スズメの巣 第15話

第15話 みんな集まれー

神田の路地裏。
少しディープなスポットにある雑居ビル。
その3階の雀荘に愛田はいた。
なぜか、3者面談になっていた。
「この子は、本当にいい子でね~。」
「そうですか・・・。」
「社長ちょっと・・・。」

困惑している女性こそ、沖村凛である。

彼女が勤務しているチェーン店で、話したいといわれ訪ねた。
「どうも、愛田と申しますが。沖村さんはご在席でしょうか?」
「沖村さんですね。少々お待ちください。」
男性の店員が、応対して下さった。
そこから待つこと2分ほど。

「すみません愛田さん。沖村です。お呼び立てして本当に申し訳ないです。」
茶髪が美しい女性である。
「いえいえ。滅相もございません。こちらこそお時間を頂戴しまして。」
「ぜひ、お話ししたいんですが・・・。1点お願いがございまして・・・。」
「なんですか?」
「うちの社長も同席させてもらってもよろしいですか?どうしても話がしたいと・・・。」
「こちらは全然構いませんが・・・。」
「左様ですか。ありがとうございます。ではこちらへ。」
部屋に案内された。すると大柄な男性がいた。


「愛田さんですか。今回は本当にありがとうございます!!」
「えっ。あっはい。」
入るなり握手を求められ困惑した。

「社長!!困ってるじゃないですか!」
「ごめんごめん。この雀荘のチェーンの社長、佐々木です。」
「愛田です。よろしくお願いいたします。」
席に座った瞬間。佐々木社長が沖村を褒めだした。
それから今に至る。
おそらく、10分は過ぎたはずだ。

「あの・・・。そろそろ本題に行ってもよろしいでしょうか・・・。」
「愛田さんも困ってますから!!」
「そういう心遣いもできるしねぇ。だからこそ取ってもらってうれしいんだよ。うちからは初の快挙だからね。あと・・・。」
終わりが見えなくなった。
沖村が察した感じでこう言い放った。
「社長。たぶん話にならないです。というか始められないです。一回退席してもらってもいいですか?」
「ええー?参加させてよぉ。」
「じゃあ。ちょっと静かにしてもらってもいいです?」
「分かったよぉ。」

社長を黙らした沖村は深呼吸をして話し始めた。
「すみません。愛田さん。では、本題に入りましょう。」
「あんな風に言って大丈夫ですか?」
「ええ問題ないです。いつものことですから。」
「では、本題ですね。」
「よろしくお願いいたします。」
「ご存知の通り、ドラフトにおきまして指名をさせて頂きました。」
「ありがとうございます。」
「選考理由としましては、今後の可能性。そしてこの雀荘のリーグ・ザ・スクエア部門の記録を拝見し吟味した結果指名に至りました。」
「なるほど。」
沖村は真剣に耳を傾ける。

「今日お返事を頂けなくてもかまわないです。ぜひチームに参加して頂きたいと思うのです。」
「私はもう決まっていまして。参加させていただきたいと思っています。」
「左様ですか。ありがとうございます。」
「ただ・・・。」
「何でしょうか?」
「タイトルを取っていない私にとって早すぎるのではないですか?」
「いえ。あえてチャレンジして頂きたいです。早くに勉強して団体で生かす。自分の糧にはなると思いますよ。」
「うーーーん・・・。分かりました。」
決意を決めたようだった。
「では最後なのですが、今後チームとしてのミーティングを予定しています。参加できそうですか?無理はなさらないようお願いいたします。」
「来週でしたら問題はないです。」
「分かりました。ではその方向で話を続けます。都合が悪くなったらご連絡ください。」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。」

「では、ここで失礼します。」
「ありがとうございました。」

ビルを降りた。
すぐにスマホを取り出し電話をかける。
「お疲れ様です。愛田さん」
「おう。お疲れ様~。」
「交渉どうでした?」
「無事終わってな。来てくれることになった。」
「おーー!!それは良かったです。」
「今から会社に戻る。じゃまた後でな。」
「気を付けて。」
電話を切るなり、駅に向かって歩き出した。

電話を終えたJOYグランドスラムのオフィスでは、興奮に包まれていた。
「とりあえず、全員獲得です。」
「よかったなぁ。」
「ホントですよね!ドラフトではどうなることかと・・・。」
「ただ、ここからが始まりです。明日の定例会議でチームミーティングと練習会を設定しましょう。」

そんな中で、内線電話が鳴った。
「お疲れ様です。リーグ・ザ・スクエアチームルームです。」
「受付です。お連れ様です。キツネ運輸様よりお届け物が届いていますがお通ししてもよろしいですか。」
「えっと少々お待ちください。」
保留ボタンを押す。
「今日、荷物届く心当たりある人っています?」
「あ!私かも。ユニフォームの完成したのかも?」
「オッケー。了解。」
保留を解除した。
「すみません。お通ししてください。」
「かしこまりました。失礼します。」

5分後。

「すみません。キツネ運輸です。金洗様宛ですが。」
「はーい。ありがとうございまーす。」

ミーティング机に広げる。しかも2個口だ。
「じゃあユニフォームお披露目ね。じゃーん。」
金洗が箱を開けると、ユニフォームが入っていた。
緑をベースの野球のユニフォームが入っていた。
「えっと・・・。ユニフォームって規定ないの?」
「リーグ・ザ・スクエアにはないの!」
「そうなんだ。」
「確かに野球ユニフォームだったり、バスケや卓球ユニフォームを使ってるとこもあるからな。」
「なるほど。一層チーム感が増しますね。」
「不評なら来年変えればいいわけだし。」
「いや始まるんだなぁ。」
鳳が感慨深そうに言った。

翌日。定例会議においてチームミーティングの仮の日にちが決まった。
契約希望がすぐにしたいという希望もあって、その日に契約を完全に締結することになった。
すぐに全員と連絡が着き、その日でいいということになった。
橋口たちは、早速作業に取り掛かった。
残業は必至だろう。
それは覚悟している。そんな感じであった。

多くのチームが編成を確定していく中で、ただ1チームがどん底であった。
ダイヤモンズではない。
夕暮れポセイドンズだった。
品川の株式会社海んちゅグループ本社のオフィスでは、焦りが見えていた。

「どうするんですか?あともう1カ月強しかないですよ!?」
「分かってる。ただ、ここまであたりを付けて全滅だったんだよ。」
「まずいですね・・・。」

重苦しい中で、どうにかアイデアを出そうにも出るはずがない。
そんな中でチームスタッフの睦本が話し出した。
「レジェンドにこだわらなくても実力者でいいんじゃないです?」
「三崎さんがいる。だからこそ世代を超えた交流がうちにはマストだ。」
そう言うのは、GMの深比だった。
ビックプロジェクトのリーダーとあって肩を回している。
ただ寿司職人のように頑固なのが玉にキズだ。

「意地でもレジェンドに入ってもらいたい。」
「でも・・・。」
「ちょっといいですか?」
手を挙げたのは、分析担当の小爪だった。
「どうした?」
「気になって調べたんです。海老原先生は、とある肩書がないんです。」
「何だ?」
「昭和四天王と昭和十武将に入ってないんです。」
「まぁ。そうだろうな。それより上の世代だし。」
「ましては、昭和四天王と昭和十武将は全滅だぞ。」
「ただ、鮫坂高大さんって知ってます?」
「プロ雀士か?」
「はい。昭和裏三銃士の一人です。」
「昭和裏三銃士?何だそれ?」
「どうやら、表立って活躍はしていない陰の最強雀士3人のコトです。タイトル戦など公式戦は出場なし。」
「実力なんてわからないじゃないか。」

「その1人が鮫坂さんです。ましてや弟子が5人いるらしいんです。各団体に1人ずつ。」
「そんな偶然あるのか?」
「ええ。私も驚きました。ただ実力者ぞろいです。レジェンド級もちらほらと。」
リストを渡す。
「この選手もか。」
深比の驚きが隠せられないでいた。
「そんな中で、この人だけですね。リーグ・ザ・スクエアに唯一選抜がないのは。」
「よし。アポイントを取って話をしろ。なるべく急げよ。」
「はい。」
その選手に電話をかけた。
「頼む・・・。」
深比は祈るような思いだった。

日はどんどん短くなっていく。
つまり、開幕が近いってことだ。

8月も下旬に入り、残暑はまだ落ち着かない。
暑い中で、ミーティングの当日を迎えた。
オフィスの中心で男二人が話す。
「ついに集まるんだな。」
「まだ4カ月ですが、あっという間としか言いようがないですね。」

資料の準備を終えた金洗が尋ねた。
「資料オッケーです!そういえば、うーみん知らないですか?」
「橋口は、エントランスに行ったよ。通行証とか迎えに行くとかで。」
「そうですか。そろそろお二人も準備をお願いします。」
「あいよ。」
「分かった。」

一方エントランスで待っている橋口はドキドキしていた。
うまく話せるのか?納得してもらえるのか?
不安が勝る。

そんな中で、美少女がこちらに向け歩いてくる。
太平だ。
橋口は手を挙げた。
「みくちゃんこっちだよ。」

駆け足でこちらに向かってきた。
「橋口さんよろしくお願いいたします。」
「こっちこそありがとう。あと3人来るまで待ってて。これが通行証ね。」

続けて沖村が入ってきた。
少し入ってから迷っていた。

「沖村さん。こちらです。」
「すみません。少し遅くなりまして。」
「いえいえ。こちらこそご足労いただきありがとうございます。」
「とんでもないです。あっこちらは太平さんですね。今後ともよろしくお願いします。」
「えっあっ太平です。よろしくお願いいたします・・・。なんで私のことを?」
「そりゃ天下人ですもの。こっちは見てましたよ。」
「恐れ入ります・・・。」
すると、橋口のスマホが鳴る。
金洗だ。
「すみません。ちょっと失礼します。」
電話に出る。
「もしもし?」
「あっ。うーみん?お疲れ様。」
「お疲れ様。どしたの。」
「いま鳳さんが電話中なんだけど、日ノ出さんと布崎さんは落ち合えたんだって。エントランスが見つからないらしくて・・・。」
「いつものエントランスに案内してもらって女子3人でいるって伝えてもらっていい?」
「オッケー。了解。じゃまたあとで。」
「はーい。」

「すみません。お待たせしまして。あと2人ももうじき来るとのことです。」
「そうですか。分かりました。」

そこから2分ほど待って、恰幅のいい男性2人がエントランスに現れた。
あの2人だ。そう思い声をかけた。

「布崎さん。日ノ出さん。」
こちらに気付いたスーツ姿の2人は歩いてくる。
「お待たせしました。すいません・・・。」
「いえいえ。とんでもないです。ではご案内しますね。」
「お願いします。」

オフィスへ連れていく。
一番緊張しているのは、橋口だった。
エレベーターに乗って上る間も緊張が続く。

オフィスに着いてようやく声を出した。
「選手の皆さんが到着しました。」

「では、奥のミーティングルームへお願いします。」
選手たちを促す。

ミーティングルームに全員が座った。
「全員お揃いのようですね。ではチームミーティングを始めていきましょう。お願いします。」
全員が一礼する。
「まずは、我々スタッフ陣の自己紹介を簡単にさせて頂きます。私がチームGMの橋口です。麻雀はゼロからで勉強だらけですがよろしくお願いします。」
拍手と驚きが混ざる。
「女性の方ですか。珍しいですね。」
布崎さんが話す。
「ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします。」
「ええ。よろしくお願いします。」
「じゃあ。次は俺が。鳳です。よろしくお願いします。」
「続いて、愛田です。お願いします。」
「金洗さくらです。皆さんよろしくお願いします。」

一通り挨拶を終え、選手たちも挨拶を交わした。

「では、チームの方針などを私橋口からお話しさせていただきたいと思います。」
「はい。」
「まず、結論から申し上げますと究極目標は、ジャパングランプリ制覇です。」
「なるほど。」
日ノ出が頷く。
「その為には、今季としては1部昇格は狙いたいと考えています。」

話を続ける。
「ただ、我がチームには監督は置かず自分のスタイルで勝ってもらいたいという風に考えます。アドバイスはたまにしますが、こうしなさいと決めつけはしない方向です。」
みんなが聞きこんでいる。
「そしてここからが重要です。我がチームはメンタルヘルスに力を入れます。心が壊れては何もできなくなってしまいます。個人戦のことでも、リーグ・ザ・スクエアに関すること。私生活について何でも構いません。悩んでいたら何でも相談してください。」
「分かりました。」
沖村が話す。
「私からのお話は以上です。ありがとうございました。」
拍手が起こる。


「ありがとうございます。ではですね。契約について愛田のほうから説明させていただきます。愛田さんお願いします。」
「はい。」
生々しい契約についての話が始まった。
年俸やらいろんな権利やら、正直おかしくなるかもしれない。
だが、選手はしっかり聞いていた。
そして、愛田の説明が非常にわかりやすい。
やはり、異動前に店舗交渉に携わっていただけある。
橋口は感心していた。

そんなこんなで1時間半が経過しようとしていた。
橋口が話し出す。
「それでは、チームミーティングは以上になります。長丁場お付き合いいただきありがとうございました。」
「続いて、練習会を設けていますので参加される方は私金洗まで。」
「もちろん参加します。」
「私もいいですか・・・?」
「僕もします。」
「私も。」
「では全員ですね。こちらへ。」

隣の対局室を案内した。
「もしよければ、練習したい場合はこちらの部屋を開けますんで。」
「ほぉー。リーグ・ザ・スクエアと同じ雀卓ですね。」
愛田が補足した。
「ええ。一応同じ放送設備もありますんで。記録もできます。」
「ええ?!それはすごい!」
「では、もしよければ、練習会をしていってください。」

「では、ごゆっくり。」
ドアを閉めた。

それからがっつり4時間ぐらいだろうか。
4人は、しっかり練習して帰った。

外を見ると夕焼けがとんでもなくきれいだった。
第16話へ続く。







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