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松下幸之助と『経営の技法』#63

4/18の金言
 独立心を養う。お互いの自主独立の精神が、組織の盛衰を左右するカギとなる。

4/18の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 指導者自身が、自主独立の精神を養い、しっかりと持つと同時に、人々にもその独立心を植えつけなくてはならない。指導者一人が自主性をもっても、人々がその指導者に依存していてはいけない。
 福沢諭吉は「独立の気力亡き者は国を思うこと深切ならず」と喝破している。独立心なき者が何千人、何万人集まったとて、それはしょせん烏合の衆にほかならない。国だけでなく、会社でも社員に独立心がなければ同じことである。
 独立心の涵養こそ、その会社、その団体、その国家の盛衰を左右する重大なカギであることを、指導者は知らなくてはならない。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、リーダー論と組織論の両方に共通する問題として、「独立心」を論じています。「独立心」と関係がありますが、これを「熱意」と置き換えれば、前日(4/17)に検討した内容となります。すなわち、特に組織論として見た場合、全従業員にいかに火をつけるのか、という問題と、それをどのようにベクトルを合わせて統制するのか、という問題のあることを指摘しました。
 ここでは、独立心と熱意の関係を考えてみましょう。
 1つ目は、独立心が熱源となる点です。独立しようという意欲があれば、独立に向けた行動の意欲になり、それが会社業務の中に見出されれば、会社業務に意欲的に取り組む熱源となります。
 2つ目は、エネルギーの方向性です。独立心は、自分自身が社会の中で活動することを志向しますから、会社の業務がそのベクトルに合わなければ、なかなか業務に取り組む意欲につながらないでしょう。さらに、社内での競争だけでなく、社内での調和に対しても興味が薄くなりがちです。このように、組織統制の観点から見た場合には、扱いにくいエネルギーとなります。
 3つ目は、組織論への応用可能性です。上記のようにエネルギーの方向性が違いますから、組み合わせ方を間違えると、会社の遠心力となってしまいます。そこで、組織論に独立心を組み合わせる方法が検討されなければなりません。
 まず、会社のノウハウや重要なことは、従業員に開示しないように厳重に管理しながら、それ以外の会社経営のノウハウはむしろ盗まれてしまうことを前提に、一時的に研修のつもりで会社に帰属する従業員を、その程度の忠誠心と見切ったうえで雇用する方法です。これは、特に中国や台湾、香港のように、独立心が強い国民性の会社で見かけるシステムです。40歳など、早い年齢に定年を設定する方法も注目されていますが、これも、同様の考えに近いと言えるでしょう。また、社内起業制度のように、特に会社にとっても意味があると思う事業の場合には、事業の立ち上げを支援するなど、独立心をインセンティブに活用する方法も注目されています。
 このように、早期独立を想定した方法では、自分が実際に事業を行うために必要なことを学ぼうと必死になりますので、期間が限られたり、幹部に登用できなかったりする欠点はあるものの、相当の熱意で業務に取り組んでもらうことが期待できます。
 次に、独立心を否定はしないものの、押さえて活用する方法です。社内での競争などの内部的な動機だけで熱意や意欲を起こすと、派閥活動や足の引っ張り合いなど、どうしても不健全で陰湿なイメージが伴います。もちろん、競争すること自体が悪いことではないのですが、競争を、従業員同士の攻撃にしてしまうのではなく、外部の共通の目標のために競い合う、ライバルのような良好な関係に設定しなければなりませんので、共通の目標を社外に設定する必要があります。その共通の目標として、それぞれの業務領域や地域で、社会に認められて会社業務領域を広げることを、各従業員に設定する、という方法です。君は埼玉県で頑張れ、僕は千葉県で頑張るよ、ということです。会社の一員である、というブランドがあるから振り向いてもらえるので、会社を辞める気はないが、自分が任されている、自分の仕事で新しいものを開拓している、という責任感や開拓心を、疑似独立心として持たせるのです。
 このように、独立心を従業員に抱かせることは、会社組織を維持してコントロールしていくうえで、必ずしも容易ではありません。
 けれども、中華圏の従業員の独立志向に比較した場合、日本人の場合には独立心がそれほど旺盛でない、ということなのであれば、実際に独立する従業員の割合も限られるので、むしろ独立心を焚きつけて意欲を高めることのメリットが、デメリットを上回る、ということなのかもしれません。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者自身に独立心が必要なのは当然のこととして、従業員の独立心を焚きつける点については、会社組織に遠心力を与える面があるため、違和感を覚えるかもしれません。
 けれども、そうでなくても一定程度の割合で会社から従業員が去っていくことを考えれば、活気のない会社から人が剥がれ落ちていくよりも、元気な会社から人が飛び出していく方が、まだマシだ、と考えられます。従業員の独立心を焚きつけることが、直ちに会社の活気につながるわけではなく、そのためにはベクトルを合わせてコントロールする統制力が必要となるのですが、その部分も含めたトータルな統制力を測る指標の一つとして、従業員の独立心を焚きつける能力も、考えてみて良いと思います。

3.おわりに
 最近は様相が変わってきましたが、いわゆる「街弁」と言われる街の弁護士業では、弁護士登録当初は先輩弁護士の法律事務所で仕事をしながら修業し、いずれ独立する、というモデルが一般的でした。自分が事務所経営者となったらどうなるのだろう、という意識を常に抱きながら仕事に取組み、先輩に学んでいたのです。
 松下幸之助氏が抱いているイメージと少し違うかもしれませんが、従業員の独立心を活用する発想は、会社組織の活性化に資する面がありますので、人事制度上のコントロールは難しくなりますが、積極的に取り込みましょう。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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