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活動のこと⑤

この週末、活動のためのツールをいくつか用意した。

成長モニタリングの出席カード。
平成世代には懐かしいラジオ体操のカードから着想を得た手作りカード
低体重児を発見しても私はお金も食料もあげられるものはなにもない。
でもせめて毎月の成長モニタリングには来てほしい。
心配していることが伝わってほしい。
そんな思いからはじめてみた。月ごとに開催日が異なる成長モニタリング。毎月何日に開催されるか分かるように日付を記載している。そして6ヶ月連続でモニタリングに来てくれた子どもには折り紙で作ったメダルを渡す予定にしている。

ザンビアの保健省が作成している離乳食のレシピをイラストにしたもの。
政府機関が発行する資料はすべて公用語の英語で書かれているが、任地のお母さんたちはほとんど英語を読むことができない。
ましてや低栄養児のお母さんたちは教育を受けた期間が短いことが多く、簡単な英語でも理解するのは難しい。
成長モニタリングに来てくれたときには、毎月1レシピずつお母さんに渡してみようと思う。
実際に調理してくれるかはわからないが、これも心配していることを伝えるためのツールだ。


早速カウンターパートに見せてみた。
すると、レシピは大きな紙に書いてクリニックに掲示したらいいいとアドバイスをくれた。
そうすれば低栄養児のお母さんに限らず、広く知識を提供することができる。
子ども数が多く、個別的アプローチに限界を感じていたのですごくいいアのドバイスをもらうことができた。
やっと、少しだけ、協力隊員とカウンターパートの"それらしい"感じのやりとりができて少し心がほかほかした。

栄養関係の活動になるので、クリニックの栄養士にも相談してみた。
カードやレシピを活用することには同意してくれた。でも、レシピを渡しても実際に作ることは難しいからクッキングデモンストレーションが必要だという。でもクッキングデモンストレーションの予算はこのクリニックにはない。だから、私のお金で食材を購入し、クッキングデモンストレーションを開催しろ、という。隙あらばお金やものを要求してくる同僚たち。もういい加減私も慣れてきた。私個人の予算はなく、クリニックの予算の範囲でしか活動できないこと、私が自費で一度や二度クッキングデモンストレーションをしても持続性のない活動なのでやるつもりはない、と答えた。本当は私だってクッキングデモンストレーションをやってみたい。華やかだし、人を集めやすいし、ただレシピを渡すより効果があるだろう。でも彼の要求に従って、はじめるわけにはいかない。代わりに、クリニックの裏の畑で野菜を栽培することを提案してみた。明日やるつもりでいた、と彼は答えたが本当にやるのだろうか。クリニックで栽培した野菜が収穫できたら、クッキングデモンストレーションもできたらいいな、と思っている。

今日からさっそくカードとレシピを活用しよう、と意気揚々とコミュニティーに行った。まあ案の定そううまくはいかない。いつの間にか完全に人手と化していて身動きが取れない。低栄養児を発見してカウンセリングをしようとすれば、手を止めるな、と栄養士から声がかかる。
肝心の栄養士は、データ収集を黙々とこなしている。100人以上の子どもたりの体重・身長・月齢・性別・MUAC・HIVステータスをノートに記載していくのだ。この光景を目にするたび、ああMDGsの負の遺産だな、と虚しく思ってしまう。
データを集める本来の趣旨が抜け落ちたデータ収集。
中央省庁に報告し、各国ドナーたちが自分たちの援助の効果を図るためのデータ。
各数値を図るだけ図り、お母さんたちにはなんのフィードバックもなく、フォローアップもない。
私がそのために手を止めれば、本来その役割を担うはずの栄養士から声がかかる。

成長モニタリングに訪れ親子のなかには、ただ数値をノートに記入しているだけでその体重が月齢に対し適切なのか一度も確認したことがない人たちもいる。そんな親子を見つけて、時間的に余裕がある時はWHOのホームページから印刷した用紙をノートにこっそり貼って、簡単なカウンセリングをするようにしている。

このグラフよ意味さえ理解しているお母さんたちは少ない。それに説明しようにも英語が読めないので、イラストで補足説明を加えている。

データを集めるために躍起になる保健従事者
データを集めるためのいくつもの記録用紙
データを集計するための時間、手間、人員、お金

もっといい活用の方法があるはずなのに、と思ってしまう。

ザンビアに来るまでは、データを受け取る側の一人だった。
各国際機関のホームページにアクセスして各国のデータを調べたことも何度もある。
データをみてMDGsがどうとか、こうとか議論するのを真剣に聞いていた。
そして将来はデータをうまく活用できるひとになりたいと思っていた。

でもザンビアに来て、現場で働いて、データを集めることのむなしさを感じるようになった。

確かに、データさえ集められていなかった時代にくらべ世界は着実によくなっている。データを集めて評価するという習慣がついたことは公衆衛生上各段に進歩したことだ。それにデータに基づいた評価は、現場で働く保健従事者のモチベーションアップにもつながる。

でもデータを集める本来の目的が置いきぼりにされたまま、データの重要性だけが独り歩きしてしまっているように思えてならない。

データは集まるようになった。
でもそのデータの意味は、現地の住民に伝わっているのだろうか。
フィードバックもフォローアップもされずただデータを集めるだけの時間になっていないだろうか。

そんな思いを抱きながらも、栄養士から手を止めるなと言われればその声に従うしかない。私は援助国の視察団でもなければ、予算をもって活動する専門家でもない。一ボランティアでしかない私は、現場を管理監督する力はもっていない。だからせめて現場で起こっていることを一人でも多くのひとに知ってほしい。これは私の任地で、私の目に映った、現場の姿。だから、すべての現場の状況を反映するものではないかもしれない。でも実際に起こっている出来事に違いはない。

ザンビアに来るまでは、協力隊員はアイディアさえあればなんだって自由にできる最強の存在だと思っていた。アイディアの引き出しはたくさん用意してきたつもりだったし、発想力と観察力には自信があった。でも実行力が欠けていた。個人としても、協力隊員としても。

できることからコツコツ。
華やかさや、わかりやすさにとらわれず、自分がいいと思ったアイディアを自分の手の届く範囲で行動に移すことが今の私の精一杯。

そんな思いで、この間倉庫の片付けを行った。時々私がチェックして整えてはいるもののまずまず維持されている。同僚たちも使った後は、もとの位置に戻してくれている。それに、在庫がすぐ確認しやすくなったためか、必要物品を請求する頻度が増えたように感じる。それが適正な頻度なのかはわからないが、これが過不足ない在庫管理につながっていけばいいな、と思っている。

3日間クリニックを留守にしたがほとんど変化はなく、維持されていた。

それより驚いた変化があった。それは注射をするとき、同僚のひとりがアルコール綿を使うようになったことだ。それまでは筋肉注射の前後でさえも、患者さんの服の端っこで刺入部を拭いていたのに!そんな変化も少しだけ期待して、いつでも目につくところにきれいにパッキングしたアルコール綿を配置していたのだけれど、まさか本当に使ってくれるようになるなんて。

人の行動を変えるものはやっぱり物でもお金でも言葉でもないんだ。『こんなにアルコール綿があるなら使ってみるか。』きっとそんな心の変化が、人の行動を変えた。

だから私はコミュニティーでもそんな活動をしていきたい。人の行動を変える、ちっちゃなちっちゃな心の変化を起こせるような活動を。

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