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松下幸之助と『経営の技法』#64

4/19の金言
 少々の困難に、何げなしに不平を言い、悲鳴をあげるのは、心弱き者の姿である。

4/19の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 会社の悪い点は、誠心誠意努力して、そして世間のためになるような立派な会社にしようじゃないかという心意気、気概が、従業員全員に必要。会社と運命を共にする、会社は自分たちのものだ、という意識があれば、落ち着いて仕事ができ、多少の困難に遭っても悲鳴をあげることもない。
 たしかに、不平を訴えることも、ある場合には必要。しかし、ちょっと辛いと悲鳴をあげ、不平を訴えるのは、心弱き者の姿である。大丈夫の精神、信念を持っている人間は少々困難やからというて悲鳴をあげたりはしない。しからばどうしたらよくなるかということに、終始、誠心誠意をもってぶつかっていくようにすれば、世の中というのは、まあ少々の困難はあっても打開されていく。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 読み方を間違えると、ブラック企業のような言い方に見えますが、松下幸之助氏は別の機会には、従業員のやる気や職場の活気も重視していますので、従業員を押しつぶして搾取するようなブラック企業を目指しているわけでないことは明らかです。
 ポイントは、第1段落と第2段落を結び付けて理解することです。
 すなわち、会社を自分達のものと思うということ(第1段落)は、上司から言われたことだけをやるような受動的な、まるでお客様のようなかかわり方をするのではなく、会社を自分たちでよりよくして、より社会に認められるようにして、より儲けられるようにする、という主体的で能動的なかかわり方をする、ということです。
 第2段落は、むしろこの結果です。
 すなわち、自分が会社の「お客さま」であれば、処遇が悪い、などと文句も言えますが、自分が会社の「オーナー」であれば、処遇の悪さは自分のせいになってしまいますので、簡単に文句は言えません。むしろ、会社の本当のお客さまに嫌な思いをさせる前に、自分たちがそれを実体験し、早目の対策を講じられるのでラッキー、と思うでしょう。
 「やらされ感」は、徒労感も不満も高めるのに対し、自分が責任者でオーナーであると思えば、意欲が高まるのです。
 そうすると、ここでの松下幸之助氏のコメントは、従業員を鼓舞し、従業員に主体性を持たせるための教育活動の一環、と評価できます。従業員全員が主体的に業務に取り組めば、会社組織が強くなり、活力が出てくることは、説明するまでもないでしょう
 さらに、他人の指示を待つのではなく主体的に業務に取り組むように、従業員を導き、焚きつけるような施策を、他にも考えて、組み合わせていく必要があります。
 この点についてまで、氏は言及していませんが、人事考課制度やその運用に始まり、日ごろからの声がけや、会社の社会貢献活動を従業員主体で展開するなど、様々な取り組みが考えられます。会社の人事政策や企業風土、諸活動について、従業員の主体性を育てる方向で機能しているかどうか、という観点から点検してみると良いでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、統制型の経営者には限界があり、従業員に主体性を持たせ、その範囲で、自分自身がサポート役に回る能力も必要である、と評価できます。経営者が全て決断し、全従業員がそれに従うだけであれば、遂行や事務処理能力の高い従業員ばかりそれろったとしても、経営者が認識し、判断できる領域以上に事業は広がりませんが、現場に主体性ある従業員が多く存在し、それぞれがリーダーシップを発揮してくれれば、プチ経営者がそれだけ沢山存在することになりますので、会社の活動領域が広がるのです。
 経営者には、統制力だけでなく、従業員の主体的な意欲を高める能力も必要なのです。

3.おわりに
 参加意欲さえあれば、どんな我慢も押しつけて良いわけではなく、やはりブラック企業はブラック企業なのです。
 けれども、会社が大きくなるにつれて「お客さま」意識のある従業員が増えていく様子を、松下幸之助氏は好ましく思っていなかったようです。従業員の意欲(4/17)や独立心(4/18)など、従業員を焚きつけるコメントが続いているのも、そのような背景があると思われます。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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