更新してるはずだぞ。」
「ええ。だから問題なんです。事務局の方がおっしゃっていました。2部リーグには影響はないのですが・・・。」
「どうしてなの?」
「私にもわからない。一応注意喚起だって・・・。」


困惑する一同に、連絡を終えた愛田が戻った。
「ああ。鳳さん、金洗おはようございます。」
「ああ。おはようございます。うーみん聞いてみたら?」
「戻ってきて急なんですが、聞きたいことがありまして・・・。」
「じゃあ俺からいいか?」
「分かりました。」
「沖村さんだが、連絡が取れて今週の木曜日にアポが取れた。」
「そうですか!獲得できるよう働きかけお願いします。」
「おう。任せなさい。それで聞きたいことって?」
今の電話のことを聞いた。

「なるほど。話を聞く限り目星はついたな。」
「ドラフトで指名したほうですか?」
「両方だ。」
「おそらく、指名は海老原さんだ。まぁ変えられるからな。珍しくない。」
「そうなんですね。」
「チームは、自由が丘ダイヤモンズだと踏んでる。」
「理由は?」
「たぶん方向性の違いだよ。スタッフと監督。そして、選手のな。」
「でも、辞めるまで行きます?契約更新してるみたいだし。」
「仮に契約更新していなかったら?」

その一言に、衝撃が走った。
「でも愛田、契約は更新しているはずだ。」
「表向きは、更新しました。チームのサイトを見てください。ずっと気になってた。それなら合点は行きます。」
スマホで、チームのサイトを開く。
「ここに、仮契約締結のお知らせと書いてあります。つまり、確定はしていなかった。」
「じゃあ・・・。辞めることもできたってことですか?」
金洗が問いかける。
「そう。おそらく今季から監督が変わった。噂によると、社員らしいがどうも馬が合わないことも多いらしい。うちもこんな風にはならないようにしたいね。」
「分かりました。契約には明確なルールを作りましょう。」
「了解。」
そう言って話を終えた。


同じ日の14時半。
株式会社ダイヤモンドハントの自由が丘の本社では、緊急ミーティングが開かれた。
「どうにか残ってもらえませんでしょうか?」
「もう決めてるので。新人育成をチーム方針として掲げていたのに、相談なしでベテランを取るって・・・。恩も知らないんですね。」
「チーム強化のためです。ベテランと若手の融合。チーム強化になると思うんです。だからこそ、さらにベテランの海老原さんにお願いしました。」
チームのGMの光野は力説していた。


いい反応どころか、玉村は激怒した。
「私に信用はないんですか?創設から支えてきましたが、そう思われていたんですね。がっかりです。新人の枠が少なくなるだけです。もう限界。もう一緒にやっていけません。」
「だから落ち着いてください。冷静になりましょう。ね!」
「自分も玉村さんに育ててもらって本当に優勝を目指すっていうときにこんなになるって・・・。新人を育てるっていうチームの方針に感化して力になりたいって入団したんです。でも、今の状況だと一回辞めて勉強し直します。」
「小川君もそんなこと言わずにさぁ。若松謝ってくれ。頼む。」
「俺は、本当に欲しい人材を選んだだけです。そう言われるのも心外です。」
「だから・・・。」
「正直他はいくらでもいます。大丈夫です。」
もう埒が明かない。
「それではお世話になりました。失礼します。」
玉村は怒ったまま出ていった。

「小川君は、残ってくれるんだね?」
「いえ、この最後のミーティングに最後まで出てやめようと思っています。」
「いいぞ。辞めて。」
若松が話す。
「いいじゃないですか。2人取れば。」
「あのなぁ。もういい。ミーティングは終了します。あとは、私が対処します。解散!」
チームは完全に崩壊した。

そこには、気まずい女子とスタッフ陣が残るのみであった。

16時半。
金洗に、電話がかかってきた。
横浜シティドラゴつまり、横浜中華ジパングの天津だ。

「もしもし。金洗です。」
「あぁ。金洗さんですか?天津です。」
「天津さん。お疲れ様です。どうかされました?」
「今大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。」
「ちなみに、他のスタッフさんっていらっしゃいますか?」
「はい。全員おりますが。」
「もしよければ、スピーカーフォンにして全員に聞いてもらいたい一件がありまして。」
「分かりました。少々お待ちください。」
電話を保留にする。

「うーみん。鳳さん。愛田さん。ちょっといいですか?」
「どうした?」
「何かあったの?」
「何だ?」
「横浜中華ジパングの天津さんから聞いてもらいたいことがあるって。」

電話の保留を切って、話し出した。
「じゃあ・・・。天津さんお願いします。」
「みなさんお集まりですね。実はあくまで噂。おそらく確定でしょうが・・・。」
息をのむ。

「自由が丘ダイヤモンズが、急遽来シーズン欠場になると光野GMから連絡がありまして。」
衝撃しかない。
「ちなみに、事務局の連絡の件ですか?」
愛田が聞く。
「おそらくですけどね。現行のチーム体制では試合にならないっていう判断だそうです。おそらく解体も検討中でしょう。」
「連絡ありがとうございます。」
「いえいえ。こちらこそ。では、私は失礼します。」
「失礼します。」
電話を切った。

「チーム崩壊か。」
「公式サイトにも来シーズン無期限欠場のお知らせがアップされてました。」
「8チームで試合を組んでたからどうなるんだろ?」
「そこは、問題ない。過去は6チームからだったからな。」
「なるほど。」
そうは言っても、動揺が止まらなかった。

18時。
「お先失礼しまーす。」
「おつかれー。」

そう言って、オフィスを出た。
すると、1件電話がかかってきた。
自由が丘ダイヤモンズ 清野選手だ。
ちなみに、金洗と同期だ。年上だけど仲がいい。

「もしもし。」
「もしもし。さく?」
あの件には触れないでおこう。
「どうしたの?」
「もし良かったらゴハンでもどう?」
「いいよ。じゃあいつものファミレスでいい?」
「オッケーまたあとで。」
そう言って電話を切った。

全日本麻雀連盟プロご用達のファミレスに着いた。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「もしかしたら先に1人来てませんか?」
「お連れ様ですね。奥のテーブル席でお待ちです。」
「ありがとうございます。」

「お待たせしてます。」
「さく。お疲れ。仕事終わりに呼び出しちゃって。」
「いいのいいの。どうしたの?」
「まず、ゴハン頼んだら?」
「あぁそうだね。じゃあオムライスとドリンクバーにしようかな?」
「いいじゃん。ちなみに二人で突っつくのは頼んであるから。」
「あぁ助かる。じゃ頼んじゃうね。すみません。」
オーダーを通し、ドリンクバーでウーロン茶を注いで席に戻る。

「お待たせ。で話とは?」
「さくは、おそらくもう知ってるよね・・・。」
「何の件?」
「チームの件。」
金洗は、覚悟を決め静かに頷いた。
リーグ・ザ・スクエアのチーム担当になると決まった時。
数少ない相談出来た相手だった。
私の出来ることはないか。たぶん話を聞いてあげることだと思ったと金洗は思った。

清野は涙声だった。
「もう分からない・・・。」
「何があったの?」
「チームで選手とスタッフさんで板挟みになっちゃって・・・。しまいにはチームが崩壊しちゃって・・・。」
「そうだったんだ・・・。」
明日は我が身ってなると清野の気持ちも理解できる。

そんな時に、ウェイターの声がした。
「オムライスです。」
「ありがとうございます。」

「でも、うちのチーム。今シーズンは戦えない気がしてたの。」
「どうして?」
「監督は強さを重視してチーム方針はガン無視。私以外の選手は、信用しなくなったの。ミーティングもうまくいかず、選手が私だけっていうのも多かったなぁ。」
「それはひどい!スタッフさんも対策しなかったの?」
「うん。昨シーズンは完璧だったのに、急に今シーズンから連絡するだけして連絡体制はずさんだったなぁ。」
「誰も信用してなかったってこと?」
「たぶん・・・。この先どうしよう・・・。」
「リーグ・ザ・スクエアのことは一回忘れたほうがいいんじゃない?」
「えっ。どういうこと?」
「この一件は忘れてプロ活動に集中したほうがいいって。成績だってもうすぐ女流Bリーグも折り返しでしょ。昇格圏じゃないの?」
「確かにそうだけど・・・。」
「だったらリセットしてもいいんじゃない?私が言える立場じゃないけど。」
「そうだね!ありがとう!」
清野は、笑顔に戻った。
「やっぱゆうちゃんは、笑顔でないと。」
「ご飯食べよう。ねっ!!」
楽しいごはんになった。
チームスタッフではなく、一人の同期として話した。
金洗はとりあえず、一安心だった。

第14話へ続く。











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