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物置がなくなった! その③ 〜彼女の行方/ 知っておいてほしい話〜

彼女のお母さん

防犯カメラの映像もあり、一連の盗難は彼女が行ったことは警察も認めていました。

その後警官が何度か直接インターホンを鳴らしたようなのですが、本当にいないのか、寝ているのか、居留守かわかりませんが、応答はなかった模様。

「彼女のお母さんと連絡が取れたので、被害に遭われた近隣の方は集まって欲しい」

そう警察から連絡が来た2日後の朝、彼女のお母さんと初めて顔をあわせました。
60過ぎくらいのお母さんから、娘さん(アパートに住む女性)が35歳だと聞きました。
一人一人に深々と頭を下げながら、娘の行いを謝っていくお母さん。

アパートの女性は少しふっくらしている体型でしたが、肩までのパーマヘアでリュックを背負った細身のお母さんは、どこにでもいる近所のおばさん、といった感じです。

女性には少し精神的に不安定な時期があり、警察もそれを把握していた事実があったことを知らされます。

私は立場としては盗難された被害者になるのでしょうが、これが自分の母だったら、もし盗みを犯したのが自分の子供だったら、、

お母さんの姿に自分を照らし合わせてしまって、とても他人事とは思えませんでした。

刺激をしないよう近隣住民はそばで待機し、警察の方とお母さんでインターホンを鳴らすもやはり応答はなく、アパート周辺の物を確認して自分の物があれば警官とお母さん立ち会いのもと引き取るという流れになりました。

背景

聞けば、お母さんはシングルマザーで2人の娘さんを育てていたようです。
5年ほど前までは一緒に暮らしていたのだそう。
しかし親子のウマが合わず、娘さんは4〜5年前から今のアパートで一人暮らしを始めたんだとか。

最初の頃は電話をかけたり、電話に出なくなると定期的にハガキを送ったりしていたようなんですが、お母さん自体仕事も忙しく、だんだんその頻度も少なくなっていったようです。

「精神的に不安定になることもあったけれど、こんな人様に迷惑をかけるようなことをするなんて、、、」
と、終始うつむいてお話されていました。

彼女は姉妹の妹の方で、お姉さんには年末に赤ちゃんが産まれたと言います。
初孫のお世話の手伝いに自身の仕事、そして介護も重なってお母さんは多忙を極めていたそう。

外に置かれたたくさんの物の中には、子ども用の靴や洋服も多くあり、
「もしかしたら親子で住んでいるのかな?」
と思っていたのですが、どうやらそうでもなさそうでした。

物が増え始めたのはまさに年末からで、そこから一気に被害が拡大し明るみに出ました。

4〜5年前から住んでいるとのことでしたが、それまでは今回のような事件は一切なかったようなので、本当に突然何かのスイッチが入ったと思わざるを得ませんでした。

発症のきっかけ〜統合失調症〜

のちに女性は、統合失調症を患っていたことがわかります。

発症のきっかけは憶測でしかありませんが、精神科に勤めていた方近隣の方は、
「すぐに統合失調症だってわかった」
と言っていました。

35歳というと妙齢です。
もしかしたら彼女も子どもが欲しかったのかもしれない。

疎遠とは言ってもお姉さんの妊娠は知っていたと言いますから、お姉さんの妊娠出産が自分と重なったのかもしれません。

ベビーカーや数々のぬいぐるみを見ながら、そうかもしれないと思いながら聞いていました。
そして私の方が年は上ですが、私の属性を彼女は重なって見ていたのかもしれないと。

統合失調症は幻覚や妄想、幻聴などが起こる病気です。
本人は現実で起こっていると思っているので、原因に気づきにくい側面があるそうです。

彼女は近所で見つけたかわいいものを持ち帰って、それは本当に自分のものだと思い込んでしまったのでしょう。

あの朝、物がなくなっているのを
「どうして?!」
と焦りをあらわに探していた彼女は、純粋に自分のものがなくなったと思って動揺していたのだと思います。

その後もなかなかスムーズにはいきませんでしたが、福祉とも連携し、結果として彼女は数ヶ月病院で治療に専念することになりました。

残された荷物はお母さんの方で処理が必要となりましたが、一定期間の間に申し出がなかったものに関しては処分、私の水筒や物置はお母さんから弁償という形で話はまとまりました。

物置はそのまま使えるなら、、とも思ったのですが、組み立てが悪く傷だらけで、開閉がスムーズに出来ない上に中の棚も斜めになっていたので。

部屋の中も確認させてもらうことになったのですが、ドアを開けた瞬間から室内は物で溢れており、四つん這いにならないと中には入れなさそうで断念しました。

知ることの大切さ

統合失調症の方と接することはほとんどの場合ないでしょうが、今回がきっかけで深く考えるようになりました。

知らないことって世の中たくさんありますが、身近に何か起こらないと知ろうとも思えないものですね。

刑事事件で無罪となった多くは、統合失調症を患っていた人だそうです。
統合失調症は100人に1人と言われるほど、意外と身近な病気であることも初めて知りました。
現在では適切な治療を受ければほぼ治るそうですが、放っておくと急激に悪化することがあるそうです。

幼少期は何もなくても、20歳くらいで症状が現れてスムーズな社会生活を送れなくなることもあるのだとか。

精神疾患にも色々と種類があるようですが、正直細かい違いはわかりません。
恥ずかしながら、うつ病と統合失調症の違いも分からないレベルでした。
統合失調症なのに
「とりあえずうつっぽいし」
と心療内科に連れて行った結果、悪化するケースも少なくないのだそうです。

統合失調症の場合は精神科に連れていかなければならないらしく、治療方法も違うようなので、アプローチを間違えると取り返しのつかないことになりかねないんですって。

アパートの彼女は病院自体にかかっていなかったそうですが、発症から進行は早かったんじゃないかと思います。

対象物は、最初は「物」でもそのうち「人」になるとも聞きました。
まだしばらくもたついていたら、もしかしたら自分や子どもに何かあったかもしれない。
タラレバは良くないですが、そんな想像もしてしまいました。

明日は我が身。
他人事と思っていても、いつ自分事になるかわかりません。
もしくは身近な知り合いに起こるかも。

人は知らないことを怖いことと思いがちです。
知らないから難しそうに思えるし、自分には関係のないものと思ってしまう。

もしも自分の子が同じように精神を病んでしまったら、私はありとあらゆる情報を探すでしょう。
そして、恐れるべきことと同時に、恐れる必要のないことも見えてくると思います。

でも、自分には知識がついても、正しく理解していない周囲の人から心ない扱いを受けるかも知れません。
自分のことなら流せても、子どものことだったらすごく傷ついてしまいそうです。

世の中の全てのことを知ることは出来ないでしょうが、無知が理由で知らない間に誰かを傷つけることのない自分でありたいと強く思いました。

今回のお母さんとはメッセージでその後も何度かやりとりをしました。
年齢こそ違えど、同じ子を持つ母親同士です。
成人して10年以上も経っても、子どもは子ども。
何かあったら、放っておくことは出来ません。

人は往々にして、
「被害に遭わないためには」
という視点でものを考えがちですが、
「いつ自分が、子どもが加害者になるかもしれない」
これだって、十分あり得る視点です。

私の今回の立場は被害者ですが、この一連から学ぶこと、考えさせられたことはたくさんありました。

もちろん物を盗られたことも、見られていたことも怖かったですが、病気があるという背景や家族のこと、病気の内容を知るにつれて怖い以外の角度が見えてきました。

「知らないから怖い」
のではなく、
「何が怖いのかを、正しく知る」
これが大事だな、と思った次第です。

私の場合は、”アパートの女性が怖い”から、”統合失調症という病気は怖い”に考えがシフトしました。

最後に。
女性のお母さんがきちんと弁償してくれたので、新しい物置に無事我が家のあふれる荷物をつめ込んでいます。

治療が完治し、これからの人生を彼女が健やかに過ごしていけますように✨

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