見出し画像

「最近面白かった本ある?」という雑談の為の、覚書を作っている

ごくたまに「読書するんだ。最近面白かった本、何?」という会話の流れになる事がある。
すぐにその場がはけるようなシチュエーションだったらいい。だがまだまだ対峙する時間があったりすると、面白い本紹介してよ?的なプレッシャーを勝手に感じる。
私は読書家では無いので、勝手に焦る。
最近読んでない場合もあるし、本当に読んだ本が人に紹介する程でもなかった場合もある。
ほとんどの場合、相手は私の面白かった本など別に知りたくもなく、気を遣ってしゃべりやすい話題を提供してくれているだけなのだ。
でも、せっかく聞いてくれたのだから少しでも相手に有益な本を提示したい、と思ってしまう要らぬ自己顕示欲。自分には荷が重く不可能にもかかわらず、謎の気をつかってしまう。
その結果、私は咄嗟に言う本をいくつか決めている。のだが、何度も暗唱しないと割と忘れてしまい、たいていの場合 咄嗟に出てこない。
今日は、その暗唱の一環として
どういう人にどんな本を「最近面白かった本」として言うか
「どんな話?」と聞いてくれた人に何と説明するか
という体で書いてみました。

本はほぼ読まないと言う女子 フェミニスト

吉川トリコ  マリー・アントワネットの日記Rose/Blue/ベルサイユのゆり
現代にも通ずるあれやこれやを、トワネットちゃんが中2病な文体で断頭台に上がるまでに心の日記にした2部作+関連本。政略結婚の夫を自担って言うんだけど、チャラさの中に普遍的な感情や少女らしさが見え隠れして、泣けてきてしまうほどいじらしい。
子が欲しいのか母親からの承認が欲しいのか。母になって実母の気持ちを知る。承認欲求を友に求められる・求めてしまう事の、闇の深さ。集団心理の怖さと扱い方。恋と愛は違い、どちらが高尚という事でも無い。我が子の身を案ずる事は自分が死ぬより辛い。そんな事が書いてある。

映画好きな人 陰謀論が好きな人

伊坂幸太郎  ゴールデンスランバー
本が先で、後で映画を観たんだけど堺雅人さんは主人公・青柳過ぎる!
読書で初めて涙流して泣いた。国家や体制に絶対敵わない「平凡な個人」の主人公が、自分の命を守る為に闘った「武器が何か」っていうのが本書の胆。

塩田武士  罪の声
昭和の「未解決」劇場型犯罪、グリコ森永事件を、筆者が極力史実どおりに再現しつつの「フィクション」。本当にこうだったのではないか・・と思わせる。関西の地理感・株式・武力闘争・9人の実行犯とそこへ繋がる人物が多いとかとっつきにくい要素が色々あるが、その割に2人の語り手から難なく読める。主人公の姉が言う『人の親になって思うけど、普通の神経やったら自分の子どもをあんな事件に巻き込もうなんて考えへんよ』に尽きる。それが本の装丁になってる。

本当にあった怖い話、が好きな人

芦沢央  火のないところに煙は
最初の居酒屋のシーンで、ワクワクのあまり笑顔で(←私はね)まさかまさかと本書の裏表紙にルーペを当てる事になる。読んでる間中「えっ・・!」「いやーこれは・・嫌な予感がしますね・・」「マジか・・」などと独り言を言ってしまうくらい楽しい(私はね)。私が怖い話を好きなのはつまり体験していないからで、当たり前だけど怖い体験はしたくないのだけど、この本は作者がそこを飛び越えている為に、非常にリアルを「体験」し怖い。最後は本気で筆者を心配して、検索してしまうだろう。

情報に憑かれ疲れている人

貫井徳郎  壁の男
男が何故壁に絵を描き続けたのかの理由が書かれている本。「そのわけ」を読書前に想像し例えば当たりだよと教えられたとしてもそれは「ただの理由」であり「当人の物語を知る」事では無い。同じ結末を知っていても重さが違う。情報というものの軽さ安易さを、本書で理由を探る語り手のルポライターが最後まで謎解けず、読者にだけ明かされる手法で、訴えかけられている。

就活が終了している人

朝井リョウ  何者
婚活の苦悩なら辻村深月「傲慢と善良」就活の苦悩なら本書。。就活前に読むのはどうなんだろう・・参考になるのかな・・私が就活中に読んじゃったら、生き返る自信が無い。最初のシーンから主人公をなんだかきな臭いと思っていたが、そんな私に登場人物が「自分だけが解っているつもり?」と言い放ちそうだ。現実世界ではみんな自分の弱さを知っていて、人は人にもっと優しい。SNS時代の就活がそれを崩れさせるなら、過酷過ぎる。陰キャより陽キャが勝ち組。自己肯定感は高い方が勝ち組。承認欲求は恥ずべき事。価値観の決めつけに寒気がする。モラル内での承認欲求すら人間らしいと慈しめず馬鹿にするなら、もう人間やめてAIになればいいんじゃないか?と思う。

反戦

浅田次郎  帰郷
戦争小説は骨太だし、どういう経歴・育成の人が書いた「視点か」は調べたくなるし、感情移入までの人物描写が密密だし、ハッピーエンドはあり得ず疲労するしで、好んで手に取らない。だけどこの本は読みやすさも含めて一級品。6編すべてが素晴らしい物語、という短編集。戦争体験者でなくても反戦の心をこんなにも角度豊かに描けるという事は、受け取れもするのではないか。コロナをきっかけに世界が憂慮する方向へ向かわない為には、過去の「戦中・直後」を想う事も必要という気持ちになる。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?