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読書感想 『その働き方、あと何年できますか?』 木暮太一 「生き方まで、問われる本」

 この著者の本は何冊か読んでいた。

 自分の理解の範囲内で言えば、少し色合いの違うビジネス書、というイメージだった。

 それは、読んだ時に、根拠のない元気ややる気が出てくるけれど、次の日には、その内容ではなく、その気持ちだけが残り、だから、何かの時に、また同じ著書の違う本を読みたくなる。そういうよくあるパターンではなく、もう少し違う感触があったせいだ。

 それが、どういうことなのかが気になっていたのだけど、今回、この本を読んで、その理由が分かった気がした。

『その働き方、あと何年できますか?』 木暮太一

 こうした「働き方」について書かれた本は、大体、現場について分析し、それでうまくいかなくなった(主に日本)理由を述べ、その上で、これから個人としてどうしていけばいいか?そんな流れで構成されていることが多い。

 この本でも、その章立てを並べると、その基本に則っているのが分かる。

第1章  生産性が向上したらあなたの「給料」は上がるか?
第2章  ぼくらが目指してきた「正解」が消えた 
第3章  なぜ、ぼくらは「仕事の目的」を失ってしまったのか? 
第4章  なぜ、「熱意あふれる社員」の割合が5%なのか?
第5章  ぼくらの働き方は誰が決めるのか?
第6章  こんな時代だから、フロンティア・ニーズがある
第7章  やりがいなき時代に「自己生産性」を上げる
第8章  よいシナリオを持てば、今が変わる

  ただ、これまでの類似書と違っているのは、オーソドックスに見せかけて、かなりラジカル(根本的)にも思えるような指摘や分析や提案があるからだった。

 表紙や、タイトルや、章立てや、文章の気配からは、最初はそこまで感じられなかったものの、読み進めていくと、「働き方」にとどまらず、「生き方」まで考えざるを得なかった。

生産性を上げること

 例えば、第1章で「生産性」について、こうした言及がある。

 生産性を上げろ・効率を上げろという号令は至極まっとうで、サラリーマンはそれに反論できません。ただし、企業が掲げる「生産性向上」は、単なるスローガンで、そもそも生産性の定義が明確にされていないし、生産性を計る指標もあやふやなケースがとても多いです。つまり、ゴールがアバウトなのです。これでは仮に生産数量を増やすことができても、同じ仕事を短時間でできるようになったとしても、本当の意味で生産性が上がったかどうかはわかりません。

「生産性」という言葉を聞いて、反射的に思ってしまうのは、日本の生産性の低さと、その理由と、どうすれば上がるか?といった流れが待っていると気持ちが構えてしまうのだけど、この著書では、そこへの疑問を、まず指摘している。

ぼくらが仕事をするのは、最終的には(身近にいる大事な人も含めて)自分のためです。自分のゴールが最初にあり、それを叶えるために手段として企業に就職したり、自分でビジネスをするのが本当なわけです。言われてみれば当たり前のことですが、この視点が抜け落ちている議論を頻繁に聞きます。

 そうした指摘から、「自己生産性」を上げるための具体的な要素の話に進むのだけど、そこから、さらに、あちこちに潜んで、気がつきにくい「先入観」。もっと言えば「洗脳」に近い状況にあることの指摘にも進んでいくところで、一般的なビジネス書とは、かなり違うことに気がつかされる。

「仕事の常識」への疑念

 第4章では、諸外国と比べ、「熱意あふれる社員」が目に見えて低いことの理由に対しての「仮説」が並べられていた。

 それは、きちんとした数字としての根拠はないのかもしれないが、長年、企業に勤めてきた著者の経験も含めて、意外だけど、言われてみると説得力がある「仮説」だった。

 その一つとして、日本人の中には、好きを仕事にすることが、許せない感覚があって、その上で、「汗水たらして働くことが善」という価値観が残っていると指摘している。

 ぼくらの中には、「お金をもらうためには嫌なことをしなければいけない」という前提があるとキリスト教の影響のところで述べました。みんなが嫌がることをするのが「仕事」である、みんなが好んでやるようなことは仕事ではない、という前提です。 
 特に日本企業の場合、会社の指示には従わなければいけないケースも多く、「業務命令」と称して異動や転勤を本人の意思とは無関係に課してきました。世の中に必要なことをしたり、誰かの役に立ったりすることではなく、会社の指示に従うことを「仕事」として捉えている人も多いと感じます。そして、会社から与えられた業務命令には意味を考えずに黙って従うことが求められている感があります。

 これはもはや仕事でも就職でもなく、「懲役」だと思うのです。
 ぼくら会社員は服役している。そして服役しているあいだ、「食事」や「家」を提供してもらう代わりに、看守である上司や会社の言うことを聞いて働かなければいけない。
 そんなイメージがぴったりではないでしょうか?
 仕事はしんどいものという前提を持ってしまうと、有益なこと、重要なことであっても、それを楽しんでやっているならば、それは仕事ではなくなります。だから、楽しくて自分が積極的にやりたいと思っていることをしてお金をもらうのは、「仕事をせずにお金をもらっている」ということになり、後ろめたくなります。
 だから、自分の好きなことを仕事にはできなくなってしまうのです。

 ここまではっきりと述べられると、抵抗感がある人も多そうだけど、薄々気がついていたことを、具体的な言葉にしてもらえると、知らないうちに、本当はそれほどの根拠もなく、縛られていた価値観を見直すこともできる、と思う。

知らないうちに選ばされている「やりたいこと」

 そうした無意識のうちに、信じていた感覚が、実は、知らないうちに選ばされている=マジシャンズセレクトなのではないか、という著者の指摘の中で、恥ずかしながら、個人的には「はっ」と音がするくらいの思いになったのは「年収1000万円」のことだった。

 日本では、年収1000万円が高給とりのひとつの目安になっています。

 ぼくらはこうやって自分で道を選んだように思わされています。これのどこが「選んだように思わされている」のか?何を選ばされたのか?
 それは会社員として生きる道です。ぼくらは「その人」から、会社員になる道を選ばされたのです。どうやって?[年収1000万円≒お金持ち]という基準を与えられることによって、です。 

 多くの人がイメージするお金持ちになるためには、ぼくらはたとえば年収3000万円にならないといけません。でも、そうなっては困る人がいるのです。ぼくらが年収3000万円を目指すと困っちゃう。
 なぜか?年収3000万円は、サラリーマンでは目指しても達成できない金額だからです。

 日本のどこかに、ぼくらは会社員でいてほしいと思っている人がいて、その人がお金持ちの定義を勝手につくり、そこを目指すかどうかの問いかけをしてきます。
 ぼくらはお金持ちになりたい!お金持ちになるために頑張る!と自分で意思決定したつもりでいますが、同時に会社員で居続ける選択をさせられているわけです。

 とても個人的な経験なのだが、ある会社に入社したときに、その業界の中では給料が低い方だった。その上で、社内で言われていた目標が、「40歳で年収1000万円」だった。それは、今から考えたら、高給かもしれないが、実際に実現したかどうかは、1年半で退社してしまったので、分からない。

 ただ、問題は、かなり昔から、「年収1000万円」は実現可能な目標として、掲げられていたのを覚えていることだ。

 それを、「誰か」個人が考えて、広めた、ということをあまり考えすぎると、「陰謀論」のようなものに引き寄せられるようで危険な部分はあるにしても、少しでも冷静に考えると、「誰か」もしくは「ある人たち」の意志が働いていると思えるほど、「年収1000万円」は目標になっていて、それは、確かに、会社員だけが働き方だと信じこまされていることと、結びついているように思える。(最近で言えば「人生100年時代」という言葉も何かしらの意図は感じる)。

本当に望んでいるもの

 そして、著者は、この「誰か」を糾弾するのではなく、もしくは、その「誰か」の正体に言及するのではなく、その上で、「どう働くか」だけではなく、「どう生きるか?」といったテーマに迫っていく。

働き方以外でも、ぼくらは誰かが提示した選択肢から選んでいます。

「将来の夢は?」という質問さえも、その時点で成立している活動や職業しか選べません。

 ぼくらが本当に意識しなければいけないのはこのポイントにあります。与えられた選択肢を無視して、本当に望んでいるものに意識を向けませんか?それこそがやりたいことを実現させていく唯一の道だと考えています。

 その「本当に望んでいるもの」を、著者は「フロンティア・ニーズ」と名づける。

 ぼくらはこれまで手づかずだった「フロンティア・ニーズ」に向かうべきです。
 フロンティア・ニーズとは、「こういうことをやりたけど、もしかしたら否定的意見があるかも……」と躊躇して手がけてこなかったニーズです。つまり、前からやりたいと思っていたけれど、存在は知りながら手をつけてこなかったニーズを取り扱うということです。そこにぼくらの新しい道があります。

 ここから、さらに、その「新しい道」をどう歩むか?といった話に進んでいき、その上で「自己生産性を上げる方法」にも迫っていくのだけど、かなり有効に思われる方法もあげられているので、興味を持った方には、ぜひ全体を読んでほしいと思う。

 読み終わる頃には、自分自身の、これまでと、これからのことについて、おそらくは考えざるを得ない思いになっているはずだ。

おすすめしたい人

 すべての、日本国内で働いている人に、読んでもらいたいと思っています。

 特に、今、こういう働き方でいいのだろうか?と感じている人には、必読の書籍ではないでしょうか。

 さらには、これから働こうとしている人にも、前もって知っておいた方がいいような内容だと思います。


(こちら↓は、電子書籍版です)。



(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




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