兄弟航路

文学(小説、随筆、評論、俳句、短歌、詩、戯曲)の海を旅する兄弟。 自由闊達に航路を拓き…

兄弟航路

文学(小説、随筆、評論、俳句、短歌、詩、戯曲)の海を旅する兄弟。 自由闊達に航路を拓き、 新たな出会いと珠玉の文章を探し求める。

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最近の記事

転機 ~20文字の文学~

花が散り、人が去り、日陰から今、始まる。 【あとがき】  本稿は、小牧幸助さんが主宰する「新生活20字小説」への参加作品です。惜春と新生活を意識しつつ、20文字ぴったり、というルールに沿って仕上げました。名付けたタイトルは、「転機」です。  当方は、この少ない文字数に畳む形式を日本的だと感じています。短詩形文学はもとより、物を畳む文化は、布団、扇子、ちゃぶ台など、日本人の暮らしに古くから根付いていますね。  今後も補足説明を控え、作品において雄弁であるよう、寡黙に取り組んで

    • 【俳句】弟の句をよむ 令和六年春 

       我が兄弟航路は、実の兄弟の二人組である。共有のアカウントを舟に見立て、文学の大海原にしがない航跡を描いている。  だが、昨年の七月に次女を授かった弟は、育休を宣言し、二人の娘の父として日々奮闘している。近々、新しい住まいに引っ越すようで、まだしばらくは、腰を据えて執筆する余裕はなさそうである。  そんな中でも、筆者の作品を航海する直前は、弟が必ずこの舟に戻ってくる。最初の読者という、唯一無二の役割を担うためである。  感想にしろ、指摘にしろ、それは実に朴訥たる、短い言葉

      • 【小説】蝶に宿りて

         愛とは、見捨てないことだと、誰かが言ったそうです。けれど、見捨てるべき人を見捨てられない場合は、愛と呼べるのでしょうか。  結局、私は何度裏切られようとも、母を見捨てられませんでした。  六年ぶりの再会は、歌舞伎町で働いていた頃です。  桜が咲き始めた三月の夜、どこで噂を嗅ぎつけたのか、母は客として現れました。金回りの良さそうな身なりで、目立つ黄色いジャケットを着ていましたが、瞬時に誰か分からないほど年老いて、まだ六十前のはずが、七十くらいに見えました。顔に出る強欲さが、

        • 【小説】かっこつけた成績の上げ方

           甘ったるい声の駒木先生が、あいうえお順に生徒の名前を呼び、英語の期末試験の結果を返却していった。 「倉本くん、百点!」 「おお!」  皆の前で点数を発表されるのは、百点満点の時だけだ。  俺は、首にマフラーを巻いたまま、寝ているふりをしていた。すると、一人だけ順番を飛ばされ、最後に名前を呼ばれた。 「新田くん」  不敵に聞き流した。 「こら! 新田大輔」  後ろの生徒に背中をつつかれてから顔を上げると、皆の視線を集めていた。教壇に立つ先生は、くりっとした目の幅を狭めるように

        転機 ~20文字の文学~

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        記事

          【小説】二梅 -FUTAUME-

           思春期を迎えた女の子は、まるで白梅のようだ。同い年でも幼げな、まだ蕾のままの男の子に先駆け、ちょっぴり生意気な花を可憐に咲かせる。ふとした仕草から、“女” がほのかに匂い立つと、私のような父親は、どきっとさせられ、どことなく不安になる。  或る晩、髪をまとめた万葉が、台所でお手伝いをしながら、千里に何かをねだっていた。二階から降りてきた私は、隣接する居間で文庫本を開き、耳をそばだてた。  どうやら万葉は、お洒落なチョコレートを作りたいようだ。渋る千里は、大雑把な性格を自認

          【小説】二梅 -FUTAUME-

          雪の降る日に ~ショートショート410字~

           雪化粧の庭は、取り澄ましたような顔をしていた。  母は、予定が書き込まれた壁掛けのカレンダーを指でなぞり、はたと思い出したらしい美容室に電話を入れた。 「俺が切ろうか?」  柄にもない提案をすると、母は照れ臭そうに微笑んだ。  板の間の窓辺に新聞紙を広げ、雪見席の美容室を即席でこしらえた。遠方の山並みは、どんよりと垂れ込める雲に閉ざされていた。  母を椅子に座らせると、痩せ細った首に大きな風呂敷を巻いた。マント代わりのそれを洗濯バサミで留めた時、母に同じことをしても

          雪の降る日に ~ショートショート410字~

          小さな祈り ~20文字の文学~

          結局、お年玉を使えなかった。寄付をした。 【あとがき】  手前味噌で恐縮ですが、昨年末に開催された「小牧幸助文学賞」で大賞の栄誉にあずかりました。数ある作品の中からお選びいただいたことを大変嬉しく思います。  本稿も、小牧幸助さんが主宰する「20字小説」への参加作品です。思い描いた物語を20字に折り畳み、「小さな祈り」と命名しました。

          小さな祈り ~20文字の文学~

          【謹賀新年】ご縁のある皆様へ

           謹んで新年のご祝辞を申し上げます。当方は、例年通り祖国で年明けを迎えました。淑気に募る大和魂は、大きく和する国を志した先人の想いを継承することではないでしょうか。  本稿をお読みの皆様とは、noteを介した卓上の航海でご縁をいただいておりますが、この日ばかりは、帰港した心持ちで筆を執っております。  歴史に名を刻んだ文豪も、元日に合わせた作品を新聞などの媒体に寄稿しました。皮肉たっぷりで面白いのが、明治四十三年の夏目漱石です。その書き出しを抜粋して、以下にご紹介します。

          【謹賀新年】ご縁のある皆様へ

          【小説】ふられて尚、単純につき 

           修一郎は、実に単純な男だ。故に、定職に就いていないにも関わらず、恋人と僅か二か月の交際で結婚を確信した。早とちりした報告は、親や友人に留まらなかった。バイト先でも得意満面に触れ回った。そして、交際開始からの日数を律儀に数え、百日目の記念日にプロポーズを決意したが、あまりにも虚しく、その五日前に別れを告げられた。  青天の霹靂の彼に、去りゆく恋人は言った。「女みたいにトイレが長すぎる男は嫌いなの」  翌々週の日曜日、クリスマスイブを迎えた。修一郎は、バイト先のシフト表を休み

          【小説】ふられて尚、単純につき 

          真相 ~20文字の文学~

          そして妹はプレゼントをくれた。母の日に。 【あとがき】  本稿は、小牧幸助さんが主宰するコンテストへの参加作品です。「20文字で小説を書く」というルールに沿って仕上げました。名付けたタイトルは「真相」です。  僅か20文字ですから、俳句より長く、短歌より短く、短詩系文学の類になるやもしれません。ただ、求められているのは小説です。物語性のある一節を意識しました。  あれこれ語りたいことはありますが、あとがきを長々と書くのは言い訳がましいですね。  物書きたる者、作品において雄

          真相 ~20文字の文学~

          【童話】土と太陽

           ほんのすこしだけ昔、かふふ盆地の真ん中らへんに、のぶ爺さんのぶどう畑がありました。  かふふ盆地は、まわりを山々に囲まれて、すりばち状に凹んでいます。空高くのぼる太陽から見ると、大きなパラボラアンテナのようです。  のぶ爺さんのぶどう畑は、日あたりも風とおしもばつぐんで、広々としていました。ずらりと並んだ木の枝に、ぶどうの赤ちゃんが芽吹くのは、のどやかな春でした。そして、暑い夏をものともせず、すくすくと成長する沢山のぶどうは、さわやかな秋に、しゅうかくの時をむかえました。毎

          【童話】土と太陽

          【小説】青朽葉

           法学部二年の真司は、清涼な空気にいざなわれ、早朝のランニングを日課に定めた。食欲の秋にかまけた挙句、怠惰な体になった去年を反省してのことだ。  タオルを首に巻き、ウエストポーチを腰に巻く。両親と年の離れた弟が、戸建ての二階でまだ寝ているうちに発つ。イヤフォンで軽快な音楽を聞きながら、毎朝ほぼ同じルートを颯爽と走る。高校時代の彼は、バスケットボールの選手だった。  閑散とした道に、様々な枯れ葉がぽつぽつと落ちている。赤、黄、そして青みがかった色合いもある。かつての日本人は、も

          【小説】青朽葉

          呪いの臭み ~ショートショート410字~

          前途洋々が折れ曲がり 迷い彷徨いどれほどか 淀んだ長いトンネルを 漸く抜けてたどり着く 日の目輝く檜の場所に 惜しむことなき全霊の 演技が臭いと咎められ 遠因網羅で突き止める 気負った心は嘗てなく 貫き通した努力の上に 失敗してはならないと 呪いの如く伸し掛かり 思い悩んだ日の果てに 再度チャンスが訪れて 過去の己を蹴散らかし 砕ける覚悟を腹に据え 挑んだ勝負は吉と出て 世に出る功を掴み取り 一端の役者と認められ 一部の批判は変化なく

          呪いの臭み ~ショートショート410字~

          兄の日常 ~あの選択をしたから~

           数年前、僕が車を運転しないことについて、趣味つながりで知り合った20代の若者に、「賢い選択です」と言われた。都会人ならではの意見だ。  続けて、「甲府って意外と便利なんですね」と言われたが、それが公共交通機関の利便性を指しているのであれば、絶望的に正しくない。  僕はふふっと笑い、「甲府はシティー、ニアトーキョーですよ」と、調子に乗った。ちなみに、甲府と新宿の片道は、特急電車で 1時間40分ほどだ。区切り良く100分と、お洒落に言い換えられる。 「ニアですか」 「ご近所です

          兄の日常 ~あの選択をしたから~

          【分岐点】弟の育休と兄の一人旅

           上の一句を節目として、相棒の弟は、今後しばらく「育休」になる。  我が兄弟航路は、実の兄弟二人で作品を交互に航海してきたが、ここで面舵いっぱいに進路を変え、弟が再び筆を執るまでのあいだ、兄の筆者が一人で航跡を描いてゆく。  弟の第二子となる子宝が、女児として五体満足に生まれ落ちたのは、先月初旬のことだ。伝え聞いた際は、手放しで喜ぶよりも先に、自然と小さく手を合わせた。生命の誕生は、奇跡と神秘に満ちている。  誰に似ているだとか、目の形がどうだとか、そういった話を度々耳に

          【分岐点】弟の育休と兄の一人旅

          【小説】カネの準備は出来ている

           夏のおびただしい日差しを避け、賑わう学食で特盛カレーを食べていると、嫌な話を小耳に挟んだ。 「シングルマザーの再婚率は、子供の性別によって五倍の差があるらしい」  ちらりと振り返ったところ、男が女に語っていた。五倍は、流石に盛っていると思った。 「どっちが再婚しやすいの?」 「そりゃあ、女の子でしょう」 「ああ・・・なんか、気持ち悪いね」  生じた偏見は、致し方ないのかもしれない。性的虐待に関するニュースは、後を絶たないのだから。  俺の両親は、息子の彼女に四歳の娘がい

          【小説】カネの準備は出来ている