松下幸之助と『経営の技法』#56

4/11の金言
 物とともに心をつくり、心を売り、お金とともに心をいただく。

4/11の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 物と金が動けば一応商売が成り立つが、もう一つ根本的に大事なことは、物や金とともに、人の心もまたこれにのって、移り動いていかなければならない。
 物と金だけの商売は索漠としてしまう。
 物と金が通いあうだけでなく、お互いの心というものがその間に通いあうことが、極めて大切で、そこに、商売の真の味わいがある。
 互いに厳しい商戦の日々を過ごしている。しかし、その厳しさに打ち負かされない。むしろ、その中に大きな生きがいと深い喜びを感じている。なぜなら、単なる売り買いでなく、懸命な奉仕の毎日であり、そこによき心が通いあっているから。
 大いに心を通いあわせましょう。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 1つ目は、取引先と心を通わせるために、どのような施策があるか、という問題です。
 まず、直接的な手法と間接的な手法があります。
 直接的な手法としては、取引の相手の歓心を直接買うような、取引先の表彰やイベントへの招待のような方法が考えられます。
 間接的な手法としては、主に人事的な手法がありますが、そこには、人事考課や表彰制度などの制度的な方法と、企業文化や社風、人材採用のような環境的な方法、その中間の人材教育のような方法があります。
 また、特に間接的な方法については、飴と鞭、のように、動機づけと強制のバランスの問題があります。
 2つ目は、心を通わせることのメリットとデメリットです。
 ここでは、仕事に取組むモチベーションや意欲の問題が強調されています。もちろん、これにはマイナス面があり、心を通わせる相手が良ければモチベーションにもなりますが、避けたい相手であれば、むしろモチベーションにとってマイナスになります。
 さらに、取引相手とのコミュニケーションが密になると、取引相手からの情報量が増え(これにも、良い面と悪い面があります)、相互に依存度が高くなります(これにも、良い面と悪い面があります)。
 そこで、このようなメリットやデメリットを分析し、そのデメリットを減らし、メリットを活用できるような諸施策を考えるべきことになります。
 このように、経営者(松下幸之助氏)の大号令で心を通わせろ、という方針が示された場合、その抽象的な方針を具体化するために考えなければならないことを、様々な観点から分析して抽出できることが必要になります。
 3つ目に、先に冷めた見方をしてしまいましたが、心を通わせることの意味を、少し情熱的に分析してみましょう。
 それは、厳しさに負けない、奉仕である、というところに意味がありそうです。
 すなわち、簡単に諦めてしまうのではなく、ときには相手の理不尽に思われる要求にも応え、それでもビジネスを継続することは、雑な損得勘定で決まることではなく、心の通じた取引先が、中長期的にはビジネスの財産になる、という意味に解釈することも可能です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、大号令を飛ばす役割が経営者です。大きな方向や大切なことを的確に示す能力が重要であり、そのような経営者を見つけ出すことが、株主にとって重要になります。
 けれども、せっかくの大号令も実行されなければ意味がありません。
 そこで、ただ大号令を発するだけで終わらせるのではなく、それを実行させる(自分自身が実行のために一役買う場合もあるでしょう)ことができる能力も必要になります。単なる評論家と実務家の違いの、重要なポイントです。
 さらに、雑な損得勘定でブレーキをかけようとする部下たちを説き伏せ、折れそうな心を奮い立たせて、取引先のために奉仕し続けさせる信念を持っている、という面も重要となります。
 このように、経営者に求められる素養は、容易に満たされないのです。

3.おわりに
 経営者個人への教訓を、会社組織への教訓として受け止める場合、ここで一端を見たように、多層的に分析することも重要です。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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