松下幸之助と『経営の技法』#65

4/20の金言
 暮らしが豊かになればなるほど、心身ともに厳しい鍛錬が必要になってくる。

4/20の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 国、企業、家庭いずれも、物が豊かになればなるほど一面に厳しいものが大事である。
 生活が豊かでなければ、生活そのものに厳しさがあり、お腹いっぱい食べられなかったり、疲れていても働いたり、冬の朝、氷を踏んで物を売りに行ったりしなければならない。
 暮らしが豊かになれば、欲しいものは買えるし、無理に働かなくてもよくなる。すると、自然に心身が鍛えられるわけでなく、心身がなまってきて、厳しさに耐えられなくなる。したがって、暮らしが豊かになるほど、厳しい鍛錬が必要になる。
 つまり、貧しい家庭なら、生活そのものによって鍛えられるから、親に厳しさがなくても、いたわりだけで十分子供は育つ。けれども豊かになった段階においては、精神的に非常に厳しいものを与えなければいけない。そのどちらかでなければいけないと思うのである。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、家庭教育の話としていますが、会社の従業員教育、という見方も可能でしょう。
 つまり、創業期や危機的な時期に乗り越えた従業員は、苦労を乗り越え、様々な工夫をし、会社の基礎を作ってきましたから、会社の業務を何でも知っています。これに対して、会社が大きくなってから入社した社員、特に新入社員は、厳しい時代を知りません。したがって、自分自身で苦労を乗り越えなければならず、自分自身で工夫しなければならず、自分自身で会社の基礎をつ作らなければならない、という意識のない「お客さま」になってしまう危険があります。
 このように見ると、松下幸之助氏が必要、と強調する「厳しさ」「鍛錬」には、物理的精神的にストレスが大きい、という意味だけでなく、従業員の意識の問題として、受動的で「お客さま」のような意識から、能動的で主体的な意識を育てることも、含まれるように思われます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、特に創業時や危機的な時期の経営者から、それが一段落した後に経営者を交代させるときに、その人選が難しいことがわかります。すなわち、創業時や危機的な時期には、「いたわり」が経営者の重要な資質だったのが、安定期になると、「厳しさ」が経営者の重要な資質になってしまうからです。
 そうすると当然、従業員が反発するでしょう。
 それまで、苦しみを分かち合い、いたわりをもって接してくれた経営者の次の経営者が、そのような共有すべき苦労もない(外部から来た場合)にもかかわらず、厳しく接してくることになるからです。
 だからと言って、「厳しさ」「鍛錬」を打ち出せない経営者は、会社組織を弱体化させます。もっとも気になるのは、「お客さま」が増えてしまい、指示がなければ動かない従業員が増えてしまうことでしょう。
 会社の状況を見極め(体質改善が必要な時期かどうか)、経営者を見極める(体質改善をできるかどうか)のが、投資家である株主に必要となるのです。

3.おわりに
 松下幸之助氏は、会社が成長していく中で、従業員の意識が変わっていくことに危機感を抱いていたようです。すなわち、従業員の意欲(4/17)や独立心(4/18)、当事者意識(4/19)など、従業員を焚きつけるコメントが続いているのも、そのような背景があると思われます。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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