アニメ「Kanon」第16話を5つの視点から分析する👀
引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第16話。第15話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!
分析対象
あらすじ
【ポイント①】舞は佐祐理と同じ心境に至った
<1>
第11話から始まった舞ルート(舞をヒロインに据えた専用ストーリー)は、前話で幕を閉じた。
そして、本話から栞ルートが始まった。
だが、第11話の冒頭に<真琴ルートのエピローグ>が置かれていたように、本話の冒頭には<舞ルートのエピローグ>が描かれている。祐一とあゆが舞と佐祐理を見舞いに行くシーンだ。
まずはこのシーンを見てみよう。
<2>
ご注目いただきたいのは、舞のセリフである。
舞は言う「まだ頭が整理できていないけれど、時間をかければ少しずつ落ち着いて考えられるようになると思う」。
これ、どこかで聞き覚えがないだろうか?
そう、第14話の佐祐理のセリフにそっくりなのだ。
すなわち、「この曲、パッヘルベルのカノンです。同じ旋律を何度も繰り返しながら、少しずつ豊かに、美しく和音が響き合うようになっていくんです。そんな風に、一見違いのない毎日を送りながら、でも少しずつ変わっていけたらいいですよね」「いつか一弥のことも悲しい気持ちだけじゃなく……思い出せるようになるかもしれない」。
<3>
このセリフの意味については、第14話を分析する記事で詳述したのでここでは割愛するが……要するに、いま、舞は佐祐理と同じ心境に至ったと考えていいだろう。
2人はまだ立ち直ったわけではない。いまも混乱・悲しみの中にいる。しかしこの混乱・悲しみには終わりがあると信じて、前を向いて歩き始めたのだ。
【ポイント②】なぜ本話には、<秋子の風邪エピソード>が描かれているのか?
<1>
本話は【祐一が栞とデート → 栞及び香里が真実を語る】というエピソードだ。だがもう1つ、【秋子が風邪を引く → あゆが世話をする】というエピソードも描かれている。
……これ、ちょっと不思議な構成だと思わないだろうか?
だって、せっかく栞ルートが始まったのだ。栞と香里の物語に集中したっていいはずだ。というか、そうすべきではなかろうか?それなのに、なぜ【秋子が風邪を引き、あゆが世話をする】という無関係なエピソードが描かれるのだろう?
構成練りまくり、演出凝りまくりの「Kanon」のことである。単なる偶然だとか、尺が余ったからだとかそんな理由とは思えない。何か狙いがありそうなものだが……。
<2>
ということでいろいろ考えてみたのだが……【<秋子の風邪エピソード>は、<栞のエピソード>の今後の展開を暗示・先取りしている】のではなかろうか?
例えば、
・STEP1:秋子が風邪を引いた
・STEP2:だが、名雪は気づかなかった(秋子がそれだけ元気にふるまっていたのだろう)
……という展開は、
・STEP1:栞は一見元気に見える
・STEP2:だが、じつは死期が迫っているのだった
……という展開を暗示していると言える。
また、
・STEP1:秋子が風邪を引いた
・STEP2:秋子の看病をすべく、名雪があゆをサポートする。2人はまるで姉妹のようだ
……というシーンは、【栞と香里が実の姉妹であることが明かされるシーン】を先取りしていると考えられる。
<3>
ご覧の通り、【サブエピソード(秋子の風邪エピソード)が、メインエピソード(栞のエピソード)の展開を暗示・先取りしている】わけだが……はて。
なぜそんな面倒くさいことをするのだろうか?
おそらくは、
・【理由1】鑑賞者の関心を惹きつけることができるから:「もしかしてメインエピソードも○○になるのでは!?」と意識的・無意識的に予感させることで、鑑賞者の「続きが気になる!先を見たい!」という気持ちを高めることができる
・【理由2】唐突感を薄めることができるから:「展開が唐突すぎて鑑賞者がついていけない」という事態を防ぐことができる
……だろう。
【ポイント③】栞ルートと真琴ルートの相似性
<1>
上述の【サブエピソード(秋子の風邪エピソード)で、メインエピソード(栞のエピソード)の展開を暗示・先取りするテクニック】と似たような話をもう1つ。
まずは、以下の3つのシーンをご覧いただきたい。
・シーン1:秋子が風邪を引くと、あゆはひどく取り乱した。幼くして母と死別したあゆは、どうやら秋子を母のように思っているようだ
・シーン2:栞は、これまで一度もゲームセンターに入ったことがないという
・シーン3:栞は病に冒されており、死期が迫っている。香里は、そんな死を目前に控えた栞の傍にいることが辛くて仕方ないようだ
<2>
さてこれらのシーン、どこかで見覚えがないだろうか?
そう、真琴ルートだ!
・シーン1:真琴もまた、秋子によく懐いていた。そして秋子は、真琴を我が子のようにかわいがっていた
・シーン2:真琴といえばプリクラだ。彼女は皆でプリクラを撮りたがっていた
・シーン3:祐一は腹をくくり、衰弱する真琴に寄り添った。そして真琴の<死>をしっかり見届けた
<3>
私たち鑑賞者は、既に真琴ルートを知っている。だから否応なしに、意識的・無意識的に真琴ルートと重ねながら、栞ルートを鑑賞することになる。
ゆえに、【先行エピソード(真琴ルート)で、後続エピソード(栞ルート)の展開を暗示する】というテクニックを使い得るのだ。
そして、このテクニックを使うことで何が起こるかというと……
・【効果1】鑑賞者の関心を惹きつけることができる:「もしかして栞ルートも、真琴ルートのような展開を辿るのか!?」と意識的・無意識的に予感させることで、鑑賞者の「続きが気になる!先を見たい!」という気持ちを高めることができる
・【効果2】唐突感を薄めることができる:「展開が唐突すぎて鑑賞者がついていけない」という事態を防ぐことができる
【ポイント④】庇護欲に火を点けろ!
<1>
栞は言った「本当は、始業式の日も、お医者さんには『行くな』って言われていたんです。でも、どうしても叶えたい夢があって。お姉ちゃんと同じ学校に通って、一緒に裏庭でお昼ご飯を食べて、帰りは一緒に寄り道して、家ではその日あったことをおしゃべりする……。お姉ちゃんにそう言ったら笑ってましたけどね、『安上がりな夢だ』って」。
嗚呼、この慎ましさよ!
夢と呼ぶことすら憚られるこの慎ましい夢!
<2>
そう、栞はいちいち慎ましいのだ。
例えば……
・慎ましい1:街を歩いていてゲームセンターを見かけた時、栞は言った「あっ!あれって、ゲームセンターですよね!私、1度でいいから入ってみたかったんです!」。そして祐一が「じゃあ入ってみようか」と言うと、満面の笑みになった
・慎ましい2:祐一とあゆに初めて会った日(第2話)のことを回想して、栞は言った「私にとっては大事な思い出です」。祐一が「そんな大げさな」と苦笑すると、「あの時の祐一さんとあゆさん、面白かったですから。私、家に帰ってからずっと笑っていました。本当に……涙が出るくらい笑ったんです」
この慎ましさが、「そんな些細なことで大喜びするって、きみ、どんなに辛く灰色の日々を送っているんだよ……。嗚呼、俺が幸せにしてやりたい!」という具合に、私たち鑑賞者の庇護欲に火を点けるのだ。
栞、最高です。
【ポイント⑤】似たようなセリフを口にする意味
<1>
上述の通り、栞は言った「本当は、始業式の日も、お医者さんには『行くな』って言われていたんです。でも、どうしても叶えたい夢があって。お姉ちゃんと同じ学校に通って、一緒に裏庭でお昼ご飯を食べて、帰りは一緒に寄り道して、うちではその日あったことをおしゃべりする……。お姉ちゃんにそう言ったら笑ってましたけどね、『安上がりな夢だ』って」。
で、それからおよそ1分半後、香里がこんなことを言う「あの子、楽しみにしていたのよ。私と同じ学校に通って、私と一緒にお昼ご飯を食べたり、帰りに待ち合わせしたり……そんな誰でもしているようなことがあの子の昔からの夢だったの」。
<2>
そう、2人はほとんど同じことを言っているのだ。というか……制作者は、栞の口から<栞の夢>を語らせたすぐその後に、香里の口からも<栞の夢>を語らせているのだ。
この構成、【香里が<栞の夢>を正確に把握している = 香里は一見すると冷たい態度を取っているが、じつは栞のことが大好きで、栞を強く想っている】ということを表現しているのだろう。
巧い構成だなぁと思った。
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