見出し画像

晩冬

 中空なかぞらにかかる撫子の太刀で、密雲を割いた公達
 白綾しらあやを纏う雛鳥が僻遠の孤島から逃れ、濃紫こむらさきの石室に棲みつく
 端的な正午に帰路を沈思する猟師は、指数曲線を描く放線菌を木叢こむらへ積
み上げた

 おみなえしの私通

 走禽が絶筆とした教理が、浮氷に塞がれた東屋に蘭麝を媒介する
 風花が舞う電離層の湧泉でほとびる白金
 木星蝕から日向の庭草への通路に満ちる金糸を散らし、メルトンを佩びた
魚影が晩冬の除名を進展させた

 言い違えられた誓約が指す真理の対偶を示せ

 相克する桧葉ひばの連なりを一望できる窓へ、光沢のある差異をほどこ

 狂恋する遊星

 荷電したオパールが、ついの栖を求める黄梅の遍歴を引き留める
 低圧な夕さりの近似値としての拙劣な火矢
 湿原に聳える沈着な伽藍で、黄鳥はしめやかに馬酔木の伽を務めた

 水流の内、除名された頁岩けつがんに雪片が着弾する
 未踏の鉱脈で鬩ぎあう似我蜂じがばちの遅延と、禁則に反した時針により、初春
の御触れが齎された

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?