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五月にいちばん「スキ」がついた作品と、あらためて拙著『すべて失われる者たち』について
五月にいちばん「スキ」がついた作品は三日に投稿した「ポール・オースターが死んだ日【夢の話、または短編小説の種 #5 】」でした。ポール・オースターは「ニューヨーク三…
世界一好きなバンドをめぐる短編小説を投稿したら
五月二十四日に投稿した「ストーン・ローゼズを追って【八〇〇文字の短編小説 #15 】」が、「#海外文学のススメ」で「先週特にスキを集めました!」だそうです。スキの数は1…
90と15──noteにまつわる数字の話
note公式マガジン「#小説 記事まとめ」に選ばれた拙作「まだ眠れないの?【一二〇〇文字の短編小説 #5 】」のスキの数が90に達しました。フォロワー数が40にも満たないわた…
初夏にクリスマスの話を発信したら
五月十五日に投稿した「クリスマスに雪が降れば【八〇〇文字の短編小説 #12 】」が、「#海外文学のススメ」で「先週特にスキを集めました!」だそうです。 お時間がある際…
【自己紹介】花澤薫について(二〇二四年四月十四日時点)
花澤薫(はなさわ・かおる)は二〇二三年秋に短編小説『すべて失われる者たち』を出版し、小説家としてデビュー。普段は別名義で編集者やライターとして活動している。
福島県生まれ。大学時代は英米文学を学び、ジョン・キーツやサミュエル・ベケット、ポール・オースターなどの論文を執筆した。特に好きなアーティストはサニーデイ・サービス、ライド、ストーン・ローゼズ、ティーンエイジ・ファンクラブ、プライマル・スクリ
「特に好きだな」と思っている作品ほど「スキ」が少ない不思議な話(五月の振り返り)
二〇二四年四月一日に始めたnoteは昨日でちょうど二カ月が終わった。誰も気づいていないだろうけれど、(ほぼ)毎日作品を投稿してきた。
「特に好きだな」と思っている作品ほど「スキ」が少ないのは、ほんとうに不思議だ(五月はほんとうにスキが少なくて心が折れかけました。フォロワーさんも全然増えないし……)。六月一日十九時時点でスキが少ない作品をちょっとした解説とともに五つ紹介する。もし「面白いな」と思っ
五月にいちばん「スキ」がついた作品と、あらためて拙著『すべて失われる者たち』について
五月にいちばん「スキ」がついた作品は三日に投稿した「ポール・オースターが死んだ日【夢の話、または短編小説の種 #5 】」でした。ポール・オースターは「ニューヨーク三部作」など初期のころが好きです。
「ポール・オースターが死んだ日」は追悼の意を込めて少し彼を意識してみました。お時間がある際にぜひご笑覧ください。
それから、あらためて拙著『すべて失われる者たち』について紹介させてください。二〇二三年
日記を書く【夢の話、または短編小説の種 #8】
今から五年前、ぼくがまだ十九歳になったばかりのころ、一つ年上のガールフレンドは日記をつけていた。恋人同士になる前に、下北沢のサンデーブランチというカフェで教えてくれた。
「小さなころから日記をつけてるの」
「そうなんだ。どんなことを書いているの?」
「なんでもないことよ。その日あった出来事とか感じたこととか、たった一行でもいいからとにかく書くの。もう十年になるかな」
「昔のものを読み返すこ
ひどくみじめな気分【八〇〇文字の短編小説 #16】
はちみつ色の家が並ぶ村が点在するイングランドのコッツウォルズは、時が過ぎるのを忘れたかのような場所だ。中世の面影と恵まれた自然を目当てに、世界中から観光客が訪れる。
けれども、その村の一つのバイブリー──十九世紀の芸術家ウィリアム・モリスが「イングランドで最も美しい村」と称した───で生まれ育ったジェイクにとっては、ひどく退屈な田舎でしかなかった。石造りの家屋が軒を並べ、イギリスのパスポートカバ
ラストシーン【二〇〇〇文字の短編小説 #14】
告別式と火葬が終わったら、あの観覧車に乗ろう。東京駅で新幹線に乗ってすぐ、元昭はそう思った。上野駅に着く前に缶コーヒーを開け、空っぽの腹に流し込んだ。平日の早朝、起き抜けの体にカフェインが沁み渡る。
小学生のころからの友人である俊美が亡くなった。急性心筋梗塞だった。奥さんと二人の娘さんが丘の上にあるあの遊園地で遊んでいる間に自宅のキッチンで倒れ、そのまま息を引き取った。本当は自分も遊園地に行くは
世界一好きなバンドをめぐる短編小説を投稿したら
五月二十四日に投稿した「ストーン・ローゼズを追って【八〇〇文字の短編小説 #15 】」が、「#海外文学のススメ」で「先週特にスキを集めました!」だそうです。スキの数は13で皆さんには遠く及ばないのですが、スキを押してくれた方には心から感謝申し上げます(それにしても、フォロワーもスキの数もなかなか増えません)。
お時間がある際にぜひご笑覧ください。
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ペパーミントグリーンの椅子に人魚姫のスノードームを【一二〇〇文字の短編小説 #14】
ひとりぼっちの日曜日は退屈だ。つい煙草の数が増えてしまう。アイスコーヒーの飲みすぎで体が冷えてきた。
アビゲイルと別れてちょうど一カ月が経つ。実のところ彼女とは結婚まで考えていたのに、レスタースクエアのイタリアンレストランでふいに別れを告げられた。ほかに好きな人ができたのだという。晴天の霹靂だった。大学一年生のときから七年も付き合ってきたし、前日に体を重ね、子どもは何人ほしいかという話で盛り上が
ストーン・ローゼズを追って【八〇〇文字の短編小説 #15】
二〇一二年六月二十九日の昼すぎ、ニーナはイングランドのマンチェスターの熱気にのみ込まれていた。 前日、友人のイーダと一緒にマルメからスカンジナビア航空の飛行機に乗り、五時間かけてロンドンに到着した。セント・パンクラス駅に着くと夕食にロンドン・プライドというビールを飲みながらフィッシュ&チップスを食べ、予約していた安宿に泊まり、朝早くにユーストン駅からマンチェスター行きの列車に乗った。
お目当
罪の告白はいつすればいい?【八〇〇文字の短編小説 #14】
ティナはシャワーを浴びながら、「この関係にもそろそろピリオドを打つべきなのかもしれない」と考えている。二人とも不倫を続けているつながりは、やはり適切には思えない。秋のチェコで、二人のまだ見ぬ未来が決まる。
ダブリンからチェコへの小旅行を言い出したのは自分だ。アンディに打ち明けるべきことがあった。チェコを選んだのは、古びたダブリンの日常から離れて真実を告げたかったからだ。もぐらの絵本が大好きで、子
二人の秘密【二〇〇〇文字の短編小説 #13】
付き合って七年。結婚して三年。健一には、妻の亜純に言い出せないことがあった。
むしろ、まだ隠し通さなければならない。自分の体の不備を知ったら、亜純はたぶん悲しむだろう。家族が増えないおそれに打ちひしがれてしまうかもしれない。
結婚前、友人で不妊治療に励む千葉に促され、亜純には内緒で子どもを授かれるかどうか、いわゆるブライダルチェックを受けた。好奇心半分で終えた精液検査の結果は無力精子症。ありて
誰も幸せになれない話は【八〇〇文字の短編小説 #13】
あの日から、父親のダグラスは、息子のスティーブンに本当のことを伝えるべきではなかったのではないかと考え続けている。母親のシモーヌが緑内障で目が見えなくなるかもしれない現実を、まだ幼いスティーブンは受け止められずにいる。真夜中に二階の子ども部屋からときどきうめき声が聞こえてくる。
シモーヌは気丈に振る舞っているけれど、スティーブンの心の痛みまで抱え込んでいるように見える。シモーヌと話し合った結果と
それはぼくの名前じゃない【夢の話、または短編小説の種 #7】
ぼくは地下鉄の電車に揺られている。ソーホー地区にレコードを買いに行く途中で、ずっと視線を下げられずにいる。iPhoneのイヤフォンからはドアーズのブートレグが流れている。
オレンジ色のロングシートに腰かけ、向かい側の網棚をじっと見ている。一冊の本が横たわっている。目を離すことができない。背帯に書いてある「それはわたしの名前じゃない」という文字が気にかかって仕方がない。うろこのある優しいセリフの字