アニメ「Kanon」第6話を5つの視点から分析する👀
引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第6話。第5話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!
分析対象
あらすじ
【ポイント①】待つこと、待つヒロイン、待たぬヒロイン
<1>
本話のキーワードは【待つこと】である。
皆が祐一を待っている。
<2>
まずは、幼いあゆ(7年前のあゆ)。
彼女は、駅前のベンチで祐一を待っている(たい焼きを食べる約束をしているのだ)。
<3>
続いて、現在のあゆ。
彼女もまた、駅前のベンチで祐一を待っている(映画を見に行く約束をしているのだ)。
なお、【朝食を食べながら映画を見る約束をする → 「17時に駅前で落ち合おう」と決める → あゆが帰る】というシーンに違和感を持った人もいると思う。
私は「おや?」と思った。
だって、せっかくあゆが来ているのだ。夕方まで真琴と遊ぶなりして時間を潰せばいいではないか。なぜ2人は一度解散するのか?
これは、<あゆが祐一を待つシーン>を描きたかったからだろう。だからわざわざ2人を一度別れさせたのだと思う。
<4>
次いで、栞。
彼女は、いつも通り学校の裏庭で祐一を待っている。
<5>
……と、ここまではわかりやすい。問題はここからである。他のヒロインたちはどうだろう?
まず、舞。
<舞が、あゆや栞のように祐一を待つシーン>は描かれていない。では彼女は、祐一を待ってはいないのだろうか?
いや、そうではない。
ご注目いただきたいのは、「しばらくここには来ないでいい。真琴の傍にいてあげて。もうすぐ真琴には祐一が必要になる」というセリフだ。
これ、よくよく考えてみると……<真琴の件が落ち着いたらまた来て。それまで、私はここで待っているから>というニュアンスが込められていることに気づくだろう。
そう、舞もまた祐一を待っているのだ。
<6>
では、真琴はどうだろう?
彼女は祐一を待っているのか?
私の見る限り、<真琴が祐一を待つシーン>は描かれていない。また、舞のような<示唆的なセリフを口にするシーン>もない。
むしろ……改めて、舞のセリフにご注目いただきたい。
舞曰く「もうすぐ真琴には祐一が必要になる」。
いかがだろうか。
これ、<真琴は、いまはまだ祐一を待っていない(= 必要としていない)。しかし、これから祐一を待つことになるだろう>という意味だと捉え得ると思うのだ。
つまり真琴は、<いまは祐一を待っていないが(= 必要としていないが)、今後待つことになるであろうキャラ>なのだ。
<7>
最後に名雪。
名雪はどうだろう?
彼女はあゆや栞、舞のように祐一を待っているのか?それとも、真琴のように<いまは祐一を待っていないが(= 必要としていないが)、今後待つことになるであろうキャラ>なのか?
正解は……どちらでもない!
名雪は、<祐一を待っておらず(= 必要としておらず)、しかも今後も待つことはなさそうなキャラ>なのだ。
ここで思い出していただきたいのは、【マンガ喫茶の傍まで真琴を送った後、 祐一は学校に立ち寄る → 名雪を探す → しかし見つからない】というシーンである。
【名雪を探す → しかし見つからない】というどうでもよさそうなシーンがわざわざ描かれているのは、私たち鑑賞者に<名雪は祐一を待っていないし、今後待つこともなさそうだ>と伝えるためだろう。
しかし……さぁ、問題はここからである。
改めて問おう。名雪は、本当に祐一を待っていないのか?
私は「否」だと思う。
ポイントは、<「Kanon」の主人公が祐一であり、原則として祐一の視点で物語が進行している>という点だ。
つまり……<名雪は祐一を待っていない(= 祐一を必要としていない)>のではない。<祐一が「名雪は自分を待っていない(= 必要としていない)」と認識しているだけ>だと思うのだ。
名雪は穏やかな少女だ。心優しく、いつも微笑んでいる。<危うさ>を孕む他のヒロインたちとは一線を画する存在だ。
そして祐一は、そんな名雪に甘えている節がある(祐一の甘えについては、第3話を分析した記事に詳述した)。
だが……本当に?本当に、名雪は祐一を必要としない<強い人間>なのだろうか?
答えは断じて否である!
何しろ、第4話で香里が明言しているのだ。「名雪はのほほんとしているようで、無理するところもあるから気をつけてあげてね」と。
ところが祐一は、上述の通り「名雪は自分を待っていない(= 必要としていない)」と認識してしまっている!
<8>
最後に、ここまで申し上げてきたことを整理しておこう。
・【タイプ1】祐一を待っている(= 必要としている)ヒロイン:過去のあゆ、現在のあゆ、栞、舞
・【タイプ2】いまはまだ祐一を待っていない(= 必要としていない)が、今後待つことになりそうなヒロイン:真琴
・【タイプ3】「祐一を待っておらず(= 必要としておらず)、しかも今後も待つことがなさそう」と誤解されているヒロイン:名雪
うーむ……こうして整理してみると、どうやら最も哀れなのは<祐一を待っている(= 必要としている)のにそうと認識してもらえないヒロイン = 名雪>のようだ。
【ポイント②】過去のエピソードを再構成して物語を紡ぐ
<1>
初めて本話を見た時、私は奇妙な感覚に襲われた。「このシーンもあの演出も……どこかで見たことがあるぞ!?」と。
で、その後色々考えてみたのだが、これは錯覚ではなかった。
<2>
本話には、前話まで(第1話~第5話)とそっくりのシーン・演出が多数登場する。
以下、いくつか例をあげてみよう。
・【例1】冒頭の夢のシーン:<燃えるような夕焼け、大きな木、逆転する天地>、これらはすべて第1話の夢のシーンと共通している。
・【例2】駅前のベンチで、あゆが祐一を待つシーン:第1話の<祐一が名雪を待つシーン>にそっくりだ。
・【例3】朝食シーン:<いつの間にやらあゆが来ていた>というこの展開は、第5話の繰り返しである。
・【例4】ホラー映画を見てあゆが青ざめるシーン:映画鑑賞中、あゆはものすごい顔で悲鳴をあげる。この時のあゆは、第3話の<祐一がこんにゃくで真琴を驚かせるシーン>の真琴そっくりの顔をしている。
・【例5】祐一とあゆが喫茶店(百花屋)で語り合うシーン:同様のシーンが第1話にもある。
・【例6】舞が「真琴の傍にいてあげて」と祐一に言うシーン:第5話のエンディングシーンにそっくりだ。
・【例7】祐一と真琴が風呂場でもめるシーン:これまた、第5話に対応するシーンがある。
<3>
もちろん、これは意図的なものであろう。制作者はわざと過去のエピソードを想起させるシーン・演出を突っ込みまくっているに違いない。
はて、なぜそんなことをするのか?
私はこれ、【「Kanon」の第1章は本話でおしまい!次話からは大きく展開が変わりますよ。だから、本話では過去を振り返っておきましょうね】という制作者から私たち鑑賞者へのメッセージだと感じた。
【ポイント③】本話に漂う<不吉な雰囲気>
<1>
本話は、基本的にはコメディ回だ。あゆや真琴はじつにかわいらしくて、見ていて楽しい。
しかし……単なるコメディではない。どこか不吉な雰囲気が漂っているのだ。
はて。私たち鑑賞者はどこから<不吉な雰囲気>を感じ取るのだろうか?
考えてみよう。
<2>
まずご注目いただきたいのは、秋子の言動である。
・シーン1:祐一とあゆが昔馴染みだったと知った時、秋子は顔を曇らせた。そして言った「……ずっと祐一さんのことを待っていたのかもしれないわね」
・シーン2:祐一が「バイトをすれば真琴は記憶を取り戻すかもしれない」と言うと、秋子は再び顔を曇らせた。そして言った「そう……かもしれないわね」
明らかに秋子は何かを知っている!何かに気づいている!
では、彼女は何を知っているのだろうか?何に気づいているのだろうか?顔を曇らせるくらいである。まぁ、ハッピーな話題ではないだろう。
うーむ、じつに不吉だ!
<3>
また、祐一とあゆの些細なやりとりも注目に値する。
・シーン1:「待っていた人が来てくれるのは嬉しいね」というあゆの言葉に対して、祐一が呟く「待つ、か……」
あゆは、なぜ<待ち人が来ること>をかくも喜ぶのか?過去に何かあったのか?また、祐一はなぜ「待つ、か……」と呟いたのか?
・シーン2:あゆは、以前は両親とよく映画を見に行っていたそうだ。しかし最近は行っていないとのこと。祐一が理由を問う。するとあゆは「どうしてかな?」と首をひねった
あゆは、なぜ<映画に行かなくなった理由>がわからないのか?
・シーン3:あゆと別れた後、祐一はふと思う「そういえば、あゆの家はどこにあるんだっけ?」
あゆの家はどこにあるのだろうか?
うーむ!じつに不気味である!
<4>
もちろん、舞のセリフも要注目だ。
・シーン:舞曰く「しばらくここには来ないでいい。真琴の傍にいてあげて。もうすぐ真琴には祐一が必要になる」
真琴の身に一体何が起きるというのか!?
【ポイント④】祐一はジゴロでプレイボーイなのに、なぜ嫌な感じがしないのか?
<1>
祐一はジゴロである。プレイボーイである。意地悪な見方をすれば、次々と女の子に声をかけ、彼女らの好意を弄んでいるようにも見える。
そして、プレイボーイな主人公といえば大いにヘイトを集めそうなものだが……どうだろう?多くの鑑賞者は、祐一を嫌悪してはいないと思う。
はて。祐一はなぜ嫌われないのだろうか?
もちろん、理由は1つではない。
例えば【「ハルヒ」のキョンに勝るとも劣らぬほどツッコミが冴え渡っており、じつに面白いキャラだから】など、様々考えられるが……しかし1番の理由は、上述の<不吉な雰囲気>にあると思う。
<2>
つまり、
・前提:本話には、不吉な雰囲気が漂っている。祐一自身やヒロインたちに今後大いなる災いが降りかかることは容易に予想できる
・結論①:身も蓋もない言い方になるが、人間には<これから不幸のどん底に落ちるであろう人には寛容になれる>という性質がある。ゆえに、祐一のプレイボーイっぷりを笑って許せるのだと思う
・結論②:多くの鑑賞者は、「いつ、どんな不幸が起こるのだろう?」という点に興味津々だ。ゆえに、祐一のプレイボーイっぷりがあまり気にならないのだと思う
……というわけだ。
【ポイント⑤】右から左へ進むのか、それとも左から右へ進むのか
<1>
最後に、私が好きなシーンを2つ取り上げたい。
すなわち……
・7年前:幼いあゆが駅前のベンチに座っている。間もなく、祐一がやってくる
・現在:あゆが駅前のベンチに座っている。間もなく祐一がやってくる
<2>
この2つのシーンは、一見するとそっくり同じだ。しかし、異なる点もある。
・7年前:祐一は右から走ってくる
・現在:祐一は左から走ってくる
<3>
アニメや映画、絵画などにおいては、<右は未来/左は過去>を意味するとされる。
これをあてはめると、そう!【7年前:祐一は未来から走ってくる】ということになる。
第1話、第4話、本話を見ると、幼いあゆはどうやら母を失ったばかりのようだ(死別と思われる)。あゆは絶望のどん底にいる。そんな中、彼女は祐一と出会った。希望溢れる未来からやってきた祐一と!
つまりはこれ、<あゆが祐一のおかげで立ち直り、前進し始めたこと>が端的に表現されたシーンなのだ。
<4>
一方、【現在】はどうか?
先の理屈を当てはめると、【現在:祐一は過去から走ってくる】となる。
<記憶/思い出>、そして<記憶を取り戻すこと/過去と向き合うこと>という「Kanon」のテーマ(第2話を分析する記事で詳述した)と合わせて考えれば、つまりはこれ、いよいよ物語が動き始めるということを示唆しているのだろう。
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(担当:三葉)
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