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近づく夏の中

太陽が沈みゆく時。
高台から見た遠くの山々には重い雲が覆いかぶさっていた。
富士山も今日は、その雲に隠れている。そのあたりは雨だろうか。
ここは晴れていて、暑さを含んだ風が半袖から露わになる肌を撫でていく。気持ちの良い夕方である。
夏はもうすぐである。
青暗くなって、それも過ぎて、あたりは暗くなった。
暖かい風が庭へと吹き込み木を揺らし、洗濯物を落としていく。
汚れたシャツを溜息まじりで洗濯機の中へと放り込む。
風は止まないで、また洗濯物を揺らし落とそうとしている。
部屋に戻り窓を開けるが、カーテンは揺れない。
部屋には風が入ることはなく、ただ暑い空間ができていた。
眠るか。
扇風機を回すが暑い風が次から次へと当たるだけで布団から足をはみ出して上を見る。
何か眠気を誘い涼しくなるものはないだろうか。
そう考え、怪談をyoutubeで流す。思ったより恐ろしく、また聴き入ってしまったため余計眠れなくなった。
暑いのにも関わらず布団をよくかぶる。
その時、カーテンの合間から見える網戸が目に入り、そこにこの世ならざるものが立っているとしたら、と余計な想像が頭の中に浮かんできて目をつむる。
暑い暑い、心を落ち着かせるために深呼吸をする。
そうすると眠気が段々と、そして深い状態へと心と体が入り込んでいった。
気付くと夢の中へと入っていた。
私は懲役30年の囚人になっていた。何があったんだ。
刑務官が
「たった30年じゃないか」
と言った。
確かにたった30年じゃないか、と私は思ったが、よくよく考えて恐ろしいことに気づいた。
ほとんどの若い時代をつぶしてしまっているじゃないか、と。
私は、この妙に嫌な夢を、覚えてはいないが、長い時間見ていたように感じる。
起きた時、汗で体が濡れていた。
何をやらかしたんだ自分。
とにかく暑さのせいで、こうなってしまった。
夏の近づいているのを実感した時だった。


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