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2023年11月読書記録 青空文庫で読む海外文学など

 脚本家の山田太一さんが亡くなりました。
 山田さんのドラマで、リアルタイムで観たのは『ふぞろいの林檎たち』の3と4だけなのですが、林檎の1・2や『男たちの旅路』を再放送等で観て、とても感動しました。ふぞろい〜のテーマは今に通じるものがありますし、男たちの方は、鶴田浩二さんが何ともかっこ良く……。
 また、大河ドラマ『獅子の時代』の脚本を高校時代に読んだことが、大学で日本史を学ぶ契機の一つになりました。
 私にとっては、忘れがたい芸術家の一人です。
 再放送やストリーミングで山田さんのドラマを見かけることがあれば、ぜひご覧になってみて下さい。

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 さて、毎月青空文庫作品の感想を書いていますが、今月はカフカの『城』を読んだので、ついでに青空文庫で読める海外作品をいくつか紹介します。

大久保ゆうさんの翻訳作品

 リンク先の解説によると、大久保さんは現役の翻訳者で、著作権が切れた作品の翻訳を青空文庫に提供なさっているそうです。提供作品は多岐にわたりますが、シャーロック・ホームズの短編、ルイス・キャロルのアリスシリーズ、ピーター・ラビットの童話など、小中学生でも楽しめる古典作品が多いです。海外文学の初心者や中高生におすすめです。


バルザック『ゴリオ爺さん』

 これも、中島英之さんという現役の翻訳家の方が訳した小説です。
 バルザックはフロベールと並ぶフランスの国民作家です(村上さんがそう書いていた)。読んで楽しい話が多いんですね。個性的な登場人物たちや映画的ともいえる、起伏に富んだストーリー。中でも、『ゴリオ爺さん』はバルザックの最高傑作に挙げる人が多いです。最初の数ページはちょっと忍耐が要りますが、それを過ぎると一気読みしてしまうほどの面白さです。岩波文庫や新潮文庫にもありますが、手軽に読みたい時はこの青空文庫版がおすすめです。


 大久保さんの作品や『ゴリオ爺さん』は例外で、青空文庫にある海外作品、大部分は翻訳者の著作権が切れたものです。1967年までに亡くなった方の翻訳書ということになります。
 noteやツイッターでは古い翻訳が好きな方も見受けられますが、私はできれば新しい訳で読みたい派です。ただ、古い訳でも読みやすいものもあります。例えば、文学者が訳した作品。文学者は言語感覚が同世代の人たちより先鋭的なのかもしれません。

チェーホフの作品

 青空文庫にあるチェーホフの作品は、主に神西清訳です。神西清は堀辰雄の親友としても有名な文学者です。1957年に亡くなったので、翻訳は古いといえば古いですが、問題なく読めるレベルでした。新潮文庫や岩波文庫では、一部の作品に神西訳を採用しているほどです。
 チェーホフの短編や戯曲は、内容的にもわかりやすいものが多く、海外文学になじみのない方にもおすすめです(「女がいない男たち」に登場する「ワーニャ伯父さん」の翻訳もあります)。


豊島与志雄翻訳作品

 豊島与志雄は芥川龍之介や久米正雄の盟友です。青空文庫には本人の作品以外に、『レ・ミゼラブル』と『ジャン・クリストフ』の翻訳が収録されています。この二作も、豊島の翻訳を採用している文庫があります。大長編を読みたい時に。

 

 今月読んだ青空文庫3冊の感想。

カフカ『城』

 未完に終わったカフカの長編小説です。カフカの小説はどれも不条理で、閉塞感を覚えるものばかりですが、特に『城』は閉塞感を味わうためにある小説のようでした。ツイッターにも書いたのですが、繰り返し見る悪夢に似ていました。ある場所に行きたいのに、余計な邪魔ばかり入ってたどり着けないという(悪夢のよくあるパターンではないでしょうか)。また後半では、手の届かないものが城という場所から女性たちに変わるんですね。主人公は理解できない女性たちに翻弄されることになります。未完で終わらせるほかなかった気がする作品でした。


織田作之助『青春の逆説』

 織田作らしい躍動感のある描写、6年間京都に通学していた私には京都の情景も懐かしかったのですが、一つ見過ごせない点が。主人公の性格やエピソードがスタンダールの『赤と黒』にそっくりではないか…。ネットで調べたところ、織田作はスタンダールに傾倒していたとのこと。
 私は長年海外文学ばかり読んできたので、海外文学に影響を受けた日本の作家も好きです。村上さんや大江健三郎さんなど。古いところでは、夏目漱石も英文学の影響を感じさせます。
 でも、彼らの作品は海外文学の影響を受けながらも、独自のオリジナルな作品に仕上がっています。
 織田作は、『赤と黒』をただ真似ているだけという気がします。
 少し前に読んだ堀辰雄の初期作品もプルーストやラディゲの文体模写という感じでしたしね。
 菊池寛の『真珠夫人』に至っては、冒頭部分がバルザックの短編とほぼ同じ。
 普通の人は海外の小説を読まないから、真似して書いても問題ない、ぐらいの認識だったのでしょうか。


岡本かの子『老妓抄』

 岡本かの子といえば、岡本太郎さんの母親であり、かなり奔放な人だったという印象でした。瀬戸内寂聴さん系の。恋多き女、晩年に仏教に目覚めたのも同じです。なので、作品も情熱的なのかと思っていたら、抑えの効いた、淡々とした文章でありながら、老妓の尽きぬ欲望を感じさせる作風でした。
 ちょうど、フォローしている檸檬さんがかの子について書いていらっしゃいます。

 檸檬さんが読まれた嵐山光三郎さんの『追悼の達人』によると、かの子は傲慢なナルシストとして煙たがられていたようです(性格のことがなくても、戦前の日本では奔放な生き方をする女性はみんな批判されていたと思いますが)。それを踏まえると、小説の老妓には作者自身が投影されているように思えます。
 己の欲望をストレートに出せずに、屈折した欲望を持て余しているような…。今なら、こじらせ女子と呼ばれそうな老妓と作者。といって、決して重い作風ではなく、大作を読む合間に、気分転換に読みたくなるような短編小説でした。


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