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白昼夢:素敵なクリスマス

 どうも、トナカイです。赤鼻のトナカイというやつです。嘘です。本当は中古の赤い軽自動車です。ご主人の都合で、今日だけ赤鼻のトナカイということになっています。

 お察しの通り、私が赤鼻のトナカイということは、ご主人はサンタクロースということです。今日だけ。
 ご主人は大学二年生、先月二十歳になりました。私とは約一年の付き合いです。まあ中古の分際でいろいろ言えないんですけど、ご主人はなんというか、あんまりパッとしない、イケてるかイケてないかでいうとイケてない方です。優しいんですけどね。
 そんな彼は、私と出会い、半年くらいはご友人を乗せたり重いものを買ったりしたときに使っていらしたのですが、ある日を境に女性の方をとっかえひっかえ乗せるようになりました。たいした距離でもないのに大学まで車で通ったり、街まで買い物に行ったり、夜中に急に出ていったり。
 彼、恋愛対象は女性なものですから、心配しましたよ。次々と遊んでるんじゃないかとか、倫理的に良くないことになってるんじゃないかとか。
 でも、どうやらそうではないようで。
 簡潔に申しますと、良いように使われていた、今の人がこの言葉を使うかはわかりませんが、便利な『アッシーくん』だった、というわけです。
 変に遊んでいるよりは良いとは思うのですが、気の毒でした。でも彼、そんなに悪い気はしてなかったようですね。むしろ、自分の優しさ(優しさと呼べるのか?)に酔っているようでありました。嗚呼、切ない。そういうところがかえって気の毒なのです。

 しかし、それからしばらくして、三ヶ月ほど前からでしょうか。同じ女性ばかりを乗せるようになりました。
 私の記憶が正しければ、その方は彼がとっかえひっかえしていた女性陣のなかにはいなかったと思います。ちょっとばかし気が強いですが、うじうじしたところのある彼とは相性が良いんじゃないでしょうか。

 何度か私に乗ってデートに行きましたよ。海へ行ったり、夜景を見に行ったり、あてもなくドライブをしたり。
 彼の歯の浮くようなせりふも聞きました。彼女がそれを笑ったりせず、真面目に顔を紅らめたりしていたので、案外彼女も経験が浅いのかもしれません。
 その先にもいろんなことをしておりましたが…。
 ま、プライベートなことですし、ここから先は秘密です。彼らのためにもね!

 さてさて、本日限定でサンタクロースになっているご主人がやって来ましたよ。あれは新しいダッフルコートですね。よく似合っています。骨格に合うんでしょう。髪も切って準備ばっちりです。
 何やら可愛らしい紙袋を持ってますね。彼女へのプレゼントです。おそらく、ネックレスかな。助手席前のグローブボックスに入れました。なかなか粋なことをしますね!

「よし」

 小さく、ご主人がつぶやいてエンジンをかけました。
 いざ、彼女の家へ!
 ガソリン満タン、安全運転でいきましょう。ハンドルさえきちんと握ってくれたら、あとはお任せあれ!

 ご主人と恋人が、素敵な夜を過ごせますように。メリークリスマス!!

 以上、赤鼻のトナカイ(本日限定)でした。







 

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