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あの頃、まだ欧州を知らなかった頃に知ったこと。

若い頃はずっとアフリカへ行きたくって、それが人生の夢だった。

だから結婚も子供も30を過ぎてからでいいと思っていた。
反面、女性にはリミットが有り「26歳が子供を産むには心身共にベスト」という説を聞いて、その26の年は特別な思いで過ごした。
ちょうど母が私を産んだのも26歳だったし、何か特別な気持ちになったりした。

当時の私は東京でナース6年目。
日々は仕事に追われ過ぎてゆく一方で、その先のことも考え出していた頃だった。

27歳で看護師を一旦辞めて、英語を学ぶために海外に留学をしたいと思い始めていた。
就職してから死ぬほど勉強して働いてきたので、燃え尽きる一歩手前だった。
だから心身両面で出産に適した年齢だと知っても、その時の私にはそれは全く遠いものだった。

西アフリカはリベリアで、将来の夫になるひとを見つけて、実際に一緒になるまで3年以上あった。
何度かのスッタモンダのあと、これが最後と思ったときに、
「ちゃんと顔を見てお別れしたい」
と思って、苦労して周りを説得しドイツまで訪ねて、それから直ぐに傷心でポルトガルへ行った。

リスボン

友人の義弟がポルトガルのポルトいう街に住んでいるので、そこに厄介になることになった。
いわば成り行きの形で、妙齢の女が初対面の男性のアパートに泊まらせて貰うのはどうかと思ったが、まぁヨーロッパではこういうのもアリかも知れないと思いつつ半ばヤケでもあった。

その人はジャックといって痩せた赤毛のカメラマンで、当時30代の始めくらいだったと思う。
第一印象はなかなか奇妙だった。
デトックス中といって美味しくないゴリゴリした数種類の生野菜と何かの穀物が入っている特大のサラダボールを抱え、それらをワシワシと食べていた。

「歯の詰め物に水銀が混じっていてね。身体の調子がすごく悪くなってさ。それで生活全般見直し中なんだ。詰め物は全部取り替えて肉食は止めて、今はこのサラダだけ食べてるんだ」

で、デトックスをしているのだそう。

その当時、まだあまり「デトックス」というのが一般的ではなかったので、本当にその野菜のみを食べ続けるジャックには驚かされた。
マリファナも若い頃は吸いまくったから、今はキッパリ辞めた、とも言っていた。

友人ソフィアの父親の再婚相手の連子がジャックで、二人には血の繋がりもないし一緒に暮らした時間も短いものらしいが、ある種の絆があるようだった。
ソフィアは彼を“マイ ハーフ ブラダー”と呼んでとても愛しそうに彼の話しをしてくれて、それで会いに行く気になった。

ソフィアの友人ということで、気軽に家に泊めてくれポルトの観光案内もつとめてくれた。
彼と飲んだ緑のワインの印象が未だに心に残っている。

彼は広告の写真も撮っていて、地元では割と名の知れたカメラマンだった。
そんな彼に聞いたことで印象的なことがあった。

「カメラマンをしてたら、日々綺麗なモデルさん達を目にするでしょう?だったらリアルでも女性を見る目が変わらない?」「目が肥えてしまうことってない?」

それに対しジャックは、

「現実にポスターにあるような女性は何処にもいないんだよ。アレは作りあげられた虚像みたいなものだから」

そう大して興味が無さそうに呟いた。

“そうか...虚構とリアルを知って見極めるって大切なんだな”

モデルを見慣れている彼の横にいるのは、何となく自信がなく気恥ずかしい感じがあったので、そう聞いてホッとしたのを覚えている。

若いプロのカメラマンの言葉は、割と深く私の心に残った。あれから15年くらい経つが、その言葉の意味が年を経るごとに解るようになった。

一緒に歩いていて
偶然目に入った彼が撮影した広告のポスター



私が知り合う人は、割と人との垣根が低い人が多かった。

ソフィアもそうだったし、MSF(国境なき医師団)でごく短期間一緒に働いたスペイン人外科医ダビッドもそんな人だった。

ソフィアとその友人と私の4人がバルセロナの彼のアパートを自分の不在時に使って良いよ、と鍵を渡してくれた。
自分の不在時に他人が、それもほとんど知らない人が泊まっても気にならないなんて...と当時はかなり驚いた。
欧米はプライバシーを大事にするものだと思っていたが。
日本人的感覚からしたら、自分の家に自分が居ない時に勝手に使って良い、というのはなんというか“心の自由さ”とか“寛容さ”を感じさせた。

それから15年経って、私達が夏休みで里帰りしている時期に友人と彼女の子供達で、うちに泊まりに来たら良いよ、と自然にオファーしていた。
友人の事情を聞いての提案だったが、彼女が私の居ない時に家を使うことに何も抵抗はなかった。

(ただ細部は見ないでね、散らかしているから...と忠告はしようと思っていた)

結局は提案だけで実現はしなかったのだが。

ふとダビッドやジャックのことを思い出した。
彼らは今頃どうしているのだろう...?

ダビッドはその後、カナリア諸島に移り住んで一緒に暮らした女性と別れた、というのは何年か前に聞いていた。

ジャックは、2008年に世界旅行に出ていて、その頃にメールのやり取りが少しあっただけだ。
私が出会った時はデトックス中で、そして、長年の母親との確執に苦しんでいた。
精神的にとても脆く繊細なものを抱え、それらと折り合いをつけていこうと葛藤しているのを、少しだけ一緒にいた期間にも感じられた。

今も時々思い出す。
二人とも幸せでいてくれたらいいな...と思うし、いつか再会してみたい。
お互いに話すことが山ほどありそうだ。
そしてその時に、居候させてもらったことや、部屋を勝手に使わせて貰ったお礼を、もう一度伝えたいと思う。

子供を持つことについ思うことを書こうと思いながら話が脱線してしまった。

長くなるので今日はこの辺にしよう。

他人の家で悪ふざけする女達
一番後ろがDavidでその前がSophia
Davidが飼っていたコリーと若かりし頃

最近思うのだが、、
脳内の自己イメージがこの辺で止まっている
“更新しないとヤバいでしょ!?”
という囁き声が聴こえて来る...


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