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「友達って何?」と頭でっかちに考えるのは止めようぜ!|「僕は友達が少ない」に学ぶテクニック

先日来アニメ「僕は友達が少ない」(第1期)を1話1話詳しく分析してきました。

本記事では、作品全体のテーマに迫ります。


そもそも「テーマ」とは何か?


はてさて、そもそも「テーマ」とは何でしょうか?

「テーマ」はかなり曖昧で、そして多義的な言葉です。定義を明確化しておかないと議論が成り立ちません。


ここでは大雑把に、「作品全体に通底するメッセージ/作品を1つの物語にまとめあげる要」と定義することにしましょう。


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<補足>

以下、私の敬愛するカール・イグレシアス(Karl Iglesias/アメリカの脚本家、脚本研究家)と、ロバート・マッキー(Robert McKee/アメリカの脚本研究家)の言葉をご紹介します。


▶ カール・イグレシアス曰く……

優れた脚本と凡庸な脚本の差は、テーマの深さに現れることが多い。力強いテーマがなくても娯楽性の高い脚本は書けるが、それだけでは優れた脚本とはみなされない。テーマがない脚本は軽い。表面的な楽しさをなぞるだけで、作品を観終わった観客の心に何も残らないのだ。
あなたが書く脚本の中にあるほとんどの場面は、そして登場人物は、会話は、そして映像は、テーマを反映するべきなのだ。あなたが書く物語というものは、単にそのテーマを見せるために必要な環境を創造するための道具にすぎないのだ。
表面にあるのが物語、その下を流れるのがテーマだ。物語に惹かれて観客は映画館にやってくる。そしてテーマが鑑賞体験に意義を与える。観客が家に帰ったあともテーマは心に残る。

以上、「『感情』から書く脚本術」より引用。


▶ ロバート・マッキー曰く……

かつてパディ・チャイエフスキーがこんなことを話していた。自分のストーリーの意味を最終的に突き止めたら、それを書きつけたメモをタイプライターに貼りつけ、書くものすべてが中心的テーマとなんらかのかかわりを持つように心がけたという。

以上、「ストーリー」より引用。

※補足パディ・チャイエフスキーは、アメリカの脚本家。代表作は「ネットワーク」など。


テーマは、「友達・友情」に関連した何か


さて「テーマ」の定義が定まったところで、改めて問います。アニメ「僕は友達が少ない」(第1期)のテーマは何か?


まぁ、「僕は友達が少ない」というタイトルですからね。「友達」とか「友情」とか、その辺りがポイントなのだろうということは想像がつく。

ただし、「友達・友情」それ自体はテーマとは言えません


テーマというのは例えば、

・例1:友達は大切だ!友達のいない人生なんて糞だ!

・例2:友達なんて糞くらえ!人間、生まれる時も1人なら死ぬ時も1人だぜ!

……なんて具合でなければならない。


テーマを知りたければ、物語冒頭に注目せよ!!


ところで……大体の作品では、物語序盤に「テーマを明示・暗示するシーン」が仕込まれているそうです


ブレイク・スナイダー(Blake Snyder/アメリカの脚本家、脚本研究家)は、これを「Theme Stated(テーマの提示)」と呼びました。

構成のしっかりした脚本では、冒頭から五分あたりで登場人物の誰か(たいていは主人公以外の人物)が問題を提起したり、テーマに関連したことを口にする(たいていは主人公に対して)。

※以上、「SAVE THE CATの法則」より引用。


小鷹も夜空も頭でっかちである


ということで、「僕は友達が少ない」の第1話を見返してみると……ありましたよ、ありました!

ちゃんとテーマが提示されている(ブレイク・スナイダー、すごい!)。


ご注目いただきたいのは、小鷹と夜空が初めて言葉を交わすシーン(第2幕前半)です。2人はお互いに友達がいないことを知り、「なんで友達ができないんだ?」「友達ってどうやって作ればいいんだ?」と語り合います。

会話の一部を引用してみましょう。


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夜空は名案を思いついたというように顔を明るくして「……そうだ!お金をあげて友達になってもらうというのはどうだ?」

小鷹「寂しすぎるだろ、それは!」

夜空「学校で一緒にすごしてくれたら、1週間で1000円とか」

小鷹はがっくり「愛人契約……いや、友人契約かよ」

夜空「うまいこと言うな。そう!まさに契約だ!」

小鷹「普通に『友達になろう』って言うのは?」

夜空「フンッ。そういうのはドラマとかで見るけど、よくわからんのだ。友人になろうと言って承諾された瞬間、友人関係が成立するのか?これまでしゃべったことがない同士でも?承諾されて以降、まったく会話をしなくても友達状態は続いていると判断していいのか?」

小鷹が俯く「まぁ、そういうのがしっくりこないのはオレも同じなんだけどな」

夜空「そもそも、私はどうしても友達がほしいわけじゃない……」

小鷹「えっ?」

夜空「『あいつは友達がいない寂しいヤツだ』と蔑むような目で見られることが嫌なのだ」

小鷹は心の中で……なるほど。何となくわかる。確かに世間では「友達が少ない = 悪いこと」という意味になってる。それはちょっと違うんじゃないか。

夜空は何だか暗い感じで「私は1人でも平気だ。学校での友人関係なんて上っ面だけの付き合いで十分だ……」

小鷹「それでも、オレはホントの友達に巡り合いたいと思うけどなぁ」

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さて、いかがでしょうか?

いやまぁ、気持ちはわかるんですよ。彼らは高校生、思春期です。自分自身や対人関係に悩む時期。


しかしそれにしても……頭でっかちになりすぎだろ!小鷹の「ホントの友達」という発言なんて、まさに象徴的ですよね。友達にホントもクソもねぇよ!

彼らのメンタリティは、「本当の自分」を求めて自分探しの旅に出る人や、「ユートピアを性急に求めて暴力革命へ突き進む人びととよく似ていると言えるでしょう(「本当の自分」なんて存在しねぇよ!「ユートピア」は、どこにもない土地って意味だよ!)。


夜空と星奈の「友情」


ここで少し話題を変えて、「夜空と星奈の関係」にスポットライトを当ててみましょう。


2人は第1話の第3幕で出会って以降、終始対立してきました。隙あらば揉めている。

しかしですね、では2人は犬猿の仲、水と油、永遠にわかり合えぬ仲なのかというと、いや、それは違います

第2話以来、「夜空と星奈は一見不仲だが、じつは息ピッタリ。いつか大の親友になるのではないかと予感されるエピソード」がいくつも登場するんですよ。


例えば、第5話にはこんなシーンがあります。

・Step 1:夜空は、肉感的な星奈に「肉」というあだ名をつけた

・Step 2:星奈は不満を口にする「あのバカ!変なあだ名つけてくれちゃって!」

・Step 3:ある日、小鷹が素朴な疑問を口にした「でもお前、最初からあっさり受け入れてた気がするんだが……」

・Step 4:すると星奈は顔を赤くして「あっ、あだ名って初めてだったから……その……ちょっと……うっ、嬉しくて」

・Step 5:小鷹が呆れる


あるいは、第12話(最終話)には、

・Step 1:夜空がショートカットになる

・Step 2:理科や幸村はそれが夜空だと気づかない

・Step 3:星奈だけが気づく

……というシーンがあります。


いつも言い争ってばかりの2人を「友達」と名状するのは難しいかもしれません。しかしですよ。2人の間にある種の「友情」が存在することは間違いないと思うんですよね。


小鳩とマリアの「友情」


本作には、「夜空と星奈」によく似たコンビがいます。

小鳩とマリアです。


2人はいつも言い争っている(例えば、第5話)。

しかし、この2人の間にもやはり一種の「友情」が感じられます。


結論:「友達って何?」なんて頭でっかちに考えるのは止めようぜ!


<1>

さて、いよいよ結論です。

アニメ「僕は友達が少ない」(第1期)のテーマは何か?


答えはズバリ、

・1:「友達って何?」なんて頭でっかちに考えるのは止めようぜ!

・2:そんなの気にせず楽しんじゃおう!だって「友情」は、ワイワイやっている内に自然に生まれてくるものだからさ!

・3:それに、一口に「友情」って言っても色々な形があるんだよ!

……でしょう。


上述の「夜空と星奈の関係」「小鳩とマリアの関係」が象徴的です。彼らの間には、いつの間にやら「友情(的なもの)」が芽生えていた!


<2>

本作の主人公・小鷹は、残念ながら最後の最後まで頭でっかちのままで、「ホントの友達が云々」なぞと口走っています。

しかしですね、客観的に見れば彼にも既に友達がいるんですよ。

例えば夜空。あるいは星奈。他にも理科や幸村。年齢差はあれど、小鳩やマリアとの間にだって友情が芽生えていると言える。


いつの日か、小鷹が頭でっかちであることを止めた時。

もうちょっと柔軟になり、そして現実を受け入れられるようになった時。

その時、彼は気づくでしょう。

なぁんだ。オレにはもう友達がいたんだ、と。


おまけ:矢吹ジョーの「友情」


アニメ「僕は友達が少ない」(第1期)を見ていて、私は「あしたのジョー」を思い出しました。


矢吹ジョーは「宿敵・力石徹との間には友情があった」と語り、その友情に殉じようとすらします。

そう、世の中には理解しがたい形の「友情」が存在するんですよね。


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