広背筋、たたかう。
こどもというのはほんとうにワンダーで、大人では思いもよらないようなことをしたり、大人がとうの昔に忘れてしまったような感覚をとおしてこの世界を見ていることを教えてくれたり、かと思うとときにびっくりするくらい大人びたことを言ったりしたりして、日々接するわたしたち大人のことを驚かしてくれる。
過日、かれこれ2年目の付き合いになるそのちびっこと戯れあっていたところ、彼がふとポンポンと私のおなかを叩いたかと思うと「デブなんかきらいだ死んじまえ!!!」と吐き捨てて、走り去っていった。
「はぁ?」とか「おい!」とか言い返す間もないほどの早業だった。
虚を突かれた巨漢は、なすすべなくその場に立ち尽くした。
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たしかにこの3月から5月にかけて、関わっているお仕事が次々と山場を迎えるような格好で、なかなか以前のようにジムへと通えておらず、プロテインやクレアチンの類も飲み忘れるほどで(ちょうど今飲んでいるMyproteinのプロテインが美味しくないことも災いし)、各所の筋肉が萎み、それでも食事は元気に以前と同じくらいのテンションで食べているので、さすがにぷよぷよとしてきている実感はあったのだった。
しかしながら家族に「痩せたら?」と言われたり、長い付き合いの同期に至近距離から「デブ!!!」と言われたり「お前は今すぐカロリー制限をしろ」と真顔で言われても、正直ぼんやりとしていたのだった。
どちらかというと「100キロ」という体重を維持できていることの方が個人的には大切なのであって、その(筋肉量と脂肪量との)内訳が多少変わろうとも、まあ気にすることはないと思っていた。
そこへきてちびっこからの不意の「デブなんかきらいだ死んじまえ!!!」だったのだった。
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思えばその一瞬で悔しさや、哀しさや、さまざまな感情が去来したように思うが、私は大人なので、「うんうん」と落ち着いて息を吸って吐き、次の瞬間には「◯すぞ」という心持ちになっていた。
くれぐれも誤解しないで欲しいのが、「◯すぞ」と言っても決してそのちびっこの彼をどうこうするということではなくて、Teststeroneさんの言うところの、「『死にたい』よりも『殺すぞ』というメンタルでバーベルへ挑め」という、そういう文脈の「◯すぞ」であって、ジムへ行かないことで長らく思い出さないでいた動物的な衝動を、しかしそのちびっこの一言がきっかけとなって思い出したのだった。
それに、そのちびっこはわかっていない。
一度でも鍛えたことのある大人の筋肉にはマッスルメモリーというものがあって、その気になった大人が目の色を変えて週6でジムに通うようになると、その大人の筋肉は再びみるみると膨らんでいくのである。
私とて例外ではない。
シャイニー薊さんも「最短でデカくなるんだったらたくさん食って脂肪も乗せてデカくなった方がいい」と言っていた。
太りやすい人はインスリン感受性が高いので、筋肉もまた付きやすい。
食事制限なんてせずに、食べたいだけ食べ、トレーニングをすればどんどんデカくなる。
デカくなったら西海岸のマッチョアパレルのXXLとかを着る(円安で破滅的なダメージを受けている)。
そうしてついた筋量は抑止力としてあなたの身を余計な諍いから守る。
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そのちびっこの「デブなんかきらいだ死んじまえ!!!」という暴言が、私を再びバーベルへと向かわせ、デッドリフトをさせ、長らく怠けていた私の広背筋に再び血流を運び、膨らませ、またひとまわりデカくする。
サイズを取り戻した暁にはそのちびっこ(たぶん22キロくらい)を片手で掴んで持ち上げハンマーカールでもしてやればゲームセットである。サイドレイズでもいい。
それは(もちろん)冗談としても、そうした上で、「いきなり他人にデブなんて言っちゃだめなんだよ」「他の人の容姿を貶したり、リスペクトを欠くような言動はいけないんだよ」ということを、きちんとこどもたち一人一人に説いてわかってもらえるような大人としての働きかけを、きちんと積み重ねていきたいと思うのだった。
それがたたかう広背筋としての、私の果たすべき役割なのではないか、と。
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