見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#92

5/17の金言
 実地の体験を積んだ臨床家は、現場の実情に通じた一人前の仕事ができる。

5/17の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 経営や商売は、基礎医学でなく臨床医学。これにあたる者は皆、実地の体験を積んだ臨床家でなくてはならない。
 販売の計画を立てる人に、販売の経験がなければ、それは生きたものとはならず、失敗する場合が多い。あるいは、製造経験のない技術者が設計に従事しても、いい製品ができない。
 やはり、臨床の仕事をしていく以上、実地の体験から入らなくては一人前の仕事はできにくい。もし二年なり三年なり、販売店や問屋の手伝いに行き、雑巾がけから始めてみっちり勉強、修行した人が営業の仕事をしたら、仮に机上で立てた計画でも、それはほぼ実態に即した間違いのないものができる。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏の問題意識は、現場の事業部門の在り方に向かっていますが、ここでは、間接部門の在り方について検討しましょう。コストセンターとされ、収益を期待されていない部門の代表として、我が法務部門に登場してもらいます。
 これは、社内弁護士として20年近く、様々な会社にいた経験上、直接・間接に聞かれることが、せっかく社内弁護士や法務部門があるのに、現場のことを何も分かっていない、という現場からの不満です。社外の法律事務所よりも、近くにあって安く気楽に相談できる分には良いけど、結局それだけのこと、と言われる場合があり、それを克服する必要性を感じていることと、松下幸之助氏の言葉は、間接部門にも現場感が必要である、という意味でそのまま当てはまること、が理由となります。
 その、現場を知らない代表と言われることがある法務部門の活動として、「定期便」を紹介します。
 これは、法務部門が現場の各部門(法的なサポートの必要性の大きい部門)に対し、例えば毎週火曜日の午後に、当該部門に担当者が訪問し、常駐する、という方法論です。
 このメリットの1つ目は、リスクへの早期対応です。
 すなわち、大きな会社でありがちなのが、例えば当該部門で法律問題が疑われた場合、当該部門内で検討して、当該部門長が法務部への質問をとまとめさせ、法務部長に相談を持ち掛けます。そのうえで、法務部長から担当者が指名され、やっと検討が開始します。つまり、部門内で下から上(部長)に案件が上がり、上(部門の部長)から上(法務部長)に案件が伝えられ、上(法務部長)から下(担当者)に指示が下りてきます。交差点で3回、信号を渡るようなもので、既に時間が消費されてしまい、法的なリスクを指摘しても、充分な対応をする余裕はなく、既に検討が進んでいる案件のリスクに対して「メッキ」や「絆創膏」でカバーするような対応しかできません。
 ところが、定期的に現場訪問していると、当該部門の部門内での検討前から法務が関与します。交差点で、1回信号を渡るだけで目的地に着きますので、樹幹も十分あり、根本的な対応をする時間があるだけでなく、定期的に訪問して一緒にプランを練り上げる場ができます。「メッキ」や「絆創膏」ではない、より根本的で強靭なプランを作れるのです。
 2つ目は、現場感です。
 定期的に現場に行き、現場の様子を見、現場の声を聴くことで、法務部門も現場感が養われます。このことのメリットこそ、松下幸之助氏の指摘することです。氏が特に重視する現場だけでなく、、間接部門である法務部門もこのような現場感を持つようになれば、法務部門のサポートがよりリアルになり、現場の意思決定のリスク対応力が、より現実的で、しかもより強くなることが期待できるのです。
 3つ目は、法務部門の存在感です。
 より現場感があり、より業務に適合し、より早く、より安全、ということになれば、法務部門の存在感はより高くなり、発言力も増します。そのことで、法的なリスクに対する会社の対応力もおのずと上がっていくことが期待できます。
 このように、会社組織として見て、間接部門についても現場力を高めることが可能であり、そのことによって会社全体のリスク対応力も高まるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の素養として、現場を大事にする能力が重要です。それも、単に現場が大事、と号令をかけるだけでなく、実際に現場の意識を組織の中で活用するためのプロセスや組織、ルールを作り、運用を徹底させること、それを一時的なものにせず、継続させ、企業文化として定着させること、が必要です。
 特に、大きな会社になると、本部側の人間が現場を下に見る風潮が出てきます。経営者が直接かかわりを持つ本部側の存在感が高くなるのは、構造的に当然のことですから、それが行きすぎないようにするために、松下幸之助氏の発言にあるように、意識的に現場重視を唱え続けることが大事になるのです。

3.おわりに
 自ら会社を立ち上げ、大きくしてきた松下幸之助氏にとって、現場感覚の薄まっていくことが心配だったのか、現場の意識や意欲の低下が心配だったのか、何が心配だったのでしょうか。
 どう思いますか?

※ PR


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?