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リンク切れの街で

 あの交差点の角にあった喫茶店はいつの間にか、ずっとシャッターが下りているようになった。可愛らしい看板は店頭に置かれたままになっているが、ランプの明かりは灯っていないし、軒下のプランターに咲いていたはずの大きな花はとうに枯れ果てていて、もはや見る影もない。
 薄汚れた窓にはレースの白いカーテンがかけてあって、中の様子は全く見えない。穏やかな街の一角、まるでここだけリンクが切れてしまったようだ。それでも交差点の信号が変わる度、滔々と血が流れるように、人も車も一斉に動き出して、にわかに往来は活発になる。

 いつか行こうと思ってブックマークしておいたお店はいつの間にか閉業してしまった。直にこのマップからも抹消されるのだろう。まもなく完全にリンクが切れる。

 ここには何があったんだっけ、ふと通りがかかった雑居ビルの1階のテナント、いつの間にか改装工事が始まっている。
 街へ来る度ここを通っていたから、かつてこの場所に何の店がテナントで入っていたのか、知っているはずなのにどうしても思い出せない。それは街という回路を構成するひとつの部品、それが欠けても問題なく街は稼働している。だからこそ思い出せない。
 リンクが切れたんだ。この場所にあったからこそかろうじて繋がっていたリンクが、たった今無効になったんだと気づかされる。

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 リンクの切れた情景は、生物のようにうごめいているこの街の一部となって生き続けている。私だけが知っている、この情景がかつてこの街と繋がっていたことを。

 この街は今日も確かに生きている。電子回路のように、多重起動するブラウザのように、複雑に絡み合う町で、有効なリンクだけが私の今を作っていく。私はこの街で今日も確かに生きている。

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