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痩せたガールの日常。【ショートショート】

「聞いて!また痩せてた!500g!」

 始まった。定例のダイエット報告会。水分が減っただけだろうと思ったが、口に出したらシバかれる。私は黙って話を聞くことにした。
 彼女達3人は常にカロリー&体重と戦っている。恐ろしいのはそれだけではない。なんとグループチャットまで組んで、そこで昼食以降に食べた物の内容を報告する義務があるのだ。しかも、その義務は全員が目標体重を達成するまで抜けられないという、さながらパーソナルジムのような地獄。私からすると考えられない拷問縛りプレイである。
 しかし、昼食については基本的に職場で一緒に食べるため報告の義務はなく、夕飯を減らす分、昼の食事量は自由という緩みもある。ストイックなのかそうじゃないのか、ダイエットは緩急なのだろうか。

 サトミが休みの今日は残りの2人で定例会を行っていた。

「サトミ絶対夕飯以外にも食べてるよ。夕飯あんだけとかありえないもん」
「だよね、絶対体重も変わってないよ」
「自分が一番細く見えるからって調子乗ってるんだよ絶対」
「私なんてほんの少しだけしか食べないで、ちゃんとしてるのに」
「分かる、ナナはすごいよ、あの量だけとかヤバいもん」

 体重については週一程度で3人揃った時に体重測定を行い虚偽の報告がないよう徹底されている。つまり、それまではそれぞれの体重は明かされていない。
 まだ測ってもいないのにサトミは食べているだの、体重が減っていないだの決めつけては盛り上がっている。彼女達の会話には根拠のない『絶対』が常に横行している。そんな彼女達は互いに味方なのか敵なのか、励ましあっては貶しあう。

 理解の及ばない領域の外で私は敵意だけを向けられていた。

「サヤは板だもんね。食べても太らないとかマジムカつく」
 ナナはそういうと怪訝そうにこちらを睨む。嫌味は呼吸のごとし。
「まぁ、あんまり食に欲がないから」
 私は適当に返した。
「サヤって何を楽しみに生きてんの」そう言うと、ナナは返事も聞かず「なんかうざっ」と呟き、2人でまた話し始める。

「てかさ、私、最近全然痩せない」
「えー、なんで?停滞期?」
「なんでだろ、おかしくない?」
「夜あんだけなのにね、絶対おかしい」

 私はこの会話を聞きながら心の中でツッコミが耐えない。どう考えても、運動もせずに昼にあれだけ自由に食べていればなかなか思い通りに痩せはしないだろう。
 以前私は、そんなに痩せたいのなら座って話している今の時間とか家でのスキマ時間にちょっとした運動でも取り入れてみたらいいじゃんと提案したことがある。
 しかし、ナナからの返事は、なぜ仕事で疲れた後、束の間の空き時間にまでキツい事をしないといけないのか、家では子供の世話でそれどころではない、あんたは独りだし痩せてるから余裕があるもんね、など。案の定、言い訳と吊し上げ祭りだった。

 今回も相変わらず、本当に痩せる気ある?と思ったが言わないでおいた。
 私が思うに、痩せたガールの日常は言動の多くがどこか矛盾している。



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今回のお題
▶︎青ブラ文学部さん『やせたガールの日常』


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メインの小説はどうでしたか。

この後にデザートでもいかがですか。

ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『もう何も言わない。【デザート】』を読んでみてください。

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