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アニメ「Kanon」第8話を7つの視点から分析する👀

引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第8話。第7話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!


分析対象


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あらすじ


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【ポイント①】まずはストーリーを整理する ~<祐一の否認>に着目して


<1>

本話はすごい!じつにすごい!何がすごいって、信じがたいほど私たち鑑賞者の胸に迫ってくるのだ。


一体なぜ、どうして、何が、これほどまでに私たちの胸を打つのか!?

詳しく考えてみよう。


……が、その前に。まずは本話全体のストーリーを、祐一の言動に着目して整理する。


<2>

▶ STEP1

本話冒頭、祐一の言動はこれまでと変わらない前話以前と同様に真琴をからかい、明るく笑っている。


▶ STEP2

ところがどっこい、美汐との会話(1回目)を境に物語は大きく動き出す

すなわち、美汐と話している内に、祐一はとある記憶を取り戻したのだ。そしてピンときた。もしかすると真琴は……あの時の狐!?

そんな、まさか!


ここから先の祐一は、見ていて辛いものがある。基本的にはそれまでと同様に明るくふるまっているものの、彼の心の中では、拭いがたい疑念や不安が終始渦巻いているのだから。


ところで……この時、祐一は<真琴の正体 = 狐>とどの程度確信していたのだろうか?

彼は表面的には「狐が人間に化けるだなんて、そんなことあり得るわけないさ」という顔をしている。しかし私は、実際にはかなり強い確信を持っていたのではないかと思う。

心の奥底では理解しつつもそれを真実だと認められない……つまり祐一は、<否認>と呼ばれる心理状態にあったのだと思うのだ。


だからこそ、彼はじっとしていられなかった。かくして美汐を呼び出した。


▶ STEP3

物語中盤(ミッドタウン)に、祐一と美汐の2回目の会話シーンが描かれている。


この時祐一は、「もしかして真琴は……」という疑念や不安を抱いている。

だがしかし、彼はそれを口にはしない。なぜならば、<否認> 状態にあるのだから。祐一は「真琴の友だちになってやってくれないか?」なぞと明るく話す。


一方、美汐はズバズバと核心的なことを言う。

祐一は驚き、動揺する。だがついに真琴の正体が明かされそうになると……祐一はたまらず叫んだ「待て!それ以上は言わないでくれ!」

祐一は現実を直視しようとしない。まさに<否認>である。


▶ STEP4

祐一の<否認>はいましばらく続く。

だが、この世界は残酷だ。直視したくない現実>を次々と祐一に叩きつけてくる。


・直視したくない現実1:ものみの丘で、真琴の証言と祐一の記憶がぴたりと一致する

・直視したくない現実2:時を同じくして、真琴が体調不良を訴えるようになる(ふらつく、転ぶ、箸を落とす)


祐一は苦しい。彼は葛藤する。真琴はやはり……いやいや!でもやっぱり……そんなはずあるか!あってたまるか!


▶ STEP5

そして終盤、祐一は真琴の寝言を耳にする。真琴は言った「ずっと一緒にいられると思っていた。一緒にいたかった」。

この時、いよいよ<否認>の限界がやってきた

かくして祐一は、美汐との会話(3回目)に臨む。そして今度こそ真相を知るに至った。


以上が、本話の概要である。


【ポイント②】祐一の思考や感情は直接的にはほとんど描かれていない。しかし間接的には……!


<1>

さて、ここからが本題だ。<本話が信じがたいほど私たち鑑賞者の胸に迫ってくるその理由>を解き明かしていこう。


本記事では、以下の図に沿って考察を進める。

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<2>

まず最初に確認しておきたいのは、<本話では、祐一の思考や感情は直接的にはほとんど描かれていない>ということだ。

つまり、①モノローグ、②独白、③誰かとの会話などを通じて、祐一が自分の考えや気持ちを吐露することがほとんどないのだ。


祐一は「もしかして真琴は狐なのか!?」なんてわざとらしく呟いたりはしないし、名雪辺りと「なぁ、真琴の正体は狐じゃないか?」と語り合ったりもしない。

彼の疑念や不安は言語化されていない。


<3>

その結果、何が起こるのか?

私たち鑑賞者は、無意識の内に神経を尖らせ、脳みそをフル回転させるようになるだろう。「祐一は何を考えているのだろう?」「彼は真琴の正体に気づいているのだろうか?」と。


そして神経を尖らせ、脳みそをフル回転させてみると……おお!私たちは仰天する。

祐一や他のキャラ(美汐)の表情、そして仕草が、カメラワークが、太陽の光や影が、BGMや効果音が……<言葉>以外の様々な要素が、祐一の思考・感情をきっちり代弁しているではないか!

言葉はない。しかし、祐一の考えていること・感じていることは手に取るようにわかる。


<4>

はて。祐一の思考・感情は、どのように代弁されているのだろうか?

1つ1つピックアップしていきたいところだが……枚挙にいとまがない。ここでは、特に私が「すごい!すごすぎる!」と感動した演出をご紹介することにしよう。


▶ 例1

祐一が美汐と会話(1回目)をするシーン。途中、彼は「沢渡真琴」という名前を思い出す。

……で、ご注目いただきたいのはこの次の場面のカメラワーク。すなわち、カメラは斜め上、少し引いたところからから祐一を映す


まず、<斜め上からの映像>という点にご注目いただきたい。つまり、画面の中の祐一も、傍にある窓や階段もすべて傾いて見えるのだ。すべてが傾いている……これ、祐一の動揺や不安を象徴しているのだろう。

次いで、<カメラが少し引いたところから祐一を映す(俯瞰視点)>について。俯瞰視点だからこそ、祐一の周りに誰もいないことがはっきりとわかる。祐一はポツンと1人突っ立っている。まるで、世界にたった1人だけ取り残されたかのようだ。これ、祐一の孤独感(誰にも言えない!誰にも理解してもらえない!)や絶望感を表現しているのだろう


▶ 例2

美汐との会話(2回目)では、上述の<斜め上からの映像><俯瞰視点>に加えて、さらに<祐一と美汐の距離><影>が目立つようになる。


まずは、<距離>に注目しよう。祐一と美汐が会うのは屋上らしき場所であり、2人は配管に腰かけて言葉を交わすのだが……この時、2人の間にはちょっと異常なほど距離がある。本当に声が届いているのだろうかと不安になるほど離れたところに座って2人は会話する。この距離!これは、祐一の孤独感や絶望感を表現したものだろう。

また、祐一と美汐は太陽を背にして会話している。つまり逆光。ゆえに、2人の顔には常に<影>が落ちている。これもまた、祐一の気持ちを現したものだろう。


▶ 例3

祐一が自宅で宿題に励むシーン。やがて無事終える。彼はホッと溜息をつく……のだが、しかし。このシーン、祐一の顔には濃い影が落ちている(祐一が電灯を背にしているため)。

これ、<宿題は終わったものの、祐一の心は晴れていない。彼は言葉には出さないが、いまこの瞬間も真琴に関する疑念や不安を抱えているのだから>といったことを表現しているのだろう。


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本話には、こうした<間接的な描写>が溢れている。

ゆえに、私たち鑑賞者は祐一の思考・感情をはっきりと理解することができる。そしてまるで祐一になったかのような息苦しさを味わう……というわけだ。

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【ポイント③】祐一はなかなか現実を受け入れられない


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続いてご注目いただきたいのは、【祐一はなかなか現実を受け入れられない】という点だ。


上述の通り、じつは祐一はかなり早い時期(おそらくは美汐との1回目の会話時点)から真琴の正体を確信していたのではないかと思う。しかし、彼はそれを<否認>した。


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この<否認>っぷりから、祐一がいかに強く動揺しショックを受けているのか察することができるだろう。

かくして私たち鑑賞者は祐一の気持ちを汲み取り、祐一同様に息苦しい思いをすることになるというわけだ。

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【ポイント④】真琴の明るさ・無邪気さが、祐一の苦しみを目立たせる


<1>

3番目に取り上げるのは、【真琴の明るさ・無邪気さ】だ。


真琴は元々陽気なキャラだった。

しかし、本話の彼女は一味違う。前話までとは比べものにならぬほど祐一に懐いている。<デレている>と言ってもいいだろう。祐一に無邪気にまとわりつくその姿は、まるでペットである。


<2>

そして……この<真琴の明るさ・無邪気さ>が、<祐一の苦しみ>をより一層強調していると思うのだ。真琴がはしゃげばはしゃぐほどに祐一の苦悩が目立ち、彼の苦しさが私たち鑑賞者にも伝わってくるという次第である。

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<3>

ところで。

真琴は、なぜここにきて祐一に懐き出したのだろうか?


思い出していただきたいのは、前話のエンディングだ。すなわち、祐一や秋子は真琴を「家族」と呼んだ。

かくして真琴は、「自分が祐一らから大切にされている」と心の底から理解できた。その結果、真琴の心の奥底に巣食っていた警戒心や怯え(おそらくは「またいつか捨てられるかもしれない」という恐怖心だろう)は溶解し、真琴はそのままの自分を出せるようになったのだ

つまり、このデレデレの真琴こそが彼女の本性なのだと思われる。


【ポイント⑤】壊れゆく真琴


<1>

さて、4番目に取り上げるのは【壊れゆく真琴】である。

本話中盤以降、真琴は次第に弱り、衰えていく。ふらつき、転び、箸すら満足に操れなくなる。人体の機能を喪失しつつあるのだ。


<2>

一般論として、多くの人は<壊れゆく者>に弱い

文芸作品を紐解いてみるといい。古くは結核、その後はガンや白血病……病名は変われども、いつの世も人びとは<衰弱しゆくヒロインの姿に涙を流すタイプの物語>を愛読してきた。


また、ギャルゲーやアニメの世界には、みんな大好き神尾観鈴がいる。


さらに、こうした<病弱ヒロイン>の変形ものとして、「最終兵器彼女」や「イリヤの空、UFOの夏」がある。


これらの作品のヒロインは、人間から兵器へと変化していく。そして私たちは、その<壊れゆく姿>に涙を流すのである。


<3>

で、本話も同様だ。

私たち鑑賞者は<壊れゆく真琴>を見て心を痛め、息苦しくなるのだ。

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【ポイント⑥】既に悲劇を経験した美汐の存在


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5つ目に注目するのは、【既に悲劇を経験した美汐の存在】である。


じつは、美汐の言動には一見すると奇妙なところがある

すなわち……当初、美汐は自ら祐一に接触を図ってきた(1回目の会話)。また、祐一に呼ばれればそれに応じる(2回目、3回目の会話)。それなのに、「これ以上私を巻き込まないでください!」と取り乱す(3回目の会話)。

鑑賞者の中には「えっ!?そんなに嫌なら、なぜ祐一に接触したの?なぜ祐一の誘いに応じたの?」と首をひねった人もいるかもしれない。


<2>

だが、この<首尾一貫性のなさ>こそが重要だ。

美汐は、<祐一 = 過去の自分>を放っておくことができない。しかし、いざ関わり始めると平静ではいられなくなる。……美汐がいかに辛い思いをしたか、そしていまもそれを引きずっているかが透けて見えるではないか!


かくして私たちは、美汐のこうした言動から、<今後祐一が経験することになるであろうあまりにも大きな悲しみ>を想像し、息苦しくなってくるのだ。

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以上、<本話が信じがたいほど私たち鑑賞者の胸に迫ってくる理由>と思しき5つの要因をご紹介した。


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【ポイント⑦】美汐はなぜ<指を立てていく>のではなくて、<指を折っていく>のか?


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最後に、私が好きな演出を1つご紹介したい。

注目するのは、美汐との会話(3回目)シーンだ。


美汐は「真琴の正体は狐。祐一に会いたくて人間に化けているのだ」と説明した後、こう続ける。

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・STEP 1:まず、指を2本立てる(人差し指と中指)。そして「奇跡を起こすには2つの犠牲が必要です」と言う

・STEP 2:次いで、「記憶と」と言いながら中指を折る

・STEP 3:さらに、「命」と言って人差し指も折る

---


<2>

美汐のこの指の動かし方、どうだろう?

よくよく考えてみるとちょっと不思議だと思うのだ。


というのも……「2つあります。○○と××です」と説明する時には、「○○と××です」と言いながら指を立てていくので一般的ではあるまいか?

ところが美汐は違う。彼女は<指を立てていく>のではなくて、<指を折っていく>。そして最後には、美汐の手はグーの形になる。


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制作者は、なぜこのように指を動かしたのだろうか?

理由は明白だ。

そう、<真琴にはもう記憶はない。命も間もなく尽きるだろう。すべてなくなってしまうのだ>という残酷な真実を、<2本 → 1本 → 0本>という指の減少によって視覚的に表現するためだろう。

すごい演出だ!!



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(担当:三葉)

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