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歴史映画レビュー『女王陛下のお気に入り』~歪んだ悪役令嬢物はお好きでして?~

評価 4.7点(5点中)



一言コメント:綺麗な宮廷には百合(ドク)がある



まずはマクラでしてよ


皆さん、百合はお好きだろうか?
花の方でない百合である。
レズビアンの恋愛としての百合だ。
私は今まで百合に興味がなかった。
しかし、ある作品を観てから百合に目覚めた。
そう、その作品が──!













──『リコリス・リコイル』である。



いや、そこは『女王陛下のお気に入り』じゃないんかい!


そうツッコんだだろうか。
うん、その通りだ。妥当な反応だ。何も間違ってない。

『リコリス・リコイル』は本当に素晴らしい作品だ。
作画は常に良い。アクションシーンも圧倒的。
難解でとっつきづらいSF的な世界観を観客に飽きさせず、逆に脚本の力で引き摺り込ませてくれる。
そして何より明るい天才肌と暗めの努力家というコンビがいい!
『ヘタリア』のイタちゃんとドイツさんといい、私はそういうコンビが大好きだ。

さて、『リコリス・リコイル』では爽やかで良質な百合が展開されていく。
言わば、光の百合だ。
大抵の人が百合と想像して思いつく百合はそういった百合だろう。
ここらで、ドロドロとしていて、愛憎絡み合った、良質な百合は如何だろうか?
闇の百合を、試してみないだろうか?


そんな闇の百合を描いた作品が『女王陛下のお気に入り』である。


本題はこちらからになりますわ


というわけで2回目となる今回紹介する歴史映画は『女王陛下のお気に入り』である。


具体的なあらすじを言うと、「18世紀のイギリスでアン女王をめぐって従姉妹の女官2人が争い合う、歪んだ悪役令嬢物語」である。

アン女王の時代にはスコットランドが本格的に統治下に入り、イングランド・スコットランド・ウェールズの連合王国、「グレート・ブリテン」となった。
また、アンは科学者ニュートンにナイトの称号を与えた女王でもある。

そんな女王陛下の下でドロドロの愛憎劇が繰り広げられる──そういった作品である。

エンタメとして面白い歴史映画ですわね


歴史物の映画は2つに分かれる。
歴史の教科書の補助として面白い物。
もう一つは、エンタメとして面白い物である。

前者は「ふむふむ」といった面白さである。
分かる人が見て分かる面白さがある。

後者は「お~~」という面白さである。
分からない人が見ても分かる面白さがある。

世間はエンタメとして面白いものを好んでいる。
前者にも前者の面白さがあるので優劣はつけない。

『女王陛下のお気に入り』、この作品はエンタメとして面白い。
間違いなく首を縦に触れる。
「ドロドロした百合」をメインテーマに据えている。
当時の政治の状況はほぼ出てこない。
出てきて仮に分からなかったとしても十分楽しめる。

例えば「戦争で財政が苦しい」という話は出てくる。
が、それがどことの戦争なのかという話はほぼ理解してなくても楽しめる。
(途中でフランスが相手ということがわかるが)

複雑な要素をばっさり排除している。
その分、百合を描いている。
だからエンタメとして面白い。
(『提督の艦隊』もそうすべきだったのかもしれない)

(↑『提督の艦隊』のレビューはこちらから)

撮影方法のインタビュー動画を観たら、「歴史劇っぽくない独特な撮り方をしている」「広い宮廷で窮屈感を味合わせるために超広角レンズを多用する」と言っていた。
そこも影響しているのかもしれない。

ご覧になって! 優美で可憐な宮廷を!


この作品の一番のウリは、画面がずっと綺麗で優美なことである。
御伽噺の舞踏会のような世界がどこまでも広がっている。
ドレスと聞いて多くの人が想像するドレスで舞う、麗しい世界がそこにある。

それもそのはずだ。なんせ舞台は18世紀イギリス。
そのようなドレスがお盛んな時代。
ドレスやフリルやリボンが好きな人にはたまらない世界。

──そしてそのような美しい世界でドロドロの百合が繰り広げられる。
純愛とは言えない、野心のこもった愛憎こもる同性愛が、そこにある。


「綺麗な百合には毒がある」ってご存知?


ラッパのような花弁をして私達を誘う、百合の花。
そんな百合は猫には毒なのだという。
気まぐれでわがままな猫が百合を食して心身を崩す──なんとも面白くて、恐ろしい話だ。

気まぐれでわがままな──まるで猫のようなアン女王も、この作品では百合という毒に侵されている。

アン女王は女官のサラを溺愛している。
性的な関係も持っている。
寵愛のあまり、宮殿すらあげようとしている。
国の財政は戦争で苦しいのにも関わらず、だ。

そして、サラの助言一つで政治の方針もコロッと変える。
サラは本当に「女王陛下のお気に入り」なのだ。

そんな宮廷にサラの従姉妹で没落貴族のアビゲイルが働きに来る。
アビゲイルは下っ端の召使として働き始める。
元々貴族であったアビゲイルは大勢の人と狭い部屋で雑魚寝する生活を送ることになる。

ある時、アビゲイルは女王陛下の足の痛みを治すために薬を作って塗り、それがきっかけで出世することになる。

そしてアビゲイルはあることに気づく。
サラは女王陛下のお気に入りであること。
しかし、女王陛下に少し冷たいこと、
──女王陛下の寂しさは満たされていないことに。

アビゲイルは女王陛下の寂しさにつけ込んで、愛情を得るようになる。
そしてとうとうサラと同等に出世するようになった。
快く思わないサラ、ここからさらに恋愛ゲームが熾烈なものへとなっていく。
自分こそが、地位と名誉と金を手にできる「女王陛下のお気に入り」になる為に。
(言わば、歪んだ悪役令嬢物なのである)

女王陛下のためならキツいことも言ってくれるが、そこに愛はある、口に苦い良薬のサラ。
それに対し常に女王陛下に優しく接するが、そこに愛はない、口に甘い毒薬のアビゲイル。

どちらを選ぶか?
その時女王は何を思うか?

本編で確かめてほしい。

総評のお時間ですわ


とにかく綺麗な作品だ。
画面がずっと綺麗で、豪華で、観ていて飽きない。
また、音楽も格調高くて美しい。
バロック音楽というのだろうか。
すっと18世紀のクラシック音楽のようなbgmが流れる。
本当に素晴らしい音楽なのでサントラを出してほしい。

世間には「百合に割り込むおっさん」というスラングがある。
この作品はそのスラングを踏襲しているのか分からない。

が、百合映画に割り込むおっさんがいる。
しかも裸でオレンジを投げつけられてピョンピョン跳び回っている。

何を言っているか分からないと思うが、本当にそんなシーンがある。
そのシーンを観るためだけでもいいから観てほしい。

それでは、また次回。





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