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「未来へのコンパス」になるノンフィクション小説

ノンフィクション小説は、重くて渋くて硬い。そんなふうに思って生きてきた。多くの作品を読んできたわけではないのに、偏見だったと思う。好みの問題もあった。わたしは昔から小野不由美さんや上橋菜穂子さん、乾石智子さんのファンタジーがすきなのだ。

わたしの意識を変えたのは、川内有緒さんの小説たちだ。「企画メシ」という現在通っている講座で川内さんが講師として登壇されると知って、6月の終わりに書かれた本をできる限りAmazonで購入した。ノンフィクションへの興味というか、とことん調べて学びたいという気持ちだった。

購入した本がこちら。

家で、電車で、お昼休みに、ときには歩きながら、とにかく読んだ。一度、8月2日には会社へ向かう途中の道路で転んだ。ながら歩きはよくない。でも周りが見えなくなるくらい、読みはじめるとのめり込んで、夢中になった。

川内さんのノンフィクションは、読んでいるじぶんのなかの好奇心がくすぐられる。散骨をする人びとを描いた作品「晴れたら空に骨まいて」でさえ、暗く重いものではなく、生者と死者をユーモアをもって照らし、それぞれの生きかたの輪郭をやさしく浮かび上がらせる。

アメリカの大学に通って、フランス・パリの国連機関で勤務した経歴をもつ川内さんを含め、作品の登場人物は魅力的で出会ったことのないような人びとばかり。じぶんとは遠い生きかたをしている人びとなのに、その想いや意志が、からだのなかに入り込み、心の泉を満たしあふれ出す。じぶんはどう生きようか、と静かに明るく考える時間をくれる。

講義のなかで、「取材したくなる方って、どんな方なのか?」という質問に、川内さんはこんなふうにおっしゃっていた。

そのひとが有名かどうかでなく、常識から外れているひとに惹かれます。自分の中の自由さを失ってない部分に共鳴する。
「このひとを追いかけたい」と思う。

本を読んでいたわたしは、じぶんのなかの自由を発見し味わっていたのだと、お話を聞いていてわかった。

直接講義でお会いした川内さんは、わたしが本のなかで出会った川内さんと同じだった。自然体で、好奇心が瞳にきらきらと表れていて、発言には裏表がなく、やわらかくも強い意志をもち、ユーモアも兼ね備えている。

取材の仕方や、書き方、構成など、さまざまなことを丁寧に教えてくれた川内さん。講義のあとに「あの本の構成がすきです」と伝えると、「あれもノンフィクションの一つの型なの。いろいろ読んで、型をじぶんのものにするとおもしろいと思う」と微笑んで教えてくれた。どんな質問にも、わたしたちと同じ目線まで何気なく降りてきて答えてくれる。

ああしたい、こうしてみたい、と思いがむくむく入道雲のように湧いてくる。

わたしは今年に入って、もっとインタビューをしていきたいなあと思うようになっていた。ほぼ日の塾で、じぶん1人でインタビューコンテンツをつくったことが大きなきっかけだ。

インタビューならなんでもいい、というわけじゃない。コピーライターをしていてインタビューをすることは少ないけれど、いままでの経験から、一問一答のような形式は嫌だなあと思っていた。
今回、講義の課題のノンフィクション作品を書くときも、質問リストはつくらなかった。ただ、頭のなかで「インタビューするひとは、こんなことを考えてるんじゃないかなあ」と妄想して仮説を立てて、インタビュー時にはふつうになにも持たずに、ボイスレコーダーをまわしながら、ごはんを食べて話をした。

川内さんも質問リストをつくるようなやりかたはしないと話していた。

一回の取材で聞けることは限られてます。いちばんいいのは、二回、三回とおしゃべりを続けていくこと。そうして取材っぽくなく話を聞いていく。わたし自身も取材を受けるけど、質問リストは違和感を覚えます。インタビューはお互いに時間を楽しもうとする姿勢が大事。情報を奪うカタチではなく、対話を楽しんでいく。

「それはすきなやりかただ!」とわたしは受講しながら興奮していた。川内さんに取材されるひとは、彼女の雰囲気で話しやすいだろうし、楽しい時間を過ごせるだろうなあと思う。

ほぼ日でやらせてもらった記事のカタチもおもしろいけど、ノンフィクション作品というカタチで表現するのも、とってもおもしろい。こういう表現の仕方があるんだ! と新しい選択肢をもらったような気持ちだった。

企画メシを受講しているひとは、これからの人生をどうしていくか、悩んでいるひとも多い。「国連機関からフリーの作家に転身をしたときに迷いはなかったのか」と質問された川内さんは、こう答えた。

生活は厳しくなるかもしれないけど、人生全体のスパンで考えて「おもしろかった」って振り返れるようにしたい。1、2年の短いスパンで考えずに、じぶんがわくわくする人生を選びました。
失われていく未来のほうが怖かったです。

作品通りのひとだなあ、とうれしくて仕方がなかった。未来へのコンパスになるような講義で、興奮がまだ冷めない。「どちらへゆけ」と指図するようなものじゃない、じぶんの心の行きたい方角を指し示すコンパス。

そして川内さんの作品自体がまさに「未来へのコンパス」なのだと思った。

このnoteは、個人的な感想が多くて講義レポートとも呼べないし、読書感想文でもないものになってしまった。でも、わたしのいまの気持ちがあふれている。ノンフィクション小説がこんなにも楽しいのだという気持ちと、じぶんにとって新しい表現に出会えたよろこび、そして川内さんの本のなかで出会った人びとからもらったわくわく。

ふだんわたしのようにノンフィクション小説を読まないひとにも、川内有緒さんの作品を読んでみてほしい。きっと多くのひとの「未来へのコンパス」になるから。

さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。