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ショートショート:とある村の二月某日

 地図にも載らない、小さな島。その島の存在を知る者はごくわずか。
 その島の名は、鬼ヶ島…。


 二月某日。
 鬼ヶ島に一艘の舟が停まった。そこから五人ほど、人間の大人が降りてくる。全員、何やら大きな荷物を持っていた。
 舟の気配を感じたのか、島の内部から海辺へぞろぞろ集まってくるのは、赤、青、黒、さまざまな鬼たち…。
 人間たちと鬼たちは、無言で向き合った。
 最初に口を開いたのは、鬼たちの先頭にいる特に大柄な鬼の長だった。


「え、もうそんな時期ですか?」


 対峙していた人間のうち、いちばん歳上の男が答える。


「そうです。今年もよろしくお願いします」


 残りの人間たちが前に出て、持っていた荷物を開いた。そこには金銀財宝や、豪華な食べ物がぎっしり詰まっていた。


「よろしくお願いします!!」
 人間たちは、そろって頭を下げる。
 鬼の長は、人間たちと、人間からの贈り物を交互に見て、はあ~、とため息をついた。
「…やらなきゃだめですか?」
 すると人間たちは驚いたように顔を見合わせ、
「だめです!」
「あなた方がいないと!」
「あの儀式を経て、子どもたちは成長するのです!」
「今年もお願いしますよ!」
「ほんと、少しだけですから!一晩だけですから!」
 と、口々に言った。
 すると鬼たちも、
「でも~、本物じゃなきゃだめですか?」
「人間が鬼のお面かぶるとか」
「贈り物は嬉しいですけどね、痛いんですよ」
 と、不満を口にする。

「痛いって言ったって…。豆じゃないですか」
「それが、痛いんですって」
「でも子どもだし、そんなに強くは…」 
「いやいや。誰だっけ?あの学校のそばに住んでるクソガキ…、そう、あの小柄で坊主頭の、あいつが毎回本気で投げてくるんですわ」
「あの子はちょっと元気いっぱいで…」
「あと、いつだったか、どっかの保育園じゃ、怖がって泣いて、そのままひきつけを起こした子がいるでしょう。あんなの良くないですよ」
「ああ、あの子ね。あの子、春から立派な小学生なんですよ。鬼を倒してやる!って張り切ってます」
「へえ!もうそんなに大きく…、じゃなくて!」
「まあまあ。村のみんなが、楽しみにしておりますんで!どうかお願いします!」
 人間たちは、再び深く、頭を下げた。
「まあ、そこまで言われたら…」
 鬼の長がつぶやいたとたん、人間たちはぱっと顔を上げた。

「ありがとうございます!ではでは、さっそく出発しましょう!」
「え、ちょっと、」
「さあ!今年の節分も、盛り上がっていきましょう~!!」
「えぇ…」



 とある島の、とある村。
 そこの節分の豆まきには、本物の鬼がいるとか、いないとか…。






※フィクションです。
 某大人気鬼退治系マンガ(アニメ)、一か八か豆投げつけたら勝てるんじゃね…?とか考えてしまったことがある方、仲間です。






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