スズメの巣 第14話

第14話 うちはうちでよそもよそで

怒涛の出来事が過ぎた。

激震の翌日10時30分ごろ。
橋口は、JOYグランドスラムの運営する個室カフェにいた。
パソコンで資料とかを確認してる中で、ふすまが開いた。
「失礼します。お連れ様でございます。」
「あぁ。ありがとうございます。」

すると、あの美少女がやってきた。
「あの・・・お久しぶりです。」
「お久しぶりです。じゃあこちらに。」
「失礼します。」
橋口は、心中でこう思った。
「やっぱかわいい。」と。

「飲み物はどうなさいますか?」
「じゃあアイスティーで。」
「かしこまりました。」
ふすまが閉まる。

「まずは、世后戦決勝進出おめでとうございます。」
「あ。ありがとうございます・・・。」
「プレッシャーが強いだろうけどあなたなら大丈夫よぉ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」

「失礼します。アイスティーでございます。ごゆっくりどうぞ。」
ふすまが閉まった。
「じゃあ。本題に移るけど、ドラフトで1位指名をさせてもらいました。」
「本当にありがとうございます。」
「ドラフト翌日のメッセージにあった通り、チームに参加してくれるのは間違いないかな。」
「はい。間違いないです。」
「本当にありがとう!!なんでうちに来てくれるの?」
「やっぱり橋口さんには、心を開けるし。かつ、この先チームを離れることになっても繋がれる気がしていて。」
「気が早いなぁ。でももちろん大丈夫だよ!!うちのスタッフも優しい人も多いし。メンタルヘルスとかも重点的に行うと思ってるから。」
「私自身ネガティブなので・・・。お願いします。」
「今後ミーティングをチームとしてやろうと思っています。参加できそう?」
「はい。頑張ります。」
「じゃあぜひよろしくお願いいたします。」
「こちらこそお願いいたします。」
こんな調子で太平みくも獲得した。

そして、太平獲得から2日後の15時半。

まだまだ暑い。
そう思いながらも、鳳は渋谷のとあるビルに入った。
株式会社トラベルサンライズ。
日ノ出の会社だ。
「日ノ出社長。お久しぶりです。」
「鳳さんお待ちしてました。こちらへ。」

応接室に入るなり言葉を発した。
「ドラフトの件ですが、お受けいたします。」
「早いですね。」
「早く返答したかったものですから~。」
「再来週以降にチームとしてのミーティングを開こうと思っています。予定は大丈夫ですかね?」
「はい。おそらく。」
「では、よろしくお願いいたします。」
「実は、この後先ほど急に予定が出来まして。出なくてはならないのです。」
「そうでしたか。では、この辺で。」
鳳自身が驚いていた。こんな早く終わっていいのか?
そう思ったが、日ノ出がどこかへ行ってしまった。
仕方ない、帰ろう。そう思った。
あと1人か。
行ってくれよ~。
そう心の中で祈りながら帰路に就いた。

JOYグランドスラムだけが動いているわけではない。
各チーム動き出していた。
ましては、全員獲得したチームもいる。

鳳が帰路に着く頃。本社にいた橋口は、唖然とした。
「さくちゃん。愛田さん。」
「どした?」
「なんかあったか?」
「いや・・・。もう全員獲得したチームがいて。この後生配信らしいんですけど・・・。」
「そうなの?!早くない?」
「だよね!」
愛田はこう話した。
「いや、珍しくないぞ。」
「ですけど。まだドラフトから2週間ぐらいですよ。」
「うん。まぁ。少し早いぐらいだな。」
「いやいや。もっとじっくりじゃないんですか?」
「まぁ。チームに入って詳しいことを詰める感じかもな。ドラフトから最短3日で全員揃えたチームもあったし。」
「えっ?本当ですか?」
「まぁ期間はまちまちだからな。焦ることは全くないぞ。」
「分かりました・・・。」
橋口は、あまり腑に落ちなかった。

同時刻。
乃木坂のおしゃれなビルには、準備のため多くの人が訪れた。
サロンドエトワールの本社ビル。
当然指名の受けた高屋がいた。世后戦は、プレーオフに進んだそうだ。
そんな彼女は、緊張していた。
生配信までは、あと3時間ほどであったがミーティングを兼ねていた。
それもあって、16時半から間に合うように到着した。
今回がチーム全員と初顔合わせだ。
そこに、顔なじみがいた。
「金城くん。」
「あ。高屋さん。」

金城 優。32歳。
ドラフト4位指名。
高屋と同じ全日本麻雀連盟所属だが、彼は沖縄支部所属である。
プロ歴は、8年と高屋にとっては年上の後輩のような存在だ。
タイプはスローな手役派だが、打点と爆発力は実力者級と言える。
そのため、通り名は「ハブの牙を持つでぃきやー(秀才)」と呼ばれる。

地方在籍ながらも次世代の筆頭プロに選ばれるほどである。
獲得タイトルは、琉猛位1期(沖縄リーグ戦)のみだが、本部タイトルの全日本グランプリは2度準決勝進出うち1度は決勝進出など、東京遠征にはかなり強い。

「良かったですー。高屋さんが着いてて~。」
「でも珍しいね。金城くんが、かなり前に着いてるなんて。いつもギリギリなのに。」
「前乗りしたんですぅ―。それで、集合時間も自分だけ早くしてもらえました~。」
「いつも前乗りしてギリじゃない?」
「開始時間がね~。」
「気を付けなよ?」
「分かってますよぉ。」
「ってことは。東京に住むってことか。」
「いえ。あくまで拠点は沖縄なんで。1週間は東京で1節で連闘してって感じですね。だから上京は隔週かな?」
「大変じゃない?でも、1週間はホテル暮らし?」
「そうですね。ただ、飛行機代と宿泊費はチームが持ってくれるらしいです。あと、ウィークリーマンションとかもあるみたいですし。」
「そっかぁ。」

そんな会話をしていると、声が聞こえた。
「高屋さん。」
「あぁ金村さん。お久しぶりです。」
背の高いクールな女性。
この女性こそ、金村ゆかり本人である。
彼女自身は元OLであり、25歳からプロ活動を始めた。

1DAYトーナメント天姫戦では、直接対決は2回あり、1回は両者トップなし。高屋1勝と勝ち越している。
誓桃戦や女流電聖戦では、直接対決はない。
だが、対局会場でたびたび会うため顔見知りである。
「これからよろしくね!金城さんも事情は伺ってます。どうぞよろしく。」
「ご迷惑をおかけするかもですが~。」
「そういえば、もうすぐミーティングですけど・・・。田村さんが見えませんね。」
「田村さんは、もうすぐ来るはずよ。あぁ来た来た。」

エレベーターを降りた小柄な女性こそ、田村あすかである。
「遅れました!本当に申し訳ございません!」
「大丈夫だよ。まだ時間じゃないし。」
「いや年上を待たせてるじゃないですか!私としては許せなくて・・・。」
「まぁいいじゃない。それでこちらが、金城さんと高屋さん。」
「高屋です。」
「金城ですぅ。」
「田村です。よろしくお願いいたします!!」


挨拶を交わして、次の会話に移ろうかという時。
「みなさんお揃いですね。」
女性の声が聞こえた。
「じゃあ始めますので、会議室へ。」
「じゃいこう。」
会議室に入ると、女性3名男性2名がいた。加えて案内してくれた女性1名も着席。

「では、乃木坂ヴィーナスアイロンマレッツ第1回チームミーティングを始めます。進行は、チームスタッフのSNS担当の小池が務めます。よろしくお願いいたします。」
案内してくれた女性だ。
ただ、座っている女性1人と男性1人に金村と高屋は驚きと疑問を覚えた。
「まずは、改めて自己紹介をお願いします。金村さんからいいですか。」
「分かりました。プロ競技麻雀協会所属の金村ゆかりです。パールズからの移籍ですが、リーグ・ザ・スクエアのことは多くのことを分かっています。よろしくお願いいたします。」
「続いて、高屋さん。」
「はい。高屋優花です。全日本麻雀連盟より参りました。チームに大きく貢献出来たらと思っています。よろしくお願いいたします。」
「続いて、田村さんお願いいたします。」
「はい!田村あすかです。最年少ですが、自分の実力を見せたいと思います。よろしくお願いいたします!!」
「では、金城さんどうぞ。」
「金城優です~。沖縄を拠点として活躍したいと考えています。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。」
選手4名の自己紹介を終えた。
「では、スタッフ陣もご挨拶をお願いいたします。じゃあGMから。」
背の高い男性が起立する。
「え~。チームのGMを務めます秋井です。一生懸命頑張ります。」
「じゃあ私ですね。GM補佐の梅田です。よろしくお願いいたします。」
「YouTube担当の羽生です。生配信とか担当します。よろしくどうぞ。」
「最後にSNS担当の小池です。広報活動なども担当します。よろしくお願いいたします。」
選手の拍手で締められた。
「ではですね。気になっていることと思いますが、この度ですね。監督としてのオファーを引き受けてくださった方2名をご紹介します。」
「雀士協会の森野でございます。1人では心細く、交代で監督をお願いすることを条件に引き受けました。至らない点もございますが、よろしく。」

正直驚きしかない。
森野由美といえば、昭和四天王の一人で女流プロのレジェンドだ。
60歳を超えても、現役として戦う。
獲得タイトルは、プロ競技麻雀協会時代は、帝雀位2期・女王戦(現女王グランプリ)7期と前人未到の記録を残す。
雀士協会移籍後は、天下人1度・男女統一ツアーは2度制覇。女子ツアーは6度優勝。四季王戦2期+グランドスラム達成(賀正戦・咲櫻戦・夏祭戦・紅王戦)・王蝶戦5期で殿堂入り。まさにレジェンドだ。

「何で引き受けたんですか?」
金村が問いかける。
「面白そうだった。この一言に尽きるわね。実力者たちの戦いを間近で見たいって感じかな?」
「お二人ともよろしいですか?もう一方も紹介させていただきたいのですが・・・。」
「すみません。お願いいたします。」
「では、プロ競技麻雀協会の藤坂さんです。」
「藤坂です。もう1人の監督として戻ってまいりました。よろしくお願いいたします。」

藤坂直は、開幕シーズンからリーグ・ザ・スクエアRAKUWAホビーウォーリアーズで2年戦っていた。
攻撃・防御バランス型であり、条件戦に強い。
タイトルも、逆転で勝ち取る。もしくは、逆転勝ち抜けを見せる。

「監督のお2方には、この後の生配信でサプライズ発表としたいと思っています。よろしくお願いいたします。」
「なるほど。」
「では、今季の目標などの確認をさせて頂きます。GMお願いします。」
「我がチームは、今季2部リーグからのスタートです。ぜひ、ジャッジメントトーナメント進出を目指していただきたいです。出来れば有利な2部リーグ制覇。」
こんな感じで淡々と話す。
「以上です。何かご質問ございますか?」
「一ついいですか?」
高屋が問いかける。
「どうぞ。」
「今シーズン、ダイヤモンズが欠場を表明しましたよね。ジャッジメントトーナメントも形式が変わる感じですか?私たちの戦略が大きく動きがします。」
「それに関しては午前中に連絡がありました。まだ確定ではないですが、2つの可能性があるとのことです。」
「2つの可能性ですか?」
金村がもう1回聞く。
「ええ。1つはダイヤモンズが、ジャッジメントトーナメントに参加する場合です。その場合は欠場なので1回戦から戦う形です。」
「なるほど。」
「もう1つは、ダイヤモンズがジャッジメントトーナメントも欠場する場合です。今回は、1部残留で進出枠が1チームに減るか、ダイヤモンズの2部強制降格となるかでジャパングランプリ予選時に最終決定するとのことです。仮に強制降格の場合、1回戦の1部最下位(7位)チームと2部リーグ2位・3位・4位チームのみの対戦になるのではとのことでした。上位2チームと2部優勝は昇格決定という形になるかと。おそらく特例のため2部降格がかなり濃厚だと踏んでます。まだ不明ですが。」
※詳しくは第2話を参照。

「分かりました。ありがとうございます。」
「ぜひよろしくお願いいたします。」
こんな感じで、ミーティングが進む。
1時間ほど経過しただろうか。
「では、ミーティングを終わります。続いて、生配信の打ち合わせに入ります。」

時間が流れ18時55分。

橋口をはじめ、アイロンマレッツの生配信をドキドキしながらオフィスで待っていた。
「サムネを見ただけでは、何があるか分からないですね。」
「何か手掛かりがあればいいんだけど。」
「まぁ気長に待とう。あと5分だし。」
「そうですね。」

19時。
生配信がスタートした。
「みなさんこんばんは。乃木坂アイロンマレッツチーム発足生配信を実施いたします。私がGMの秋井です。よろしくお願いいたします。」
背の高い男性が1人で話し始めた。

「では、選手の皆さんをご紹介しましょう。お願いします。」
こんな調子で、淡々と進む。
「まぁ最初はこんなもんだろ。1時間の予定だもんな。」
「じゃあ何もなさそうですね。」
その通り、1人1人にインタビューをするのが繰り返される。
「帰ります?」
金洗は支度を始めた。

45分ぐらい経過した。
すると画面から声が聞こえた。
「ここで、皆様に発表がございます。」

「なんかあるみたいですよ。」
「SNSのアカウントとかじゃないの?」

「皆様にこのチームの監督を2名サプライズで発表いたします。お願いします。」

「監督ですって!」
「うそでしょ!?」
「監督取りに動いたか。まさにサプライズだな。」

「森野さん。そして、藤坂さんです。」


「うそだろ・・・。レジェンドじゃないか。」
「藤坂さんも実力者ですよね・・・。」
「そんな2人なんですか?」
「ああ。かなり強力だぞ。」
橋口は、昭和四天王の話を思い出す。
あの人か。それは強いはずだ。
そう思いながら、生配信の視聴を終えた。

「まさか。動くとは・・・。」
「うーみん。うちは監督とかどうするの?」
「うちは・・・強い鳳さんもいるし、自分の麻雀のタイプを徹底してほしいから監督は設けないほうがいいと思うの。アドバイス程度って感じで。」
「あと、金もかかるしな。無理してチーム崩壊は良くない。」
「愛田さんもそう思われますか。」
「あと、実力未知数のチームの監督を引き受ける人も少ないだろ。うちはなるべくチームカラーとゆったり感を意識しよう。」
「了解!!」
金洗は笑顔で応じた。

橋口はこのチーム編成で良かった。夏の長くなった日をを見ながらそう改めて実感した。

第15話へ続く。












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