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『たこやき』 熊谷真菜・著

白ワインを片手に、たこ焼きを焼く。昔二人暮らしだった頃、彼が帰ってこない夜ひとり飯の定番はたこ焼きだった。再び一人暮らしになった今、好きなときに好きなだけたこ焼きが焼けるこの生活を愛している。

大阪出身の母は、たこ焼きを食事として認知していたが、たこ焼き機が食卓に並べられる頻度は1年に1度あるかないかで、大阪の一般的家庭と比べて少ない方だったかもしれない。
躾に厳しく、普段からぷりぷり怒っていることが多かった母が食卓にたこ焼き機を並べると、献立の決定権を持たなかった少女には、ダイニングがどこか非日常の空気をまとっているように見えた。

大人になった今、たこ焼き機と食材を自分で用意する。
焼き始める頃に、白ワイン、もしくは気分に合わせてスパークリングワインを開け始める。(たこ焼きは海鮮料理だから白)

スーパーの魚売場のゆでダコは、どれだけ小さいトレイのものを買っても1人たこ焼きでは余らせる。使命感でウインナーとキムチを用意するのだが、たこ焼きの具にしてもらえないことも屡々。野菜はみじん切りにしたキャベツか白ねぎ。アクセントには天かすと、一人暮らしに優しい小袋に小分けにされた紅生姜が欠かせない。


2023年が終わる頃
愛用機NITORIのたこ焼き機(20個焼き)が、せっせとプレートを温めてくれていた。変わり種具材は冷蔵庫で居残っていたkiriチーズ、小洒落た気分にお酒が進む。

大手たこ焼きチェーンの会長さんが、液を入れるより先に具材を焼くのが良いとテレビで言っていたのを思い出し、その手順を実行。キッチンに跳ねる油を見て、金輪際しないと決めた。

味付けはマヨ一味ポン酢と決めてポン酢を仕入れていたのに、たこ焼きソースをどっぷり掛けてしまい肩を落とす。

キッチンで焼き、その場で立ち食いをする。火照る口周り、熱をワインで流す。なんてお下品でひどく幸福な時間。一方仁王立ちするつま先はつめたく感覚を失っていく。
一人暮らし
マンションのキッチンは何故こんなにも冷えるのか。


たこ焼きを焼いた夜、積読の中から本書『たこやき』を手に取る。実はまだ8ページしか読んでいない。8ページ時点ここはまえがきで、たこ焼きの分類が書かれているまでだ。

「濃厚ソースをつけて、青のり、かつおの粉などをふりかけた、現在ではもっともオーソドックスな3番目こたこ焼きが、昭和20年代後半から30年代にかけて登場」とあり、自分が作る馴染のたこ焼きの歴史の浅さに驚く。

『たこやき』を読みながら
今は一人暮らしの日常と冷えたキッチンの床の延長にたこ焼きがある。

気を取りなおして、読み進めることにする。

購入した古書店店主より
亡くなったフレンチシェフの蔵書だったと聞く

著書の方がYouTubeをされていた!


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